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相続が起きたとき、「自分の取り分(相続分)を、ほかの相続人や第三者にそのまま渡したい」という場面があります。これを相続分の譲渡といいます。遺産分割がまとまらないまま早く相続関係から抜けたい方や、実家を継ぐ人に持分を集約したいご家族などが利用する方法です。この記事では、司法書士が、相続分の譲渡とは何か・相続放棄や相続分の放棄との違い・相続分譲渡証書の書き方・譲渡があった場合の相続登記の手順・かかる税金(贈与税・譲渡所得など)、そして第三者へ譲渡した場合の取戻権の注意点まで、一般の方向けにわかりやすく解説します。
● 相続分の譲渡とは:遺産分割が終わる前に、自分の相続分(遺産全体に対する持分・地位)を、ほかの相続人や第三者に渡すことです。対価を受け取らない「無償」と、対価を受け取る「有償」のどちらも可能です。
● 相続放棄との違い:相続放棄は家庭裁判所への申述が必要で、期限は原則3か月以内。借金(債務)も含めて一切引き継ぎません。相続分の譲渡は当事者の合意だけででき、期限は遺産分割が終わるまでですが、債務は免れません。
● 相続分の放棄との違い:相続分の放棄は渡す相手を選べず、ほかの相続人へ相続分に応じて自動的に移ります。相続分の譲渡は、特定の人(譲受人)を決めて渡せます。
● 債務に注意:相続分を譲渡しても、相続債権者に対しては借金(債務)を免れません。請求されれば支払い義務が残ります。
● 取戻権:共同相続人の一人が相続分を第三者に譲渡したとき、ほかの相続人は価額・費用を償還して取り戻せます(民法第905条・行使は1か月以内)。
● 相続登記の方法:ほかの相続人へ譲渡したときは残りの相続人で直接相続登記。第三者へ譲渡したときは、相続登記をしてから持分移転登記をする2段階になります。
● 税金:相続人どうしの譲渡は有償・無償とも原則として相続税の枠内で考えます(所得税はかかりません)。第三者へ譲渡した場合は、無償なら贈与税、有償なら譲渡所得(所得税)が問題になることがあります(税務は税理士にご相談ください)。
相続分の譲渡とは、遺産分割が終わる前に、自分の相続分を、ほかの相続人や第三者に渡すことをいいます。相続分とは、預貯金や不動産などのプラスの財産(積極財産)だけでなく、借金などのマイナスの財産(消極財産)も含めた、遺産全体に対する各相続人の割合的な持分・法律上の地位のことです。個別の不動産や預金を渡すのではなく、「遺産全体に対する自分の取り分という地位」をまとめて渡す点が特徴です。
相続分の譲渡そのものを正面から定義した条文はありませんが、民法は、相続分が譲渡されることを前提とした規定(取戻権を定めた民法第905条など)を置いており、実務でも古くから認められてきた方法です。遺産分割協議に参加する相続人が多すぎて話がまとまらないときや、特定の人に持分を集めたいときなどに使われます。相続人が大人数で協議が進まない場合の整理方法は、相続人が多すぎる場合の解決策のページもあわせてご覧ください。
相続分の譲渡には、対価のやり取りの有無によって2つのパターンがあります。
無償か有償かによって、後述するかかる税金が変わってきます。譲渡証書にも、無償か有償か(有償なら対価の額)を明記します。
相続分は、ほかの共同相続人にも、第三者(相続人以外の人)にも譲渡できます。たとえば、配偶者や子といったほかの相続人に渡すこともできますし、相続人ではない親族や知人に渡すことも可能です。ただし、第三者に譲渡すると、後述の取戻権の問題や、面識のない第三者が遺産分割協議に加わることによる手続きの複雑化が生じることがあります。
譲渡できる期間は、遺産分割が終わるまでです。遺産分割が完了すると、各相続人が取得する財産が確定し、「遺産全体に対する相続分」という考え方そのものがなくなるため、その後は相続分の譲渡という形はとれません。
「相続から抜ける・取り分を手放す」方法には、相続分の譲渡のほかに、相続分の放棄と相続放棄があります。名前が似ていて混同されがちですが、手続き先・期限・債務(借金)の扱い・効果がそれぞれ大きく異なります。下の表で整理します。
3つのうち、借金(債務)を免れられるのは相続放棄だけです。相続放棄をすると、はじめから相続人でなかったとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継ぎません。一方、相続分の放棄も相続分の譲渡も、相続人としての地位は残るため、相続債権者(お金を貸していた側)に対しては、借金の支払い義務を免れません。「相続分を渡したから借金からも解放される」と考えるのは誤りです。借金が多く相続そのものから抜けたい場合は、相続分の譲渡ではなく相続放棄の手続きを検討してください。
相続分の放棄と相続分の譲渡は、どちらも遺産分割の前に取り分を手放す方法ですが、取り分が誰に移るかが異なります。相続分の放棄では、放棄した人の取り分がほかの相続人へ各自の相続分に応じて移ります(渡す相手を選べません)。これに対して相続分の譲渡は、渡したい相手(譲受人)を指定してその人だけに移すことができます。「この人に集約したい」という希望があるときは、相続分の譲渡が向いています。なお、相続分の放棄は、その後の名義変更(相続登記)の手続きが複雑になりやすいため、実務では相続分の譲渡や遺産分割協議で対応することが多い手段です。遺産の分け方としては、ほかにも代償分割(特定の相続人が不動産を取得し、ほかの相続人に金銭を支払う方法)や換価分割(遺産を売却して代金を分ける方法)といった選択肢もあります。
くり返しになりますが、相続分を譲渡しても、相続債権者に対しては借金の支払い義務を免れません。譲渡人と譲受人の間で「借金も譲受人が引き継ぐ」と取り決めても、それは当事者間の約束にすぎず、債権者の承諾がなければ債権者には主張できません。借金が多いケースでは特に注意が必要です。
共同相続人の一人が遺産分割の前に相続分を第三者に譲り渡したときは、ほかの共同相続人は、その価額および費用を償還して、その相続分を譲り受ける(取り戻す)ことができます(民法第905条第1項)。これを取戻権といい、面識のない第三者が遺産分割に加わるのを防ぐための制度です。この権利は1か月以内に行使しなければならないとされています(同条第2項)。第三者への譲渡を考えている場合は、有償・無償を問わず、ほかの相続人がこの取戻権を行使する可能性がある点を理解しておく必要があります。
譲渡の相手や有償・無償の別によっては、贈与税・譲渡所得・不動産取得税などの税金が問題になります。詳しくは「6. 相続分の譲渡にかかる税金」で解説します。税額の判断は個別性が高いため、税理士への確認をおすすめします。
相続分の譲渡をしたことは、後の相続登記や遺産分割の場面で証明できるようにしておく必要があります。そのために作成するのが相続分譲渡証書(相続分譲渡証明書)です。法律で決まった書式があるわけではありませんが、相続登記でも使うため、次の事項をもれなく記載します。
※有償で譲渡する場合は、「無償で」の部分を「金〇〇円で」とし、支払い済みなら「本日受領した」、後日払いなら支払期日・方法を、事実に合わせて記載します(受領前に「受け取った」と書くと事実と異なる証書になり、後日のトラブルの原因になります)。氏名や本籍・住所はご自身の事案に合わせて書き換えてください。
相続分譲渡証書そのものは、上記の事項を満たせば作成できます。ただし、相続登記まで進めるには、譲渡証書に加えて戸籍一式や印鑑証明書などを正確にそろえる必要があり、第三者へ譲渡したケースでは登記が2段階になります。書式だけを整えても、誰の・どの書類が・何通必要かの判断を誤ると登記が通らないことがあります。手続き全体に不安があるときは、司法書士にご相談ください。
相続した不動産がある場合、相続分の譲渡をしたうえで名義を確定させるには相続登記が必要です。誰に譲渡したかによって、登記の進め方が変わります。
相続分をほかの相続人に譲渡したときは、譲受人を含む残りの相続人で、被相続人から直接、相続登記を行います。登記の原因は「相続」で、登録免許税は固定資産税評価額の0.4%(1,000分の4)です。たとえば、子3人のうち2人が長男に相続分を全部譲渡した場合、長男1人の名義に相続登記をすることができます。この例では残る相続人が長男1人だけになるため遺産分割協議書は作成できず(不要で)、相続分譲渡証書と譲渡人の印鑑証明書を添えて登記します。譲渡後も相続人が複数残る場合は、その残りのメンバーで遺産分割協議書を作成して添付します。
相続分を第三者に譲渡したときは、登記が2段階になります。被相続人から直接、第三者へ「相続」を原因とする登記をすることはできません。
相続分の譲渡があった場合の相続登記では、おもに次のような書類が必要です(事案によって異なります)。
※第三者への持分移転登記(2段階目)では、これらに加えて、譲渡人名義で相続登記をした際に発行される登記識別情報、譲渡人の印鑑証明書(作成後3か月以内)、登記原因証明情報なども必要になります。
相続登記の必要書類の全体像は相続登記の必要書類一覧、手続きを他の人に任せる場合の相続登記の委任状のページもあわせてご覧ください。相続登記は相続により不動産の取得を知った日から3年以内に申請する義務があります。いったん法定相続分で登記した後に遺産分割が成立した場合は、その遺産分割の日から3年以内に内容に応じた登記をする必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になることがあります。
相続分の譲渡では、誰に(相続人か第三者か)・有償か無償かによって、かかる税金が変わります。下記は一般的な考え方の整理です。税額の判断は事案ごとに異なり、税務は税理士の業務範囲のため、実際の申告・試算は税理士にご相談ください。
上記の国税・地方税とは別に、不動産の登記には登録免許税がかかります。相続を原因とする登記は評価額の0.4%、第三者への持分移転(相続分の贈与・相続分の売買)は移転分の2.0%です(前章参照)。相続税・贈与税・譲渡所得などは制度が複雑で控除や特例もあるため、税理士に確認したうえで進めると安心です。
当センターは、不動産の登記手続き(相続登記・贈与登記・財産分与登記・売買登記)を専門とする司法書士法人です。相続分の譲渡があったケースでも、紛争性のない事案について、登記申請に必要な範囲での相続分譲渡証書・登記原因証明情報の作成サポートから、戸籍などの必要書類の収集、相続登記(第三者譲渡の2段階登記を含む)まで、一貫してご依頼いただけます。
なお、相続税・贈与税・譲渡所得などの税務は税理士の業務範囲ですので、必要な場合は税理士にご相談ください。また、相続人どうしで遺産の分け方をめぐって対立し紛争性がある場合の交渉・調停などは弁護士の業務範囲となります。当センターは登記手続きに特化してサポートします。費用の詳細は相続登記の費用のページ、サービス全体の料金プラン一覧もあわせてご確認ください。相続登記の基本については相続登記とはのページで解説しています。
相続分の譲渡は、遺産分割が終わる前に、自分の相続分をほかの相続人や第三者に渡す方法です。家庭裁判所の手続きが不要で、特定の人に持分を集約できる便利な手段ですが、借金(債務)は免れないこと、第三者へ譲渡するとほかの相続人に取戻権があること、第三者譲渡では登記が2段階になり登録免許税が増えること、譲渡の仕方によって税金が変わることに注意が必要です。不動産がからむケースでは、相続分譲渡証書の作成から相続登記まで一体で考える必要があるため、判断に迷う場合は司法書士にご相談ください。
Q. 相続分の譲渡と相続放棄はどう違いますか?
相続放棄は家庭裁判所への申述が必要で、原則として相続の開始を知った時から3か月以内に行い、借金(債務)も含めて一切引き継ぎません。相続分の譲渡は当事者の合意だけででき、期限は遺産分割が終わるまでですが、相続人の地位は残るため債務は免れません。借金から解放されたい場合は相続放棄、特定の人に取り分を渡したい場合は相続分の譲渡が向いています。
Q. 無償で相続分を譲渡したら贈与税はかかりますか?
相続人どうしの無償の譲渡は、遺産分割の中での取り分の移動とみなされ、原則として譲受人に贈与税はかかりません(その分も含めて相続税の対象になります)。一方、相続人以外の第三者へ無償で譲渡した場合は、もらった第三者に贈与税がかかります。税額の判断は事案により異なるため、税理士にご相談ください。
Q. 相続分は第三者(相続人以外)にも譲渡できますか?
できます。ただし、共同相続人の一人が第三者に譲渡した場合、ほかの相続人は価額および費用を償還してその相続分を取り戻すことができます(取戻権・民法第905条)。この権利は1か月以内に行使する必要があります。また、第三者への譲渡では相続登記が2段階になります。
Q. 相続分を譲渡すれば借金(債務)も引き継がなくて済みますか?
いいえ。相続分を譲渡しても相続人としての地位は残るため、相続債権者に対しては借金の支払い義務を免れません。譲渡人と譲受人の間で「借金も譲受人が引き継ぐ」と約束しても、債権者の承諾がなければ債権者には主張できません。借金から完全に抜けたい場合は相続放棄を検討してください。
Q. 取戻権とは何ですか?
共同相続人の一人が遺産分割の前に相続分を第三者へ譲り渡したとき、ほかの共同相続人が、その価額および費用を償還して、その相続分を譲り受ける(取り戻す)ことができる権利です(民法第905条第1項)。面識のない第三者が遺産分割に加わるのを防ぐための制度で、この権利は1か月以内に行使しなければなりません(同条第2項)。
Q. 相続分譲渡証書に実印は必要ですか?
相続登記に使うため、譲渡人は実印で押印し、印鑑証明書を添付するのが実務上の取り扱いです。法律で決まった書式はありませんが、被相続人・譲渡人・譲受人・譲渡する相続分の範囲・有償か無償か・日付を明記します。
Q. 相続分の譲渡があった場合、譲受人の名義で直接相続登記できますか?
譲受人がほかの相続人であれば、残りの相続人で被相続人から直接相続登記ができます(原因は「相続」・登録免許税0.4%)。譲受人が第三者の場合は直接相続登記はできず、いったん相続登記をしてから、相続分の譲渡(無償なら相続分の贈与、有償なら相続分の売買)を原因とする持分移転登記を行う2段階になります(移転分の登録免許税は2.0%)。
Q. いったんした相続分の譲渡は撤回できますか?
相続分の譲渡は譲渡人と譲受人の合意(契約)によるものなので、一方的に撤回することは原則できません。元に戻したい場合は、改めて当事者間で合意し、譲受人から譲渡人へ相続分を戻すなどの対応が必要になります。実印を押した相続分譲渡証書を作成・交付した後は特に慎重に判断し、迷う場合は事前に専門家へ相談してください。
最終更新日:2026年6月16日
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