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限定承認とは?手続きの流れ・費用・相続放棄との違いを解説


《この記事の作成者兼監修者》

司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (
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最終更新日:2026年4月15日

「亡くなった家族に借金があるかもしれないが、自宅は残したい」「相続財産の全体像がわからず、単純承認も相続放棄も決断できない」――そのようなお悩みを解決できる可能性があるのが限定承認という制度です。限定承認とは、相続で得たプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産(借金など)を引き継ぐ方法で、万が一借金が多くても自己負担が生じない点が特徴です。ただし、共同相続人全員で行う必要があるなど、手続きのハードルは決して低くありません。この記事では、限定承認の仕組み・メリットとデメリット・手続きの流れ・費用の目安、さらに限定承認後の不動産名義変更で注意すべき「みなし譲渡所得税」まで、司法書士がわかりやすく解説します。

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限定承認とは

限定承認の基本的な仕組み

限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ、被相続人の借金などマイナスの財産を弁済する相続の方法です(民法922条)。相続には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択肢があり、限定承認はその中間に位置する制度です。

たとえば、被相続人の財産が預貯金500万円・不動産1,000万円で、借金が2,000万円だった場合を考えてみましょう。単純承認すると2,000万円の借金をすべて引き継ぐことになりますが、限定承認であればプラスの財産(合計1,500万円)の限度でのみ借金を返済すれば足ります。差額の500万円については弁済する義務がありません。

一方、プラスの財産のほうが多かった場合は、借金を弁済した後の残りを相続人が取得できます。つまり、限定承認は「借金が多いかもしれないが、もしプラスが多ければ利益を得たい」というケースに適した制度です。

単純承認・相続放棄との違い(比較表)

相続の3つの選択肢の違いを整理すると、以下のとおりです。

比較項目 単純承認 限定承認 相続放棄
プラスの財産 すべて相続 すべて相続(弁済の原資になる) 一切相続しない
マイナスの財産 すべて相続 プラスの範囲でのみ弁済 一切相続しない
手続きの要否 不要(自動的に成立) 家庭裁判所への申述が必要 家庭裁判所への申述が必要
期限 なし(3か月経過で自動成立) 相続開始を知った日から3か月以内 相続開始を知った日から3か月以内
相続人間の要件 なし 共同相続人全員で行う必要あり 各相続人が単独でできる
向いているケース プラスの財産が明らかに多い 財産の全容が不明 明らかに借金が多い
ポイント:相続放棄は相続人ごとに個別に行えますが、限定承認は共同相続人全員で行わなければなりません。一人でも反対すると限定承認はできない点が大きな違いです。ただし、他の相続人が相続放棄をした場合、残りの相続人全員で限定承認を行うことは可能です。

限定承認のメリット

プラスの財産の範囲内で借金を引き継げる

限定承認の最大のメリットは、相続したプラスの財産を超えて借金を負担する必要がない点です。被相続人に想定外の借金があったとしても、相続人自身の財産から弁済する義務は生じません。

単純承認をしてしまうと、後から高額な連帯保証債務が見つかった場合でも全額返済義務を負います。限定承認であれば、このようなリスクを回避できます。

自宅などの特定の財産を残せる可能性

限定承認には「先買権」という仕組みがあります(民法932条ただし書)。これは、相続財産の中に残したい財産がある場合、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことで、その財産を優先的に取得できる制度です。

たとえば、自宅不動産と借金がある場合、相続放棄をすると自宅も含めてすべての財産を失います。しかし限定承認であれば、鑑定評価額を弁済に充てることで自宅を残せる可能性があります。

相続財産の全容が不明なときのリスクヘッジ

被相続人と疎遠だった場合や事業を営んでいた場合など、財産の全体像が把握しにくいケースは少なくありません。プラスが多いかマイナスが多いか判断がつかない段階で、安易に単純承認してしまうとリスクがあります。

限定承認を選択しておけば、仮に後から多額の借金が見つかったとしてもプラスの財産の範囲内で弁済すれば済みます。財産の全容が不明な段階での「保険」として機能する点が、限定承認の実務的なメリットです。

限定承認のデメリット・注意点

共同相続人全員で行う必要がある

限定承認は、共同相続人の全員が共同で家庭裁判所に申述しなければなりません(民法923条)。相続人が複数いる場合、一人でも「単純承認したい」という方がいると限定承認はできません。

ただし、他の相続人が「相続放棄」をした場合は、放棄した方は最初から相続人でなかったものとして扱われるため、残りの相続人全員で限定承認を行うことが可能です。事前に相続人間で十分に話し合い、方針を統一しておくことが大切です。

手続きが複雑で時間がかかる

限定承認の手続きは、家庭裁判所への申述だけでは終わりません。申述が受理された後、以下のような手続きが続きます。

  • 相続財産清算人の選任(相続人が複数の場合)
  • 官報への公告・債権者への催告(2か月以上)
  • 債権者への弁済手続き
  • 残余財産の分配

すべての手続きが完了するまで半年から1年以上かかることもあり、相続放棄(通常1〜2か月で完了)と比べると負担が大きいといえます。

みなし譲渡所得税が発生する場合がある

限定承認をした場合、税務上は「被相続人が相続財産を時価で譲渡した」とみなされます(所得税法59条1項1号)。これを「みなし譲渡所得税」といいます。

たとえば、被相続人が1,000万円で取得した不動産の相続時の時価が3,000万円だった場合、税務上は被相続人がその不動産を相続時の時価で譲渡したものとみなされ、取得費や譲渡費用を差し引いて譲渡所得が出ると、所得税が課される可能性があります。この税金は被相続人の「準確定申告」として、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納付が必要です。

注意:みなし譲渡所得税は、単純承認や相続放棄では発生しません。限定承認特有の税務上の負担であるため、不動産や含み益のある有価証券がある場合は、事前に税理士に相談されることをおすすめします。

限定承認の手続きの流れ

限定承認の手続きは、大きく5つのステップで進みます。

1相続財産の調査・財産目録の作成

まず、被相続人のプラスの財産(預貯金・不動産・有価証券など)とマイナスの財産(借金・未払い税金など)を調査し、財産目録を作成します。財産目録は家庭裁判所への申述時に提出が必要です。

2家庭裁判所への申述(期限:3か月以内)

相続の開始を知った日から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に限定承認の申述を行います。共同相続人がいる場合は全員で申述する必要があります。

必要書類の例:

  • 限定承認の申述書
  • 財産目録
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)
  • 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手

3相続財産清算人の選任

相続人が複数いる場合、家庭裁判所は相続人の中から相続財産清算人を選任します(民法936条)。通常は申述書に記載した候補者が選任されます。相続財産清算人が、以後の官報公告・弁済手続き等を主導します。

4官報公告・債権者への催告

限定承認が受理されると、官報に公告を出し、すべての債権者に対して2か月以上の期間を定めて債権の届出を求めます(民法927条)。単独相続の場合は限定承認者が受理後5日以内に、相続人が複数で相続財産清算人が選任された場合は清算人が選任後10日以内に公告手続きを行います。知れている債権者には個別に催告も行います。

5弁済手続き・残余財産の分配

届出期間の満了後、届け出のあった債権者および知れている債権者に対し、相続財産から弁済を行います。優先債権(税金など)が先に弁済され、一般債権は按分で弁済されます。すべての弁済が終わった後に残った財産があれば、相続人が取得します。

限定承認にかかる費用

自分で手続きする場合の費用

限定承認を相続人自身で行う場合の費用目安は以下のとおりです。

費用項目 金額の目安
収入印紙代(申述書に貼付) 800円
連絡用郵便切手 数百円〜数千円(裁判所により異なる)
戸籍謄本等の取得費用 数千円程度
官報公告費用 約3〜4万円
合計 約4〜5万円程度

自分で手続きする場合、裁判所への費用自体は低額です。ただし、財産目録の作成や債権者への弁済手続きなど、法的知識が求められる場面が多いため、実際にすべてを自力で行うのは難しいケースが多いです。

弁護士に依頼する場合の費用

手続きの複雑さから、実務では弁護士に依頼するケースが一般的です。

費用項目 金額の目安
弁護士費用(着手金+報酬金) 30〜50万円程度
実費(収入印紙・切手・官報公告費等) 約4〜5万円
合計 約35〜55万円程度

相続財産の内容や債権者の数によって費用は変動します。財産の規模が大きい場合や債権者が多数いる場合は、追加費用が発生することもあります。複数の事務所に見積りを依頼し、比較検討されることをおすすめします。

「限定承認って自分でできるの?」「不動産の名義変更が必要と言われたけど…」とお困りの方へ。当センターでは限定承認後の相続登記をサポートしています。まずはお気軽にご相談ください。

限定承認後の不動産名義変更

相続登記の手続き

限定承認をした場合でも、被相続人名義の不動産を相続人名義に変更する相続登記は必要です。2024年4月からは相続登記の申請が義務化されており、相続により不動産の取得を知った日から3年以内に登記申請を行わなければなりません。

限定承認後の相続登記は、通常の相続登記と基本的な手続きは同じです。遺産分割協議書(または法定相続分による登記)、被相続人の戸籍謄本一式、相続人の住民票などを準備し、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。

ただし、限定承認の弁済手続きの過程で不動産を換価(売却)した場合は、買受人への所有権移転登記が必要となるなど、通常とは異なる対応が求められることがあります。

みなし譲渡所得税の注意点

限定承認後の不動産名義変更で最も注意すべき点が、みなし譲渡所得税です。前述のとおり、限定承認では被相続人が時価で財産を譲渡したとみなされるため、含み益(取得価額と時価の差額)に対して所得税が課される場合があります。

具体的な注意点は以下のとおりです。

  • 申告期限:相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告が必要
  • 納税義務者:被相続人に代わって相続人が申告・納付を行う
  • 課税対象:不動産のほか、含み益のある有価証券なども対象になる
  • 取得費が不明な場合:みなし譲渡時の時価の5%相当額を概算取得費として計算する扱いになるため、税負担が重くなる可能性がある
実務上のポイント:みなし譲渡所得税は限定承認特有の論点であり、一般の税理士でもなじみが薄い分野です。限定承認を検討する際は、相続税だけでなく所得税にも詳しい税理士への相談をおすすめします。不動産の名義変更(相続登記)は当センターで対応可能ですので、お気軽にご相談ください。

限定承認に関するよくある質問

Q1. 限定承認の期限はいつまでですか?

相続の開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。この3か月の期間を「熟慮期間」といいます。期限内に限定承認も相続放棄もしなかった場合、自動的に単純承認したものとみなされます。なお、財産の調査に時間がかかる場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることが可能です。

Q2. 相続人が1人でも限定承認はできますか?

はい、相続人が1人の場合は、その方だけで限定承認の申述が可能です。「共同相続人全員で行う」という要件は相続人が複数いる場合のルールであり、そもそも相続人が1人しかいない場合や、他の相続人が全員相続放棄をして結果的に1人になった場合は、単独で手続きできます。

Q3. 限定承認と相続放棄、どちらを選ぶべきですか?

財産の全容が判明していて明らかに借金のほうが多い場合は、手続きが簡単な相続放棄が適しています。一方、財産の全容が不明な場合や、自宅など残したい財産がある場合は限定承認を検討する価値があります。ただし、限定承認は手続きの負担が大きく、みなし譲渡所得税が発生する場合もあるため、専門家に相談のうえ判断されることをおすすめします。

Q4. 限定承認をした後に借金が見つかった場合はどうなりますか?

限定承認後に新たな借金が見つかった場合でも、相続人が自己の財産から弁済する必要はありません。限定承認の効果により、あくまでプラスの財産の範囲内での弁済となります。ただし、官報公告の届出期間内に届け出なかった債権者は、残余財産がある場合にのみ弁済を受けられます。

Q5. 限定承認をすると相続税はどうなりますか?

限定承認をした場合でも、プラスの財産がマイナスの財産を上回る部分については相続税の課税対象となります。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。なお、限定承認特有の「みなし譲渡所得税」は相続税とは別の税金(所得税)であり、申告期限も異なる(4か月以内)点にご注意ください。

Q6. 被相続人の財産を使ってしまった場合、限定承認はできますか?

相続財産の一部でも処分(使用・売却など)してしまうと、法定単純承認が成立する可能性があります(民法921条1号)。法定単純承認が成立すると、限定承認を選択することはできなくなります。葬儀費用など社会通念上相当な範囲の支出は問題ないとされていますが、判断に迷う場合は早めに専門家に相談してください。

Q7. 限定承認の申述が却下されることはありますか?

形式的な要件(期限内の申述、共同相続人全員の申述、財産目録の添付など)を満たしていれば、実務上、却下されるケースはまれです。ただし、すでに法定単純承認が成立していると判断される場合(相続財産の処分があった場合など)には、却下される可能性があります。

まとめ

限定承認は、プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐことができる制度であり、相続財産の全容が不明な場合や自宅を残したい場合に有効な選択肢です。

ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 共同相続人全員で行わなければならない
  • 手続きが複雑で、完了まで半年〜1年以上かかることがある
  • みなし譲渡所得税が発生する場合がある
  • 相続の開始を知った日から3か月以内に申述が必要

限定承認後に不動産の名義変更(相続登記)が必要な場合は、当センターにお任せください。相続登記の手続きから、必要書類の収集まで幅広くサポートいたします。

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この記事の作成者兼監修者
板垣 隼(いたがき はやと)
司法書士 / 行政書士 / 1級FP技能士
司法書士法人 不動産名義変更手続センター 代表
司法書士事務所開業から17年。「難しいことを、やさしく、早く、正確に」をモットーに、相続登記や不動産名義変更の手続きをサポート。KINZAI Financial Plan・manegyへの寄稿実績あり。

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