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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
最終更新日:2026年1月29日
配偶者居住権とは、2020年4月の民法改正により創設された、配偶者の生活を守るための新しい権利です。
被相続人(亡くなった方)の配偶者が、相続開始時に住んでいた建物について、他の相続人が建物の所有権を相続した場合でも、引き続き無償でその建物に住み続けることができる権利のことを指します。
配偶者居住権の最大の特徴
建物の権利を「所有権」と「居住権」の2つに分けることで、配偶者は低い評価額で居住の権利を確保でき、その分多くの預貯金などの財産を相続できるようになります。
配偶者居住権とは別に「配偶者短期居住権」という制度もあります。配偶者短期居住権は、遺産分割が確定するまでの間、最低6ヶ月間は無償で住み続けられる権利ですが、こちらは登記することができない一時的な保護制度です。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 期間 | 原則、配偶者が亡くなるまで(終身) | 最低6ヶ月間(遺産分割確定まで) |
| 登記 | 登記が必要(権利保全) | 登記不可 |
| 設定方法 | 遺言・遺産分割協議・審判 | 自動的に発生 |
| 目的 | 長期的な居住の保護 | 短期的な居住の保護 |
配偶者居住権は、「住む家はあるが生活費がない(少ない)」という事態を防ぐために創設されました。
従来、遺産分割において配偶者が自宅不動産を取得しようとすると、不動産の評価額が高額であるために、預貯金などの金融資産を十分に取得できないというケースがありました。逆に、生活費を確保するために自宅を売却せざるをえず、住み慣れた環境を失う配偶者も少なくありませんでした。
前提条件:
法定相続分(半々)で分けた場合:
→ 妻は預貯金を取得できず、将来の生活費が不安に
同じ前提条件で配偶者居住権(1,000万円相当と仮定)を設定:
分割結果:
→ 妻は自宅に住み続けながら、預貯金3,000万円も取得できる!
このように、配偶者居住権を利用することで、居住の権利と生活費の両方を確保することが可能になります。
配偶者居住権は、2020年4月1日以降に発生した相続に適用されます。
民法改正により2020年4月1日にスタートした権利ですので、それよりも前に発生した相続には適用されません。
配偶者居住権は、配偶者であれば自動的に発生する権利ではありません。以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
相続開始時に被相続人の配偶者の生活の本拠が別の場所であった場合(別居など)は、配偶者居住権は成立しません。
【重要な注意点】
法律婚の配偶者のみが対象: 本制度は法律上の配偶者のみを対象としています。事実婚(内縁関係)のパートナーは、どれほど長期間同居し、介護に尽力していたとしても、配偶者居住権を取得することはできません。
一時的な入院や施設入所: ただし、一時的な入院や施設入所であれば、生活の本拠がそこにあるとして認められる余地があります。
権利を発生させるには、以下のいずれかの法的手続きが必要です:
被相続人が「子」や「兄弟」など第三者と建物を共有していた場合、他の共有者の権利を害する恐れがあるため、配偶者居住権の設定は認められません。
ただし、被相続人と配偶者が共有していた場合は問題ありません。建物が「被相続人の単独所有」または「被相続人と配偶者の共有」であることが必要です。
【実務上の注意点】
この点は実務上の大きな落とし穴であり、登記簿による事前の権利関係確認が不可欠です。共有関係が不明な場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して確認しましょう。
配偶者居住権の最大のメリットは、住み慣れた家に住み続けながら、多くの預貯金を相続できる点です。
配偶者居住権の評価額は所有権よりも低く設定されるため、その分だけ預貯金などの他の財産を多く相続できます。これにより、住居と生活費の両方を確保することが可能になります。
配偶者居住権には、大きな相続税の節税効果があります。
配偶者居住権は、配偶者の死亡によって消滅します。消滅した権利は相続財産として承継されないため、二次相続(残された親の死亡時の相続)において相続税の課税対象となりません。
通常の相続の場合:
配偶者居住権を設定した場合:
→ 実質的に、配偶者居住権の評価額相当分を無税で次世代に移転できたことになります
資産規模が大きい家庭ほど、この「消滅による節税効果」は絶大です。
相続税対策において重要な「小規模宅地等の特例」は、配偶者が取得した敷地利用権に対しても適用可能です。
配偶者については無条件で適用要件を満たすため、敷地利用権の評価額の80%(限度面積330㎡まで)を減額することができます。
配偶者居住権は万能ではありません。むしろ、安易な設定は将来取り返しのつかないトラブルを招く可能性があります。メリットだけでなく、デメリットやリスクも十分に理解した上で検討することが重要です。
【最大のデメリット】
配偶者居住権は「一身専属権」であり、他人に譲渡したり売却したりすることは一切できません。
例えば、数年後に「家が広すぎて管理できないので、売却して高級老人ホームに入りたい」と考えたとします。しかし、配偶者居住権そのものは売れないため、建物の所有者(子など)と協力して、建物全体を売却し、その代金を分け合うしかありません。
もし所有者である子が「将来自分が住むつもりだから売りたくない」と反対すれば、配偶者は資金を作ることができず、身動きが取れなくなります。
これは、将来のライフプランが不確定な段階で設定すべきではない最大の理由です。
配偶者居住権が設定された建物は、所有者(子など)も自由に売却することはできません。厳密には売却自体は可能ですが、購入した第三者は配偶者の居住権を引き続き負担しなければならないため、実質的に市場での流動性は著しく低下します。
これが「配偶者居住権を設定すると売れなくなる」と言われる理由です。
【贈与税の落とし穴】
配偶者居住権を途中で放棄することも可能ですが、税務上の大きな落とし穴があります。
配偶者がまだ十分に生きられる期間を残して権利を放棄・合意解除した場合、配偶者から建物所有者に対して「権利の価値相当額の贈与」があったとみなされ、建物所有者に多額の贈与税が課される可能性があります。
例外的に、著しく健康状態が悪化した場合や、対価を支払って買い取る形式であれば贈与税は回避できますが、その場合は配偶者に譲渡所得税がかかる場合があります。この「出口戦略」の難しさは、設定前に十分にシミュレーションすべき点です。
配偶者は建物を使用する権利はありますが、所有権はありません。そのため、大規模なリフォームや増改築を行う場合は、建物所有者の承諾が必要になります。
親子関係が良好であれば問題ありませんが、関係が悪化した場合、思うような改修ができない可能性もあります。
配偶者は建物の使用に伴う通常の必要費(固定資産税や小規模な修繕費など)を負担する義務があります。高齢になるほど、これらの負担が重くなる可能性も考慮する必要があります。
遺言によります。配偶者に配偶者居住権を遺贈する旨の遺言をしたときは、遺言者が亡くなると同時に配偶者居住権が成立します。
公正証書遺言で作成しておくことで、相続発生後の手続きがスムーズになります。
原則として遺産分割協議によります。
法定相続人全員の間で配偶者が配偶者居住権を取得する旨の遺産分割協議が調うと配偶者居住権が成立します。遺産分割協議が調わない場合は、家庭裁判所の審判で配偶者居住権を取得する方法があります。
原則として配偶者の終身の間です。
ただし、遺産分割協議、遺言又は家庭裁判所の審判でこれと異なる定めをしたときはその定めによります。例えば、「○年○月○日から○年」「○年○月○日から○年○月○日まで」のように具体的な期間を定めることができます。
配偶者居住権は、遺産分割協議書に判子を押しただけでは完全ではありません。第三者に対抗するための「登記」が不可欠です。
民法1031条は、建物所有者に対し、配偶者への配偶者居住権設定登記を備えさせる義務を課しています。
登記がなされないまま建物が第三者に売却された場合、配偶者はその新しい所有者に対して「私はここに住む権利がある」と主張できず、立ち退きを迫られるリスクがあるからです。
【実務上の鉄則】
「所有権移転登記(相続登記)」と「配偶者居住権設定登記」を連件(セット)で申請することが重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請人 | 権利者(配偶者)と義務者(建物所有者)の共同申請が原則 |
| 添付書類 | 登記原因証明情報(遺産分割協議書、遺言書など)、登記識別情報、印鑑証明書、固定資産評価証明書 |
| 登録免許税 | 建物の固定資産税評価額の1,000分の2(0.2%) ※通常の相続登記(0.4%)とは税率が異なる |
配偶者居住権の設定登記は、通常の相続登記よりも複雑な手続きとなります。登記の専門家である司法書士に依頼することで、確実かつスムーズに手続きを完了することができます。
【重要な判断基準】
配偶者居住権は一度設定すると、途中で簡単に変更・解除できません。設定前に、税理士や司法書士などの専門家に相談し、十分なシミュレーションを行うことが重要です。
A. 登記しないと、第三者に対して配偶者居住権を主張できません。建物が売却された場合、新しい所有者から立ち退きを求められる可能性があります。配偶者居住権を取得したら、必ず登記を行いましょう。
A. 登録免許税として建物の固定資産税評価額の0.2%がかかります。また、司法書士への報酬が別途必要になります(一般的に10万円~20万円程度)。詳細は司法書士にお問い合わせください。
A. はい、設定できます。戸建てだけでなく、マンションの専有部分についても配偶者居住権を設定することが可能です。
A. 配偶者に意思能力がない場合、遺産分割協議に参加できないため、成年後見人を選任する必要があります。成年後見人が配偶者の代理人として協議に参加することで、配偶者居住権を設定することが可能です。
A. 配偶者が再婚しても、配偶者居住権は消滅しません。権利は配偶者の死亡まで存続します。
A. 建て替えには建物所有者の同意が必要です。建て替えを行う場合、配偶者居住権は消滅し、新しい建物について改めて権利関係を整理する必要があります。この点も設定前に十分に考慮すべきポイントです。
配偶者居住権は、配偶者の居住の権利と生活資金の確保を両立できる有用な制度です。特に、不動産の評価額が高く、預貯金が少ない場合には、大きなメリットがあります。
しかし、売却制限や中途解約時の税務リスクなど、デメリットも多く存在します。安易に設定すると、将来的に思わぬトラブルに発展する可能性もあります。
【専門家への相談をお勧めするケース】
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