昔に公社の分譲住宅などを購入した不動産の登記簿(登記事項証明書)に、「買戻特約」の登記が残っていることがあります。売却や相続の場面で見つかり、「これは何?」「消さないといけないの?」と戸惑う方が多い登記です。令和5年(2023年)4月1日施行の改正不動産登記法(第69条の2)により、売買契約の日から10年を経過していれば、不動産の所有者が単独で買戻特約の抹消登記を申請できるようになりました。この記事では、買戻特約が残っている理由、単独で抹消できる条件、手続きの流れ・費用、相続や売却との関係を司法書士がわかりやすく解説します。
● 買戻特約とは:売主が代金などを返して不動産を買い戻せる権利の登記です。公社の分譲住宅・分譲地などで、転売防止のために付けられたものが多く残っています。
● 買戻しの期間は最長10年:民法上、買戻しの期間は10年を超えることができません(民法第580条)。売買契約の日から10年を経過した買戻権は行使できませんが、登記は抹消登記を申請しない限り残り続けます。
● 令和5年4月から単独で消せる:売買契約の日から10年を経過していれば、不動産の所有者(登記権利者)が単独で抹消登記を申請できます(不動産登記法第69条の2)。売主(買戻権者)の協力は不要です。
● 費用:登録免許税は不動産1個につき1,000円。当センターに依頼する場合の抹消登記の報酬は16,500円(税込)です(前提登記が必要な場合は別途)。
● 売却・相続の前に消しておく:買戻特約が残ったままだと、買主や住宅ローンを組む金融機関から抹消を求められるのが通常です。相続した不動産なら、相続登記とあわせて抹消まで進めるのがスムーズです。
- 買戻特約とは?なぜ登記簿に残っているのか
- 令和5年改正:契約から10年経過なら単独で抹消できる(不動産登記法第69条の2)
- まず確認:あなたはどのケース?(10年経過/未経過)
- 単独申請の手続きの流れと申請書の書き方
- 抹消登記にかかる費用
- 売却・相続の前に消しておくべき理由
- 当センターのサポート内容
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
買戻特約とは?なぜ登記簿に残っているのか
買戻特約(かいもどしとくやく)とは、不動産の売買契約と同時に、「売主が、支払われた代金(別段の合意をした場合はその合意により定めた金額)と契約の費用を返せば、不動産を買い戻すことができる」と定める特約です(民法第579条)。この特約は登記することができ、登記しておくと、その後に不動産を取得した第三者に対しても買戻しを主張できます。
公社分譲の住宅・土地によく付いている
買戻特約の登記が実際によく見つかるのは、住宅供給公社・都市再生機構(旧住宅公団)・土地開発公社などが分譲した住宅や土地です。分譲当時、転売や投機目的の購入を防ぐため、「一定期間内に転売などをしたら公社が買い戻す」という趣旨で付けられました。民間取引でも、担保目的の売買などに買戻特約が利用された例がありますが、公社分譲のものとは目的や契約関係が異なるため、登記内容を個別に確認する必要があります。
買戻しの期間は最長10年(民法第580条)
民法は、買戻しの期間について次のように定めています。
- 買戻しの期間は10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めても、10年に短縮される
- 期間を定めたときは、その後に伸長することができない
- 期間を定めなかったときは、5年以内に買戻しをしなければならない
つまり、民法上の買戻特約では、売買契約から10年を過ぎると新たに買戻権を行使することはできません。それにもかかわらず、抹消登記がされないまま放置され、何十年も前の買戻特約が登記簿に残り続けているケースが非常に多いのです。
行使できない権利でも、登記は自動では消えない
買戻期間が過ぎて権利として意味を失っていても、登記記録は抹消登記を申請しない限り残り続けます。そして買戻特約が残ったままの不動産は、売却や担保設定の場面で支障になります。「実体は消えているのに登記だけ残っている」——この状態を簡単に解消できるようにしたのが、次章の令和5年改正です。
令和5年改正:契約から10年経過なら単独で抹消できる(不動産登記法第69条の2)
登記の抹消は、原則として登記上の利益を受ける人(登記権利者)と不利益を受ける人(登記義務者)の共同申請で行います(不動産登記法第60条)。買戻特約の抹消なら、所有者と買戻権者(売主)が共同で申請するのが原則です。
しかし、何十年も前の買戻特約では、買戻権者である公社が解散・統合していたり、民間の売主が亡くなっていたり所在が分からなかったりして、協力を得ること自体が大変でした。そこで、所有者不明土地の解消に向けた一連の法改正の中で、次の規定が新設されました。
不動産登記法第69条の2(令和5年4月1日施行)
「買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。」
ポイントは次のとおりです。
- 時の経過に関する要件は「売買契約の日から10年経過」:起算点は登記をした日ではなく契約の日です。登記簿の買戻特約の登記に記載されている売買契約の日付から数えます。
- 申請できるのは登記権利者=現在の所有者:買戻権者(売主)の協力・承諾は不要です。
- 買戻権者の廃業・解散・所在不明でも使える:相手方と連絡が取れるかどうかは要件ではありません。
- 抹消後、買戻権者には法務局から通知される:登記が完了すると、登記官から買戻権者(登記名義人であった者)宛てに登記が完了した旨の通知がされます。所有者側で連絡する必要はありません。
この取扱いの詳細は、法務省民事局長通達(令和5年3月28日付け法務省民二第538号)で示されています。
まず確認:あなたはどのケース?(10年経過/未経過)
登記事項証明書を取得し、甲区(所有権の欄)にある買戻特約の登記の「売買契約の日付」を確認してください。
ケースA売買契約の日から10年を経過している → 所有者の単独申請で抹消できる
不動産登記法第69条の2により、買戻権者の協力なしで抹消登記を申請できます。公社分譲住宅に残る買戻特約では、契約の日からすでに10年以上経過している例が少なくありません(登記記載の契約日を物件ごとに確認してください)。手続きの流れは次章で解説します。
ケースB売買契約の日から10年経っていない → 従来どおり買戻権者との共同申請
単独申請の制度は使えません。買戻期間の満了などにより買戻権が消滅したことを確認したうえで、買戻権者(売主)と共同で抹消登記を申請するのが原則です。買戻権者が公社などの場合は、担当窓口に連絡すれば抹消手続きの案内を受けられるのが通常です。買戻権者の所在が分からない場合は、公示催告による抹消など別の手続きを検討します(個別にご相談ください)。急がない事情であれば、10年の経過を待ってから単独申請するという選択肢もあります。
買戻特約付きのまま「買い戻される」心配は?
買戻しは、期間内に売主が代金などを返還して行うものです。期間(最長10年)を過ぎてから、新たに買戻権が行使されることはありません。多くの場合、問題は「登記が残っていること」による売却・融資への支障だけです。ただし、期間内にすでに買戻しが実行され、その所有権移転登記だけが未了になっているという例外はあり得ます。過去に買戻しの通知や代金の返還に関するやり取りがあった心当たりがある場合は、単独申請の前に司法書士へご相談ください。
単独申請の手続きの流れと申請書の書き方
手続きの流れ
- 登記事項証明書で買戻特約の内容を確認:売買契約の日付・買戻権者・対象不動産を確認し、契約の日から10年を経過していることを確かめます。
- 申請書を作成:次項の要領で登記申請書を作成します。
- 管轄の法務局へ申請:不動産の所在地を管轄する法務局に、窓口への持参または郵送で申請します(オンライン申請もありますが、事前の環境準備が必要なため、初めての方は書面申請の方が進めやすいことが多いです)。
- 登記完了:完了後、買戻権者へは法務局から通知がされます。登記事項証明書を取得して、買戻特約が抹消されたことを確認しましょう。
申請書の記載の要点
登記の目的 ◯番付記◯号買戻権抹消
原 因 不動産登記法第69条の2の規定による抹消
権 利 者 (申請人)現在の所有者の住所・氏名
義 務 者 買戻権者の住所・氏名(名称)
登録免許税 金1,000円(不動産1個の場合)
※上記は主要部分の抜粋です。実際の申請書には、このほか申請年月日・提出先法務局・申請人(代理人)の連絡先・添付情報・不動産の表示などを記載します。
- 登記原因は「不動産登記法第69条の2の規定による抹消」と記載し、原因の日付は書きません(通達で示された取扱いです)。
- この単独申請では、登記原因証明情報・登記識別情報(権利証)の2点の添付は不要です。10年の経過は登記記録の記載から法務局が確認できるためです(司法書士に依頼する場合の委任状や、前提の登記に伴う書類は別途必要になります)。
- 申請人(所有者)の住所や氏名が登記記録の記載と変わっている場合は、前提として住所・氏名の変更登記を先に申請するのが原則です。なお、住所・氏名の変更登記は令和8年(2026年)4月1日から義務化されており、変更から2年以内の申請が必要です。令和8年4月1日より前に住所などが変わっていてまだ登記していない場合は、2028年(令和10年)3月31日までが期限です(このケースはあわせてご相談ください)。
抹消登記の申請手続きの一般的な流れ(申請書の入手方法・提出方法など)は「抵当権抹消登記を自分でやる方法」の解説も参考になります。
抹消登記にかかる費用
住所・氏名の変更登記や相続登記が前提として必要な場合は、その分の登録免許税・報酬が別途かかります。
売却・相続の前に消しておくべき理由
売却時:買主・金融機関から抹消を求められる
契約の日から10年を経過していれば買戻権が行使されることはありませんが、消滅した権利の登記が残っていること自体が権利関係の不明確さとして扱われるため、買主や、買主に住宅ローンを融資する金融機関は、決済までに抹消することを求めるのが通常です。売却を考え始めた段階で登記簿を確認し、買戻特約が見つかったら早めに抹消しておくと、決済間際に慌てずに済みます。
相続時:相続登記とあわせて抹消まで進める
相続した実家などに買戻特約が残っていた場合は、所有権の相続登記とあわせて抹消登記まで進めるのが効率的です。契約の日から10年を経過していれば、相続で新しく所有者になった方が単独で抹消を申請できます。相続登記は義務化されており、相続および所有権の取得を知った日から3年以内に申請する必要があります(2024年4月1日より前に開始した古い相続は、原則として2027年(令和9年)3月31日が期限です。相続登記しないとどうなる?)。
放置すると「消しにくい登記」が増えていく
契約の日から10年を経過した買戻特約は買戻権者側の協力なしで抹消できますが、所有者側の相続登記を放置すると話が変わります。相続を重ねる(数次相続になる)ほど相続人と必要な戸籍が増え、抹消登記の前提となる相続登記が複雑になっていくためです。なお、何十年も前の抵当権・根抵当権が残っている「休眠担保権」は、抹消の相手方を探すことから始める必要がある、より手間のかかる問題です(休眠担保権の抹消とは?古い抵当権を消す方法)。登記簿に見慣れない古い登記が残っていたら、売却・相続などの節目で整理しておくことをおすすめします。
当センターのサポート内容
司法書士法人 不動産名義変更手続センターでは、買戻特約に関する次の登記手続きをサポートしています(全国対応)。
- 買戻特約の抹消登記(不動産登記法第69条の2による単独申請・買戻権者との共同申請のいずれも)の申請代理
- 前提として必要になる住所・氏名の変更登記の申請代理
- 所有権の相続登記(戸籍収集・遺産分割協議書の作成から申請まで)と、抹消登記をあわせた一連の段取り
買戻特約の抹消登記の報酬は16,500円(税込)、前提登記(相続登記・住所変更登記)が必要な場合はあわせてお見積りします(お見積り無料)。なお、不動産の売却そのもの(査定・買主探し)は不動産会社に、税金のご相談は税理士にご相談ください。当センターが担当するのは登記手続きです。
よくある質問(FAQ)
買戻しの期間は民法上最長10年で、期間を過ぎてから新たに買戻権が行使されることはありません。多くの場合、問題は登記が残っていることで売却や住宅ローンの担保設定に支障が出ることです。なお、期間内にすでに買戻しが実行されていた(登記だけ未了)という例外もあり得るため、過去に買戻しに関するやり取りの心当たりがある場合はご相談ください。
登記名義が現在の所有者と一致していて、住所変更・相続などの前提登記が不要なケースであれば、ご自身で申請することもできます(登記原因証明情報や登記識別情報の添付も不要です)。登録免許税は不動産1個につき1,000円です。一方、登記簿上の住所・氏名が現在と異なる場合や、名義人が亡くなっている場合は、買戻特約の抹消より先に住所変更登記・相続登記で名義を整える必要があるため、司法書士への依頼をご検討ください。
売買契約の日から10年を経過していれば、買戻権者の解散・統合・所在不明にかかわらず、所有者が単独で抹消登記を申請できます(不動産登記法第69条の2)。相手方を探したり、承継先とやり取りしたりする必要はありません。登記完了後の通知も法務局から行われます。
単独申請の制度は使えないため、買戻権者と共同で抹消登記を申請します。買戻期間が満了していれば、買戻権者に連絡して抹消手続きへの協力を求めるのが基本です。公社などの場合は、担当窓口で案内を受けられるのが通常です。急がない事情であれば、契約の日から10年の経過を待って単独申請する方法もあります。
できます。所有権の相続登記で名義を相続人に変更したうえで、契約の日から10年を経過していれば、新しい所有者が単独で抹消登記を申請できます。実務では相続登記と抹消登記を連続して(連件で)申請するのが効率的です。当センターでは戸籍収集から相続登記・抹消登記まで一連でサポートしています。
実費として、登録免許税が不動産1個につき1,000円(土地と建物なら2,000円)と、登記事項証明書などの取得実費がかかります。当センターに依頼する場合の買戻特約の抹消登記の報酬は16,500円(税込)です。住所変更登記や相続登記が前提として必要な場合は、その分の報酬・実費が別途かかります(お見積り無料)。
まとめ
買戻特約の抹消登記のポイントは次のとおりです。
- 買戻特約は公社分譲住宅などに多く残る古い登記。買戻しの期間は最長10年で、期間経過後に行使されることはない
- 売買契約の日から10年を経過していれば、所有者が単独で抹消登記を申請できる(不動産登記法第69条の2・令和5年4月1日施行)。買戻権者の協力・承諾は不要
- 登記原因は「不動産登記法第69条の2の規定による抹消」(日付不要)。登録免許税は不動産1個につき1,000円
- 買戻特約が残ったままだと売却・融資の場面で抹消を求められる。売却前・相続登記とあわせての整理がおすすめ
- 登記簿上の住所・氏名が変わっている場合や相続が発生している場合は、前提の登記が必要になることがある
当センターでは、買戻特約の抹消登記を、相続登記・住所変更登記とあわせてまとめてサポートしています。登記簿に古い登記が残っていて気になる方は、まず無料相談をご利用ください。
