この記事の要点(5項目)
● 配偶者居住権とは:2020年4月の民法改正で創設。配偶者が住み慣れた家に原則として終身(または別段の定めで一定期間)住み続けられる権利。「配偶者短期居住権(民法1037条)」とは別物
● 設定方法:①遺産分割(民法1028条1項1号)/②遺贈(同2号)/③死因贈与(民法554条で遺贈規定準用)/④家庭裁判所の審判 の4経路。生前対策は公正証書遺言で「配偶者居住権を遺贈する」と明記が基本
● 評価額の計算:相続税申告では国税庁通達式(固定資産税評価額×耐用年数比×複利現価率)、遺産分割では合意額。配偶者の平均余命と建物の残存耐用年数で変動。詳細は「配偶者居住権の評価額の計算方法」で解説
● 登記手続き:相続登記とセットで連件申請が原則。登録免許税は固定資産税評価額の0.2%(通常の相続登記0.4%より低い)。登記は司法書士、評価額算定・相続税申告は税理士が担当
● 譲渡不可・消滅事由:一身専属権のため売却・譲渡は一切不可。配偶者の死亡/期間満了/合意による消滅/建物滅失/用法遵守義務違反 の5事由で消滅。放棄すると贈与税リスクあり
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、2020年4月の民法改正により創設された、被相続人の配偶者が、相続開始時に居住していた建物について、原則として終身(または遺産分割・遺言・審判で定めた一定期間)、無償で使用・収益できる権利です。
被相続人(亡くなった方)の配偶者が、相続開始時に住んでいた建物について、他の相続人が建物の所有権を相続した場合でも、引き続き無償でその建物に住み続けることができる権利のことを指します。
配偶者居住権の最大の特徴
所有権はそのままに、その上に配偶者の居住を保障する独立した別個の物権を新たに設定する仕組みです(所有権者は配偶者居住権という「負担」を負った所有権を保有します)。配偶者は所有権を取得する場合より低い評価額で居住を確保でき、その分多くの預貯金等を相続できるようになります。
配偶者短期居住権との違い
配偶者居住権とは別に「配偶者短期居住権」という制度もあります。配偶者短期居住権の存続期間は、①遺産分割が確定した日と②相続開始から6ヶ月を経過した日のいずれか遅い日まで(民法1037条1項1号)。ただし、遺贈等により配偶者以外の者が建物を取得した場合は、その者から消滅の申入れを受けた日から6ヶ月後まで(同条1項2号)。登記することができない一時的な保護制度です。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 期間 | 原則、配偶者が亡くなるまで(終身)/別段の定めがあればその期間 | 遺産分割確定日と相続開始から6ヶ月のいずれか遅い日まで(民法1037条) |
| 登記 | 登記が必要(権利保全) | 登記不可 |
| 設定方法 | 遺贈(遺言)・遺産分割協議・家裁の審判 | 自動的に発生 |
| 目的 | 長期的な居住の保護 | 短期的な居住の保護 |
配偶者居住権を設定する目的は?
配偶者居住権は、「住む家はあるが生活費がない(少ない)」という事態を防ぐために創設されました。
従来の相続の問題点
従来、遺産分割において配偶者が自宅不動産を取得しようとすると、不動産の評価額が高額であるために、預貯金などの金融資産を十分に取得できないというケースがありました。逆に、生活費を確保するために自宅を売却せざるをえず、住み慣れた環境を失う配偶者も少なくありませんでした。
前提条件:
- 被相続人:夫(亡くなった)
- 相続人:妻と息子1人
- 遺産:自宅(4,000万円相当)と預貯金4,000万円
- 妻は自宅に住み続けることを希望
法定相続分(半々)で分けた場合:
- 妻:自宅(4,000万円相当)を取得
- 息子:預貯金4,000万円を取得
→ 妻は預貯金を取得できず、将来の生活費が不安に
配偶者居住権を設定した場合の解決策
同じ前提条件で配偶者居住権(1,000万円相当と仮定)を設定:
分割結果:
- 妻:配偶者居住権(1,000万円相当)+ 預貯金3,000万円 = 合計4,000万円
- 息子:自宅の所有権(3,000万円相当)+ 預貯金1,000万円 = 合計4,000万円
→ 妻は自宅に住み続けながら、預貯金3,000万円も取得できる!
このように、配偶者居住権を利用することで、居住の権利と生活費の両方を確保することが可能になります。
いつの相続から適用があるのか?
配偶者居住権は、2020年4月1日以降に発生した相続に適用されます。
民法改正により2020年4月1日にスタートした権利ですので、それよりも前に発生した相続には適用されません。
配偶者居住権が成立する要件は?
配偶者居住権は、配偶者であれば自動的に発生する権利ではありません。以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
① 被相続人の配偶者が被相続人の所有建物に相続開始の時に居住していたこと
相続開始時に被相続人の配偶者の生活の本拠が別の場所であった場合(別居など)は、配偶者居住権は成立しません。
【重要な注意点】
法律婚の配偶者のみが対象: 本制度は法律上の配偶者のみを対象としています。事実婚(内縁関係)のパートナーは、どれほど長期間同居し、介護に尽力していたとしても、配偶者居住権を取得することはできません。
一時的な入院や施設入所: ただし、一時的な入院や施設入所であれば、生活の本拠がそこにあるとして認められる余地があります。
② 配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割・遺贈・死因贈与・審判があったこと
権利を発生させるには、以下のいずれかの法的手続きが必要です:
- 遺産分割協議(民法1028条1項1号): 法定相続人全員の協議で、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を決定する方法
- 遺言による遺贈(同2号): 配偶者に配偶者居住権を遺贈する旨の遺言を残す方法
- 死因贈与(民法554条で遺贈規定準用): 配偶者と被相続人の間で「死亡時に配偶者居住権を贈与する」契約を結ぶ方法。登記実務上は法務省令和2年3月30日民二第324号通達により設定登記が可能です
- 家庭裁判所の審判: 遺産分割協議が調わないときに、家庭裁判所が配偶者に配偶者居住権を取得させる旨を決定する方法
【遺言文言の落とし穴:「相続させる」ではなく「遺贈する」が必要】
遺言で配偶者居住権を設定する場合は、民法1028条1項2号に基づき、「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」と明記する必要があります。よくある「妻に〇〇を相続させる」という文言(特定財産承継遺言)では配偶者居住権を設定できず、誤った文言で作成された自筆証書遺言で配偶者居住権が成立しなかった実務事例は珍しくありません。確実に整えるなら公正証書遺言での作成を強く推奨します。死因贈与契約を選ぶ場合も、契約書文言や仮登記の要否を含め、登記実務上の確認が必要です。
③ 被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと
被相続人が「子」や「兄弟」など第三者と建物を共有していた場合、他の共有者の権利を害する恐れがあるため、配偶者居住権の設定は認められません。
ただし、被相続人と配偶者が共有していた場合は問題ありません。建物が「被相続人の単独所有」または「被相続人と配偶者の共有」であることが必要です。
【実務上の注意点】
この点は実務上の大きな落とし穴であり、登記簿による事前の権利関係確認が不可欠です。共有関係が不明な場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して確認しましょう。
配偶者居住権のメリット
① 居住の権利と生活資金の両方を確保できる
配偶者居住権の最大のメリットは、住み慣れた家に住み続けながら、多くの預貯金を相続できる点です。
配偶者居住権の評価額は、配偶者の年齢(平均余命)・建物の残存耐用年数・存続期間によって大きく変動します。配偶者が高齢で建物が新しいケースでは、評価額は所有権より低くなり、その分だけ預貯金などの他の財産を多く相続できます。一方、配偶者が若く建物が古いケースでは評価額が建物相続税評価額の全額に達することもあり、想定していた効果が出ない場合があります。設定前に税理士による試算を受けることが不可欠です。
② 二次相続での税負担を抑えられる場合がある
配偶者居住権は、配偶者の死亡によって消滅します。消滅した権利は相続財産として承継されないため、二次相続(残された親の死亡時の相続)において相続税の課税対象に含まれない点で税負担を抑えられる場合があります。
※ 以下は、配偶者の固有財産・配偶者の税額軽減を捨象し、配偶者居住権の有無による「課税対象範囲の差異」を示すための極めて単純化したイメージです。実際の有利不利は税理士の試算が必要です。
通常の相続の場合:
- 一次相続:配偶者が不動産の所有権(5,000万円)を相続
- 二次相続:配偶者が亡くなった際、子に再び5,000万円に対する相続税が発生
配偶者居住権を設定した場合:
- 一次相続:配偶者が配偶者居住権(1,500万円)を取得、子が所有権(3,500万円)を相続
- 二次相続:配偶者の死亡で配偶者居住権は消滅 → 二次相続の課税対象に含まれない
→ 配偶者居住権の評価額相当分は、配偶者の死亡で権利が消滅するため、二次相続の課税対象に含まれません
※ 二次相続では配偶者の固有財産(生前から所有していた預貯金等)も合算され、配偶者の税額軽減も使えないため、課税ベースは一次相続より広がるのが通例です。一次相続でも配偶者居住権の評価額は課税対象となります(配偶者税額軽減の適用はあり)。
【ただし「絶大な節税」と決めつけない】一次相続では配偶者居住権・負担付き所有権の評価が新たに生じます。配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)・一次/二次相続の財産構成・子の取得財産によって有利不利は変わり、ケースによっては節税にならないこともあります。設定前には必ず税理士による試算を受けてください。
③ 小規模宅地等の特例が適用される場合がある
配偶者が取得した敷地利用権(配偶者居住権に基づく土地の使用権)についても、「特定居住用宅地等」の要件(被相続人等の居住用に供されていた宅地等であること)を満たす場合に限り、小規模宅地等の特例の適用対象となります。
配偶者については取得者ごとの居住継続・保有継続要件はありませんが、対象宅地等が特定居住用宅地等に該当すること・限度面積330㎡の判定・敷地利用権と敷地所有権の面積按分を確認する必要があります。「無条件で減額される」ものではないため、特例適用の可否は税理士による判定を受けてください。
配偶者居住権のデメリットと注意点
配偶者居住権の設定は、将来の「出口戦略」(施設入所や住み替えが必要になった際の資金化)を塞いでしまうリスクを孕んでいます。「とりあえず設定しておく」といった安易な判断は、配偶者自身の選択肢を将来狭めることになりかねません。実務上のリスクを以下に整理します。
① 売却・譲渡が一切できない
【最大のデメリット】
配偶者居住権は「一身専属権」であり、他人に譲渡したり売却したりすることは一切できません。
例えば、数年後に「家が広すぎて管理できないので、売却して高級老人ホームに入りたい」と考えたとします。しかし、配偶者居住権そのものは売れないため、建物の所有者(子など)と協力して、建物全体を売却し、その代金を分け合うしかありません。
もし所有者である子が「将来自分が住むつもりだから売りたくない」と反対すれば、配偶者は資金を作ることができず、身動きが取れなくなります。
これは、将来のライフプランが不確定な段階で設定すべきではない最大の理由です。
② 建物所有者にとっても売却が困難
配偶者居住権が設定された建物は、所有者(子など)も自由に売却することはできません。厳密には売却自体は可能ですが、購入した第三者は配偶者の居住権を引き続き負担しなければならないため、実質的に市場での流動性は著しく低下します。
これが「配偶者居住権を設定すると売れなくなる」と言われる理由です。
③ 中途解約時の贈与税リスク
【贈与税の落とし穴】
配偶者居住権を途中で放棄することも可能ですが、税務上の大きな落とし穴があります。
配偶者がまだ十分に生きられる期間を残して権利を放棄・合意解除した場合、その残存価値相当額が建物所有者(子など)への贈与とみなされ、建物所有者に贈与税が課される可能性があります(国税庁・令和2年7月1日付課資2-10等の通達を参照)。贈与税額は残存期間の評価額に依存するため、放棄前に必ず税理士に試算を依頼してください。
例外的に、著しく健康状態が悪化した場合や、対価を支払って買い取る形式であれば贈与税は回避できますが、その場合は配偶者に譲渡所得税がかかる場合があります。この「出口戦略」の難しさは、設定前に十分にシミュレーションすべき点です。
④ 増改築には所有者の承諾が必要・修繕費の境界線でトラブル
増改築(建物の物理的構造を変える工事)を行う場合は建物所有者(子など)の承諾が必要です(民法1032条3項)。一方、畳・壁紙の張替えや水回りの更新といった通常の維持・補修は配偶者が自らの判断で行えます(民法1033条1項)。これらに要する通常の必要費は配偶者の負担となります(同1034条1項)。所有者が必要な修繕を行わない場合、配偶者は自ら修繕したうえで費用償還を請求できる構造になっています(同1033条2項・3項)。
実務で最も揉めるのが「小修繕」と「大規模修繕」の境界線です。雨漏り対応・外壁の劣化補修・屋根の葺き替え等で「誰が費用を負担するか」「所有者が修繕や承諾を拒否したらどうなるか」を巡って親子間トラブルに発展するケースが少なくありません。承諾なく増改築をすると消滅請求事由(民法1032条4項)となるため、線引きが微妙な工事は事前に書面で承諾を取っておくのが実務の常道です。
関係が良好な遺産分割の段階で、将来の修繕費用の負担ルールまで決めておくことをお勧めします。
⑤ 固定資産税や修繕費の負担
固定資産税は法律上は建物所有者に課税されます(地方税法343条)ので、納税通知書は所有者(子など)に届きます。一方で、民法1034条1項の「通常の必要費」として配偶者が負担するのが原則です。実務上は配偶者が所有者に固定資産税相当額を支払う形で処理することが多く、遺産分割協議書に負担割合を明記しておくことで後々の親子間トラブルを防ぐことができます。修繕費についても通常の必要費は配偶者負担となります。
配偶者居住権の設定方法
死後に備えて設定する方法(生前対策)
遺言によります。配偶者に配偶者居住権を遺贈する旨の遺言をしたときは、遺言者が亡くなると同時に配偶者居住権が成立します。
公正証書遺言で作成しておくことで、相続発生後の手続きがスムーズになります。
相続発生後に設定する方法
原則として遺産分割協議によります。
法定相続人全員の間で配偶者が配偶者居住権を取得する旨の協議を行います。遺産分割協議が調わない場合は、家庭裁判所の審判で配偶者居住権を取得する方法があります。
【遺産分割協議書の記載が極めて重要】
登記申請の添付書面となる遺産分割協議書には、「配偶者居住権を取得する」という明記はもちろん、存続期間(終身か、特定の期限までか)や修繕費の負担割合などの特約を明確に記載しなければ、法務局での登記申請が通らなかったり、後々建物所有者(子など)との間でトラブルになる原因となります。記載文言は司法書士に確認を受けることを推奨します。
配偶者居住権の存続期間は?
原則として配偶者の終身の間です。
ただし、遺産分割協議、遺言又は家庭裁判所の審判でこれと異なる定めをしたときはその定めによります。例えば、「○年○月○日から○年」「○年○月○日から○年○月○日まで」のように具体的な期間を定めることができます。
配偶者居住権の評価額の計算方法
配偶者居住権を遺産分割で取得する際、その評価額をいくらと算定するかは、遺産分割の公平性と相続税の計算に直結します。設定前に必ず詰めておく必要があります。
評価方法は大きく分けて、相続税申告で使う「相続税法上の評価」と、遺産分割協議で使う合意評価額の2系統があります。相続税申告では、建物部分は居住建物の相続税評価額、土地部分は敷地の相続税評価額を基礎に、存続年数・耐用年数・複利現価率を用いて、配偶者居住権・敷地利用権・負担付き所有権を区分して評価します。
① 相続税法上の評価(国税庁の通達方式)
相続税申告における配偶者居住権の評価は、次の計算式で算定します(相続税法第23条の2)。なお、建物・土地ともに「時価(実勢価格)」ではなく相続税評価額を基礎にする点に注意してください。
建物の配偶者居住権の評価額
居住建物の相続税評価額 −{居住建物の相続税評価額 ×(残存耐用年数 − 存続年数)÷ 残存耐用年数 × 複利現価率}
敷地利用権の評価額
敷地の相続税評価額 −(敷地の相続税評価額 × 複利現価率)
計算に必要なパラメータ:
- 居住建物の相続税評価額:原則として固定資産税評価額を基礎にした金額(実勢価格・売買価格ではない)
- 敷地の相続税評価額:路線価方式または倍率方式による評価額
- 建物の残存耐用年数:「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の住宅用法定耐用年数を1.5倍した年数から、当該建物の経過年数を控除した値(例:木造22年×1.5=33年・鉄骨造(厚さ4mm超)34年×1.5=51年・鉄筋コンクリート造47年×1.5=71年)。金属造は骨格材の肉厚により耐用年数が分かれます
- 存続年数:相続税申告上は厚生労働省の完全生命表(5年に一度公表)の年齢別平均余命を用います。または遺産分割協議で定めた存続期間
- 複利現価率:法定利率(年3%)で割り戻すための係数
前提条件(あくまで概算用の数値例):
- 建物:木造(評価上の耐用年数33年=22年×1.5)、築20年 → 残存耐用年数13年
- 配偶者75歳女性の平均余命:約16年(厚生労働省 完全生命表ベース・実際の申告では最新公表値を使用)
- 存続年数:終身(=16年)
- 複利現価率(16年・年3%):約0.623
計算結果(概算):
- 配偶者居住権(建物):存続年数16年が残存耐用年数13年を上回るため、計算式の(残存耐用年数−存続年数)÷残存耐用年数 が0以下となり、相続税法上は控除項を0として扱います(相続税法施行令)。結果として配偶者居住権(建物)の評価は建物評価額の全額 1,000万円、所有権側の建物評価はゼロ。築年数の経った住宅で配偶者が比較的若い場合に起こり得る典型パターンです
- 敷地利用権:3,000万円 −(3,000万円 × 0.623)≈ 1,131万円
- 所有権側(建物・土地):上記の残額
→ 配偶者の取得額合計 約2,131万円・所有権側 約1,869万円
※ 数値は概算用の例示であり、実際の申告では税理士が公表生命表・端数処理・複利現価率表に基づき正確に算定します。
② 遺産分割協議における簡易法
遺産分割協議では、相続税評価額と同じ金額で合意しなければならないわけではありません。当事者全員の合意があれば任意の評価額でも有効です(ただし相続税申告では別途通達方式による計算が必要)。
実務では、相続税評価額を基礎にした国税庁通達方式の計算結果を参考にしながら協議することが多く、独自の簡易計算だけで金額を決めると、他の相続人との公平性や税務申告で問題になることがあります。一般的には、不動産の時価・配偶者の年齢・建物の状態・将来の売却可能性を踏まえて、相続人全員が納得できる評価額を協議します。
③ 評価額が高くなる/低くなる主な要因
| 要因 | 評価額への影響 |
|---|---|
| 配偶者の年齢が若い(=存続年数が長い) | ↑ 高くなる |
| 建物が新しい(残存耐用年数が長い) | ↑ 高くなる |
| 存続期間を「終身」ではなく「○年」と区切る | ↓ 低くなる |
| 土地・建物の時価が高い | ↑ 高くなる |
【実務上の注意点】
評価額は税理士・不動産鑑定士の専門領域であり、本記事の数値はあくまで概算です。当事務所では登記手続きを担当し、評価額の正式な算定は提携税理士または依頼者ご指定の税理士へご相談いただきます。
配偶者居住権の登記手続き
配偶者居住権は、遺産分割協議書に判子を押しただけでは完全ではありません。第三者に対抗するための「登記」が不可欠です。
登記の必要性
民法1031条は、建物所有者に対し、配偶者への配偶者居住権設定登記を備えさせる義務を課しています。
登記がなされないまま建物が第三者に売却された場合、配偶者はその新しい所有者に対して「私はここに住む権利がある」と主張できず、立ち退きを迫られるリスクがあるからです。
【連件申請が原則となる理由】
配偶者居住権設定登記は、建物の所有権が誰に帰属したかを前提に行う登記です。そのため、相続による所有権移転登記を先に申請し、続けて配偶者居住権設定登記を申請する「連件申請」が実務の標準です。別日に分けて申請すると、所有権登記から設定登記までの間に建物所有者が処分してしまうリスクが生じます。
登記申請の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請人 | 権利者(配偶者)と義務者(建物所有者)の共同申請が原則 |
| 添付書類 | 登記原因証明情報/義務者の登記識別情報/義務者の印鑑証明書(作成後3か月以内)/代理権限証明情報(委任状) ※固定資産課税明細書等は登録免許税の計算用で、添付情報欄には記載しません |
| 登録免許税 | 建物の固定資産課税台帳の価格の1,000分の2(0.2%) ※通常の相続登記(0.4%)とは税率が異なる ※課税価格は1,000円未満切捨て・税額は100円未満切捨て。1,000円未満のときは1,000円 |
登記申請書の書き方(法務局の記載例に沿って)
配偶者居住権の設定登記が通常の相続登記と大きく違うのは、申請書に「存続期間」と「特約」という、通常の相続登記にはない記載欄がある点です。法務局が公開している記載例に沿うと、申請書の主要な記載欄は次のようになります。
登記の目的 配偶者居住権設定
原 因 令和○年○月○日遺産分割
存続期間 令和○年○月○日から配偶者居住権者の死亡時まで
特 約 第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができる
権 利 者 (住所)配偶者の氏名
義 務 者 (住所)建物所有者の氏名
添付情報 登記識別情報 登記原因証明情報 印鑑証明書 代理権限証明情報
(登記識別情報を提供できないときは、その理由の欄にチェック)
令和○年○月○日申請 ○○法務局(又は地方法務局)○○支局(又は出張所)
代 理 人 (住所)司法書士の氏名 印
連絡先の電話番号○○-○○○○-○○○○
課税価格 金○○○円
登録免許税 金○○○円
不動産の表示(登記事項証明書のとおりに記載)
各欄のうち、実務で迷いやすいのは次の4点です。
【存続期間と特約は「登記事項」=定めるなら文言まで登記を前提に】
存続期間と、第三者に居住建物の使用・収益をさせることを許す旨の定めは、不動産登記法81条の2で配偶者居住権の登記事項と定められています。つまり登記簿に記録される内容です。
ただし、協議書や遺言に書いていないこと自体が不備になるわけではありません。存続期間の定めを置かなければ配偶者が亡くなるまで(終身)となり(民法1030条)、申請書には「配偶者居住権者の死亡時まで」と記載すれば足ります。特約も、配偶者と建物所有者の間で定めたときにだけ記載します。
注意が必要なのは、存続期間に期限を付けたときや、第三者に使わせることを認める取り決めをしたときです。その内容と申請書の記載が食い違うと、登記簿に残る内容が実際の合意と違ってしまい、補正を求められることもあります。取り決めをするなら、協議の段階から登記簿にどう載るかまで含めて文言を決めておくのが安全です。
なお、不動産の表示欄は不動産番号を記載すれば、建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積の記載を省略できます。申請書が複数枚にわたるときは各用紙のつづり目に契印が必要で、代理人が申請する場合は代理人が契印します。登録免許税の領収証書や収入印紙を貼り付けた用紙も、申請書と一括してつづってそのつづり目に契印します。
申請書の様式そのものは、遺産分割・遺贈(遺言執行者あり/なし)・死因贈与など取得の経緯ごとに用意されています。原本は法務局「不動産登記の申請書様式について」で確認できます。
必要書類は「取得の経緯」と「誰のもの」で決まる
配偶者居住権の設定登記は配偶者(権利者)と建物所有者(義務者)の共同申請です。そのため、相続人だけで申請する通常の相続登記(単独申請)とは集めるものが異なり、「誰のものを用意するか」と「遺産分割か遺贈か」で必要書類が変わります。申請書の添付情報欄に書くのは、次の4点です。
なお以下は、法務局の記載例と同じく権利者・義務者の双方から委任を受けた司法書士が書面で申請する場合を前提としています(ご自身たちで申請する場合は、④の委任状は不要です)。
① 登記原因証明情報
誰のもの・入手先:権利者と義務者が申請のために作成し、双方が押印します。
記載内容(遺産分割の場合):相続が開始した日、相続人、遺産分割協議が成立した日と取得した配偶者居住権の成立日、配偶者が相続開始の時に居住していた事実など。
記載内容(遺贈の場合):相続人の列挙に代えて、遺言をした日と遺言の内容、遺言者が亡くなって遺言の効力が生じた日、配偶者が相続開始の時に居住していた事実、および相続開始の時に法律上の婚姻関係にあった事実を記載します。遺言書と、遺言の効力が生じた日を証する戸籍全部事項証明書等も必要です。
注意点①:遺言書は、公正証書遺言と法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言を除き、家庭裁判所の検認済証明書付きのものである必要があります。
注意点②:被相続人の最後の住所・氏名が登記記録の記載と異なる場合や、被相続人の本籍が登記記録上の住所と異なる場合は、被相続人が登記名義人であったことが分かる書類として、本籍の記載のある住民票の除票または戸籍の表示の記載のある戸籍の附票の写し等が必要になります(本籍等の記載がないものでは足りません)。
② 登記識別情報
誰のもの・入手先:義務者(建物所有者)のものです。
注意点:登記識別情報を記載した書面を封筒に入れて提出します。封筒には、義務者の氏名、登記の目的「配偶者居住権設定」、そして登記識別情報を記載した書面が在中する旨を明記します。
用意できないときは、添付情報欄に「登記識別情報」とは記載せず、申請書の「登記識別情報を提供することができない理由」欄で該当する理由(不通知・失効・失念・管理支障・取引円滑障害・その他)にチェックします。
連件で申請する場合は提供が不要です:建物の名義を相続人へ移す所有権移転登記と配偶者居住権の設定登記を、前後の順序を明らかにして同時に申請する場合(=連件)は、前の登記で登記名義人になる方が後の登記の義務者になるため、後の登記の登記識別情報は提供されたものとみなされます(不動産登記規則67条)。この場合は「提供できない理由」を書く場面でもありません。先に相続登記を済ませてから日を改めて申請する場合は、その際に通知された登記識別情報を提供します。
③ 印鑑証明書
誰のもの・入手先:義務者(建物所有者)の、市区町村長が作成したものです。
注意点:作成後3か月以内のものが必要です。
④ 代理権限証明情報(委任状)
誰のもの・入手先:権利者・義務者の双方から代理人へ渡すものです。
注意点:義務者は実印で押印します。申請書に書く代理人の表示は、委任状の記載と一致している必要があります。
(参考)固定資産課税明細書・固定資産評価証明書=登録免許税の計算用
これは添付情報欄には書かない書類で、登録免許税の課税価格を確認するために用意します。
課税価格は、毎年市区町村から届く固定資産課税明細書の「価格」または「評価額」の欄で確認します(「固定資産税課税標準額」の欄ではありません)。明細書を紛失した場合などは、建物所在地の市区町村が発行する評価証明書で確認できます。申請する年度の価格で計算する点に注意してください。
【遺贈のケースでは、戸籍の重複添付を省ける場合があります】
遺言による遺贈で配偶者居住権を取得した場合、通常は遺言の効力が生じた日を証するため、遺言者が亡くなった事実の記載がある戸籍全部事項証明書等を添付します。ただし、配偶者居住権の設定登記の申請より前にされた所有権移転登記の原因が「相続」「遺産分割」「遺贈」であるときは、その登記によって亡くなった事実を確認できるため、この戸籍を重ねて添付する必要はありません(法務局の記載例の注記)。相続登記と続けて申請する場合はもちろん、先に相続登記を済ませてあった場合も同じです。
登録免許税の計算(1,000分の2・端数処理と最低額1,000円)
配偶者居住権の設定登記の登録免許税は、建物の固定資産課税台帳の価格の1,000分の2(0.2%)です。計算の順序は次のとおりです。
最低額の1,000円が適用されるのは、建物の課税価格が50万円未満のときです(50万円 × 2/1000 = 1,000円)。床面積の小さい平屋など、そもそもの評価額が小さい建物が該当します。木造の専用住宅は経年による評価額の下限が定められているため、築年数が古いだけで際限なく下がるわけではありません。
配偶者居住権は建物にのみ登記されるため、敷地(土地)について配偶者居住権の設定登記の登録免許税はかかりません。ただし、敷地そのものの相続登記には別に1,000分の4(0.4%)がかかります(令和9年3月31日までは、一定の土地について免税を受けられる場合があります)。先に申請する建物の所有権移転登記も設定登記とは別計算で、相続(相続人に対する遺贈を含む)が原因なら1,000分の4、相続人以外の方への遺贈・死因贈与が原因なら1,000分の20(2.0%)です。
なお、配偶者居住権が将来消滅したときは抹消登記が必要で、その登録免許税は不動産1個につき1,000円と、設定登記とは計算方法が異なります。消滅の事由と抹消手続きは配偶者居住権が消滅する事由と抹消登記で詳しく説明しています。
設定登記の前に確認・対応が必要になるケース
配偶者居住権の設定登記は、建物の登記記録が現在の権利関係に合っていることが前提です。次のようなケースでは、設定登記より先に対応しておくことがあります。
【多くは登記簿を見ないと判断できません】
ここに挙げたケースの多くは、建物の登記事項証明書(登記簿)を取得して初めて分かることです(登記記録が見つからない場合は、未登記建物の可能性があるため、固定資産課税の資料もあわせて確認します)。遺産分割協議に入る前に、建物の名義・共有関係・所有者の表示を確認しておくと、協議のやり直しを防げます。
司法書士への依頼がおすすめ
配偶者居住権の登記では、建物所有権の相続登記を先に整えたうえで、配偶者居住権設定登記を連件で申請するのが通常です。遺産分割協議書の文言・存続期間・特約・登記識別情報・印鑑証明書・固定資産評価証明書の年度などの扱いを誤ると、法務局で補正・取下げになることがあります。また、遺産分割協議書の文言が登記申請に適した形式になっているかの確認も必要です。これらの技術的な判断を誤ると申請のやり直しが生じ、その間に建物所有者が処分するリスクも生じます。設定を決めた段階で、相続登記と一体で司法書士に確認するのが安全です。
配偶者居住権を設定すべきケース・すべきでないケース
設定を検討すべきケース
- 配偶者が高齢で、終身その家に住み続ける意思が固い場合
- 不動産の評価額が高く、配偶者が所有権を取得すると生活資金が不足する場合
- 親子関係が良好で、将来的なトラブルのリスクが低い場合
- 二次相続を見据えた節税対策を重視する場合
- 相続税の課税対象となる資産規模が大きい家庭
設定を慎重に検討すべきケース
- 将来、施設入所や住み替えの可能性がある場合
- 配偶者がまだ比較的若く、ライフプランが不確定な場合
- 親子関係に不安があり、将来的な協力が期待できない場合
- 建物の老朽化が進んでおり、大規模修繕が必要になる可能性が高い場合
- 配偶者が建物の管理や固定資産税の負担に不安がある場合
【設定前に必ず詰めておくこと】
配偶者居住権は、合意解除すると贈与税課税、所有者単独売却は事実上不可能、と「出口」が極端に狭い権利です。設定前に最低限、①配偶者の平均余命と建物の残存耐用年数を入れた評価額試算(税理士)、②施設入所・住み替えが必要になった場合の資金捻出シナリオ、③建物所有者となる子との修繕費・固定資産税の負担ルール、④遺産分割協議書での存続期間・特約の文言、の4点を書面で詰めておくことを実務上強くお勧めします。
配偶者居住権の譲渡・放棄・売却の可否
配偶者居住権は一身専属権であり、原則として他人に譲渡・売却することは一切できません(民法1032条2項)。これは制度設計上の重要な特徴です。
① 売却・譲渡が一切できない理由
配偶者居住権は「残された配偶者の居住を守る」という目的に紐づいた権利であるため、第三者に譲り渡すことは法律上認められていません。たとえ配偶者が「現金が必要だから居住権を売りたい」と思っても、権利単独での売却は不可能です。
② 建物全体の売却は可能だが流動性が低い
建物所有者(=子など)が居住権付きのまま建物を売却することは、理論上は可能です。しかし、購入する第三者は配偶者の居住権を負担しなければならないため、実質的に市場価値は大きく下がるのが実情です。
居住権が登記された建物を一般の市場で売却することは現実には極めて困難で、仮に買い手が現れても価格は更地評価から大幅にディスカウントされるのが通例です。実務上は「所有者単独での売却は事実上難しい」と理解しておくべき点です(低額の投資用買取や親族間売買などの例外を除き、市場流動性は著しく低下します)。
③ 配偶者による「放棄」「合意解除」と贈与税リスク
配偶者が自ら配偶者居住権を放棄する、または建物所有者と合意で解除することは可能です。ただし税務上の落とし穴があります。
【贈与税リスク】
配偶者がまだ十分な余命を残して居住権を放棄・合意解除すると、その残存価値相当額が建物所有者(子など)への贈与とみなされ、建物所有者に贈与税が課される可能性があります(国税庁・令和2年7月1日付課資2-10等の通達参照)。贈与税額は残存期間の評価額に依存するため、放棄前に必ず税理士に試算を依頼してください。
④ 出口戦略のパターン
| パターン | 取扱い | 税務上の注意 |
|---|---|---|
| 配偶者の死亡による消滅 | 自動消滅 | 二次相続の課税対象に含まれない(一次相続評価次第で有利不利は変動) |
| 配偶者の意思で放棄 | 合意で消滅可能 | 建物所有者にみなし贈与として贈与税リスク |
| 建物所有者が対価を支払い合意解除 | 権利譲渡ではなく合意消滅 | 対価の有無・金額により、建物所有者の贈与税/配偶者の譲渡所得税が問題になりうる(要税理士確認) |
| 建物所有者と配偶者の協力で建物全体を売却 | 市場流動性は極めて低い | 所有権相当分・配偶者居住権相当分の代金配分や税務処理は事前設計が必要 |
※ 配偶者居住権そのものは譲渡できないため、上記「対価を支払い合意解除」は権利譲渡ではなく合意による消滅です。対価設計・税務処理は税理士の確認が必須です。
⑤ 設定前に必ず「出口」を想定する
配偶者居住権は設定したら基本的に取り消せない権利です。「数年後に施設に入りたくなったら」「老朽化で建て替えたくなったら」「親子関係が悪化したら」といった将来シナリオを設定前にシミュレーションし、出口戦略まで含めて検討してください。
配偶者居住権が消滅する事由と抹消登記
配偶者居住権は、以下の主な消滅事由のいずれかに該当した時点で消滅します。消滅後は抹消登記の手続きが必要です。
① 配偶者の死亡(民法1036条・597条準用)
配偶者が死亡した時点で、配偶者居住権は自動的に消滅します。これが最も典型的な消滅事由であり、配偶者居住権の二次相続節税効果はこの「死亡で消滅し相続税課税対象にならない」性質を活用したものです。
② 存続期間の満了
遺産分割協議や審判で「○年○月○日まで」と存続期間を限定した場合、その期間が満了した時点で消滅します。
③ 配偶者と建物所有者の合意による消滅
配偶者と建物所有者の間で合意があれば、いつでも消滅させることができます。ただし前述のとおり贈与税リスクに注意が必要です。
④ 建物の全部滅失
火災・天災・建て替え等で建物が物理的に存在しなくなった場合、配偶者居住権は消滅します(民法1036条・616条の2準用)。ただし建物の一部滅失や老朽化だけでは消滅しません。
⑤ 用法遵守義務違反による消滅請求(民法1032条4項)
配偶者が以下のいずれかに該当する行為を行った場合、建物所有者は配偶者居住権の消滅を請求できます。
- 従前の用法に従わない使用(住居以外の用途に使うなど)
- 建物所有者の承諾なく第三者に使用させる
- 建物所有者の承諾なく増改築する
ただし「相当の期間を定めて是正を催告し、それでも改善されない場合」に限られます。
⑥ 配偶者の意思による放棄・合意解除
配偶者が自ら配偶者居住権を放棄する、または建物所有者と合意で解除することも可能です(前掲の「配偶者居住権の譲渡・放棄・売却の可否」参照)。建物所有者へのみなし贈与による贈与税リスクに注意が必要です。
⑦ 混同による消滅
配偶者が居住建物の所有権を取得した場合、配偶者居住権は混同により消滅します(民法179条)。例えば配偶者居住権を有する妻が、後日建物の所有権も相続・贈与等で取得したケースです。
⑧ 消滅後の抹消登記手続き
配偶者居住権が消滅したら、登記簿に記録された配偶者居住権を抹消する登記を行います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請人 | 建物所有者と配偶者の共同申請が原則。配偶者の死亡で消滅した場合は、建物所有者の単独申請(配偶者の死亡を証する戸籍謄本添付) |
| 添付書類 | 消滅原因によって異なる。①配偶者死亡による単独申請:死亡の記載がある戸籍等を登記原因証明情報として添付/②合意解除・放棄による共同申請:登記原因証明情報(合意解除契約書・放棄証書等)に加え、登記識別情報・印鑑証明書等の要否を個別に確認/③期間満了:期間満了の確認書類を登記原因証明情報として添付 |
| 登録免許税 | 建物1個につき1,000円(配偶者居住権は建物にのみ登記されるため、土地分の登録免許税はかかりません) |
| 放置のリスク | 抹消しなくても法律上の効力に影響はないが、登記簿上の記載が残り、建物売却時に買主が躊躇する |
【実務上のアドバイス】
配偶者死亡後の配偶者居住権の抹消登記(建物所有者の単独申請)と、配偶者自身の遺産に関する相続登記(二次相続・相続人の申請)は、申請の目的・当事者が異なる別個の登記手続きです。ただし、両方を当事務所にご依頼いただくことで、必要な戸籍収集などを効率化し、スムーズに手続きを進めることが可能です。
よくある質問(Q&A)
Q1. 配偶者居住権は登記しないとどうなりますか?
A. 配偶者居住権の登記は成立要件ではなく対抗要件です。取得後に登記を放置すると、建物が第三者に譲渡された場合に居住権を主張できないリスクがあるため、実務上は速やかに登記を備えるべきです。
Q2. 配偶者居住権の設定にはどれくらいの費用がかかりますか?
A. 費用は (1) 登録免許税(建物の固定資産税評価額の0.2%)/(2) 戸籍・評価証明書等の実費/(3) 司法書士報酬/(4) 配偶者居住権の評価額算定・相続税申告が必要な場合は税理士費用、に分かれます。実務上は「自宅の相続登記(所有権移転)」と「配偶者居住権の設定登記」を連件(セット)で行うため、司法書士報酬はおおむね15万〜25万円が一つの目安です(相続人の数・物件数・遺産分割協議書作成の要否・戸籍収集範囲により変動。前妻との間の子がいる・数次相続が絡む等の案件ではさらに上振れすることもあります)。正確な金額は登記簿・戸籍の概要を確認したうえで事前にお見積りいたします。
Q3. マンションでも配偶者居住権は設定できますか?
A. 設定可能です。区分所有マンションの専有部分にも配偶者居住権を設定できます。ただし戸建てとは異なる留意点があります:(1) 配偶者居住権は建物(専有部分)の登記記録のみに設定登記され、マンションが敷地権付き区分建物として登記されている場合、専有部分への配偶者居住権設定の効力が敷地権にも当然に及ぶ仕組みです(敷地(土地)側の登記簿に配偶者居住権が別途記録されることはありません)。(2) 管理費・修繕積立金は実務上、配偶者が負担するケースが一般的(通常の必要費の範囲として)。(3) 管理組合への届出名義は所有者となり、配偶者は「占有者」として扱われます。これらの整理は事前に司法書士・管理組合への確認が必要です。
Q4. 配偶者が認知症の場合でも設定できますか?
A. 配偶者に意思能力がない場合は成年後見人の選任が必要です。ただし、被相続人の子など共同相続人が成年後見人に就任しているケースでは、遺産分割協議で利益相反が生じるため、別途家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります(民法860条・826条準用)。この手続を経ずに作成された遺産分割協議書は無効と判断されるおそれがあり、実務で最も多いトラブルの一つです(後見監督人がいる場合は監督人が代理し、特別代理人選任は不要)。特別代理人選任の家庭裁判所への申立には数週間〜数ヶ月を要することがあり、遺産分割協議のスケジュールに影響します。配偶者居住権の設定が本人の生活保護に資するかも含めて、家庭裁判所・専門家の確認が必要です。
Q5. 配偶者が再婚した場合、配偶者居住権はどうなりますか?
A. 配偶者の再婚自体は、配偶者居住権の消滅事由ではありません(配偶者が亡くなって初めて消滅)。ただし、新しい配偶者を居住建物に同居させることが民法1032条3項の「第三者使用」に当たるかについては学説上議論があり、再婚相手を居住建物に住まわせるケースでは「第三者使用」に該当する余地があるとの見解が有力です。後に建物所有者(子など)から消滅請求を受けるリスクを避けるため、実務上は事前に書面で同居の承諾を取り付けておくべきです。前婚の子との関係が良好でない場合は、再婚前に司法書士・弁護士へ相談されることを推奨します。
Q6. 建物が老朽化して建て替えが必要な場合はどうなりますか?
A. 建て替えは建物の取壊し(滅失)を伴うため、建物が滅失した時点で配偶者居住権は消滅します(民法1036条・616条の2準用)。建て替え後の新建物に配偶者居住権は当然には引き継がれないため、新建物について改めて設定登記が必要です。また、建て替え前に配偶者居住権の抹消登記も必要となります。建て替え費用の負担割合も含め、設定前に建物所有者(子など)との間で書面による合意を取り付けておくことを強く推奨します。
Q7. 配偶者居住権の評価額はどのように計算しますか?
A. 相続税法第23条の2では、建物は「居住建物の相続税評価額(固定資産税評価額基礎)−{居住建物の相続税評価額 ×(残存耐用年数−存続年数)÷ 残存耐用年数 × 複利現価率}」、敷地利用権は「敷地の相続税評価額(路線価方式等)−(敷地の相続税評価額 × 複利現価率)」で算定します。配偶者の年齢(平均余命)・建物の構造と築年数(残存耐用年数)・存続期間で評価額が変動します。実勢価格をそのまま入れて計算するものではない点に注意してください。正式な相続税申告用の評価は、税理士へご相談ください。
Q8. 配偶者居住権を途中で放棄したい場合、税金はかかりますか?
A. 配偶者が自ら放棄したり、建物所有者と合意で解除することは可能です。ただし、配偶者にまだ余命があるのに放棄すると、その権利の価値相当額が建物所有者への「みなし贈与」と扱われ、建物所有者に贈与税が課される可能性があります。著しく健康状態が悪化したケースや、対価を支払って買い取る形式であれば贈与税は回避できますが、その場合は配偶者に譲渡所得税がかかる場合があります。設定前に出口戦略のシミュレーションが不可欠です。
Q9. 配偶者居住権が消滅するのはどんな場合ですか?
A. 主な消滅事由は次のとおりです。①配偶者の死亡、②遺産分割で定めた存続期間の満了、③配偶者と建物所有者の合意による消滅・配偶者による放棄、④建物の全部滅失(火災・建て替え等)、⑤用法遵守義務違反による建物所有者からの消滅請求(民法1032条4項)、⑥配偶者が居住建物の所有権を取得した場合の混同による消滅(民法179条)。配偶者死亡による消滅は二次相続で課税対象に含まれないため、税負担を抑えられる場合があります(ただし一次相続の評価次第で有利不利は変動)。
Q10. 配偶者居住権の登記の登録免許税はいくらですか?
A. 配偶者居住権設定登記の登録免許税は、建物の固定資産税評価額の0.2%(1,000分の2)です。通常の相続登記の0.4%(1,000分の4)より低く設定されています。例えば建物評価額1,000万円なら登録免許税は2万円です。これに加えて、相続登記と連件で行う場合の司法書士報酬はおおむね15万〜25万円(相続人の数・物件数・案件難易度により変動)、および配偶者居住権の評価額算定や相続税申告を税理士に依頼する場合の費用が別途必要になります(Q2参照)。
現場で多いご相談
【実務で頻出する落とし穴】
- 遺言で配偶者居住権を設定したつもりが、文言が「相続させる」になっていて配偶者居住権が成立しなかった(公正証書遺言で「遺贈する」と明記すべきだった)
- 遺産分割協議が長引き、配偶者短期居住権の6か月期間を超えてしまい、暫定の居住保護が切れた
- 被相続人の前妻との間の子の戸籍取り寄せに数か月かかり、その間に配偶者の認知症が進行し、特別代理人選任が必要になった
- 遺産分割協議書に存続期間や特約が明記されておらず、配偶者居住権設定登記が法務局で受理されなかった
- 配偶者居住権設定後、数年で施設入所が必要になり、建物所有者の子が転居資金を作りたいのに権利を解除できず資金繰りに苦しんだ
配偶者居住権は戸籍収集・遺言文言・成年後見・数次相続・修繕費負担といった周辺手続と絡んで難易度が一気に上がります。設定を検討した段階で司法書士に早めにご相談いただくことで、これらの落とし穴を事前に潰せます。
まとめ:配偶者居住権は専門家への相談が重要
配偶者居住権は、配偶者の居住の権利と生活資金の確保を両立できる有用な制度です。特に、不動産の評価額が高く、預貯金が少ない場合には、大きなメリットがあります。
しかし、売却制限や中途解約時の税務リスクなど、デメリットも多く存在します。安易に設定すると、将来的に思わぬトラブルに発展する可能性もあります。
【専門家への相談をお勧めするケース】
- 相続財産の中で不動産の占める割合が大きい
- 配偶者の年齢や健康状態、将来の生活プランを考慮した評価額のシミュレーションが必要
- 相続税対策も含めた総合的なアドバイスが欲しい(→ 提携税理士をご紹介(関東対応エリアを中心)します)
- 遺言書の作成や登記手続きのサポートが必要
当事務所では、配偶者居住権の設定登記・抹消登記はもちろん、登記に必要な遺産分割協議書の作成サポートや遺言書の文言確認(公正証書遺言の証人対応を含む)を承っています。登記実務の視点から「将来の手続きで行き詰まるリスクはないか」「遺言書や遺産分割協議書にどう記載すべきか」をサポートいたします。税務上の有利不利や評価額の算定については提携税理士をご紹介(関東対応エリアを中心)しますので、登記と税務の両面から設定の可否をご検討いただけます。設定後の取り消しは原則できないため、迷われた際は早めにご相談ください。
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