抵当権付き不動産を相続したら(要点まとめ)
● 抵当権は相続では消えない:相続登記+抹消登記の2段階手続きが必要です
● 住宅ローン残債も相続の対象:相続人が法定相続分で承継/団信加入なら残債は免除
● 最初にやるのは金融機関への死亡通知:残債照会と団信加入の有無を確認します
● 完済済みでも抹消登記は必須:放置すると売却・新規ローン時に支障が出ます
● 古い抵当権(休眠担保)も抹消可能:不動産登記法第70条の特例・供託・時効主張で対応
● 債務超過なら相続放棄を3か月以内に:民法第915条/家庭裁判所への申述で対応
● 司法書士に依頼すれば1〜2か月で完了:相続登記0.4%+抹消登記1物件1,000円+報酬
住宅ローンや事業融資の担保で抵当権が設定された不動産を相続したとき、相続人は何をすべきか — 残債は引き継ぐのか、抵当権は自動で消えるのか、放棄はできるのか、迷う論点が多いテーマです。本記事では司法書士が「ローン残債あり/完済済みだが抹消未了/古い休眠担保」の3パターン別の判断フローと、団信確認・相続放棄判断・抹消手続きまでをわかりやすく整理します。
抵当権付き不動産を相続したら何をすべきか(3パターン判定フロー)
抵当権付き不動産の相続は、まず「現在の登記がどの状態か」を把握することから始まります。下記の3パターンで対処が大きく分かれます。
どのパターンに該当するかは、登記事項証明書(登記簿謄本)を法務局で取得すれば把握できます。記載されている抵当権者(金融機関名)に問い合わせるのが最初のアクションです。
抵当権付き不動産を相続した時の基本フロー
- 登記事項証明書を取得して抵当権の登記内容を確認する
- 抵当権者(金融機関)に連絡し、被相続人の死亡を通知+残債照会+団信加入の有無を確認
- 残債の状況に応じて「相続承継」「団信適用」「相続放棄」のいずれかを判断
- 相続登記(所有権移転)と抵当権抹消登記(または相続承継)を法務局に申請
- 完了(登記識別情報通知を受領)
パターン①:住宅ローン残債がある場合の対処
被相続人の住宅ローンが返済中で抵当権が有効に存在している場合、まず確認すべきは団体信用生命保険(団信)への加入の有無です。
団信加入の確認手順
団信に加入していれば、被相続人の死亡により残債は団信から保険金で完済され、抵当権を抹消できます。確認手順は次のとおり。
- 被相続人が利用していた金融機関の窓口またはローン担当部署に連絡
- 戸籍謄本(死亡の事実が分かるもの)を提示して死亡を通知
- 「団信加入の有無」「残債額」「団信適用申請に必要な書類」を確認
- 団信加入の場合:医師の死亡診断書・団信申請書等を提出
- 保険金で残債完済→金融機関から抵当権抹消書類が交付される
注意:口座凍結のタイミング
金融機関に死亡を届け出ると、被相続人名義の預金口座は凍結され、公共料金の引き落としなども止まります。生活費や葬儀費用の支払いに支障がないかを確認したうえで、死亡通知と団信・残債の照会を進めてください。
団信に加入していないケース:フラット35の団信は2017年9月以前は任意加入、事業性ローン・古い住宅ローン・セカンドハウスローンも団信不加入のことが多いため、確認時に「団信不加入」と判明することは珍しくありません。
団信に加入していなかった場合
団信不加入の場合、住宅ローン残債は相続財産(マイナスの財産)として相続人が承継します。承継方法は次の3パターン。
- 法定相続分での当然分割:住宅ローン等の金銭債務は、相続開始により法定相続分に応じて当然に分割承継されます(各相続人が自分の相続分に応じた返済義務を負う)
- 遺産分割協議で1人が引き受け:不動産を取得する相続人が残債も引き受ける場合、他の相続人を返済義務から外すには金融機関の同意(免責的債務引受の承認・引受審査)が必要です
- 相続放棄:プラス財産も含めて全て放棄(後述)
注意:金融機関の引受審査
遺産分割協議で1人が残債を引き継ぐ場合、その相続人に支払能力があるか金融機関の引受審査が必要です。審査に通らない場合、不動産を売却して残債完済する選択肢も検討します。
債務超過なら相続放棄も検討
不動産の評価額より残債のほうが大きい(債務超過)場合は、相続放棄を検討します。
- 期限:自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法第915条)
- 申述先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 効果:相続人ではなかったことになる(プラスもマイナスも一切承継しない)
- 注意:相続財産を処分した後では原則放棄不可(単純承認とみなされる/民法第921条)
限定承認(プラス財産の範囲でマイナス財産を承継)も選択肢ですが、相続人全員での申述が必要で実務的にはハードルが高めです。
パターン②:完済済みだが抹消登記が残っている場合
住宅ローンは過去に完済しているものの、抵当権抹消登記が申請されないまま登記簿に残っているケースは非常に多く見られます。
放置すると起きる問題
完済済みの抵当権を放置していると、①不動産を売却するときに買主から抹消を求められる(抹消しないと売れない) ②新たな住宅ローン・事業融資の担保にできない ③相続のたびに手続きが複雑化(金融機関の合併・解散で書類取得が困難に)といった支障が出ます。気づいた時点で抹消登記を申請してください。
必要な手続きの流れ
完済済みの場合、相続登記と抵当権抹消登記を並行または順次で申請します。
完済済み抹消の手続きフロー
- 金融機関に連絡して「抵当権抹消書類」の交付を依頼(弁済証書・解除証書・登記済証または登記識別情報・委任状等)
- 戸籍謄本・遺産分割協議書等を収集して相続登記を準備
- 法務局に相続登記(所有権移転)と抵当権抹消登記を申請
- 登記完了→登記事項証明書で抵当権欄が抹消されたことを確認
抵当権抹消登記の必要書類・自分でやる手順の詳細は、別ページ 抵当権抹消登記を自分でやる方法 をご覧ください。
かかる費用の目安
(土地+建物=2,000円)
(事務所により異なる)
費用の詳細・司法書士報酬の相場については 抵当権抹消費用|司法書士報酬16,500円+登録免許税【総額2.0〜2.5万円】 をご参照ください。
パターン③:古い抵当権・休眠担保が残っている場合
戦前〜昭和初期に設定された古い抵当権が登記簿に残ったままで、抵当権者(金融機関・個人)が既に存在しない、あるいは所在不明というケースもあります。これを「休眠担保」と呼びます。
休眠担保抹消の選択肢
方法A:金融機関の合併・承継先を辿る
抵当権者が銀行の場合、合併や事業譲渡で承継先の金融機関が現在も存在するケースが多くあります。金融庁の金融機関統廃合一覧や法務局で承継履歴を調査し、承継先から抹消書類を取得します。
方法B:不動産登記法第70条による単独申請
抵当権者の所在が不明、または死亡・解散しているなどで連絡が取れない場合、不動産登記法第70条に基づく単独申請が可能です。
- 第70条第1項・第3項(公示催告→除権決定):登記権利者が裁判所に公示催告(第1項・非訟事件手続法第99条)を申し立て、除権決定(第3項・非訟事件手続法第106条第1項)を得て単独で抹消登記を申請
- 第70条第4項(供託による単独申請):被担保債権の弁済期から20年経過+その期間を経過した後に被担保債権・利息・損害金等の全額に相当する金銭を供託することで、登記権利者が単独で抹消登記を申請可能
方法C:時効消滅の主張
被担保債権が消滅時効により消滅していれば、抵当権も付従性により消滅します。時効援用通知書を抵当権者(または承継人)に送付して合意抹消を目指す方法。実務的には公示催告や供託と併用されることが多くなります。
古い抵当権の抹消は書類調査・登記原因の特定が非常に煩雑で、専門知識が必要です。たとえば供託による方法(第70条第4項)では、明治・大正期の数円の元本であっても、長期間の利息・損害金を加えた全額を供託する必要があり、供託額が想定外に膨らむこともあります。供託額の計算書作成や法務局との事前照会には専門的判断を要します。当センターでは古い抵当権の抹消もご相談いただけます(関東対応エリアを中心)。
休眠担保権の抹消手続きの詳細(供託による単独抹消・除権決定・解散した法人の特例・費用の考え方)は「休眠担保権の抹消とは?古い抵当権を消す方法・費用を司法書士が解説」で詳しく解説しています。
抵当権付き不動産を相続したくない場合の選択肢
残債が大きい、抵当権処理が煩雑、固定資産税負担が重いなどの理由で、相続したくない不動産が出てくることがあります。選択肢は次のとおり。
相続放棄(民法第915条)
- 期限:自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内
- 申述先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 効果:相続人ではなかったことになる。プラス財産・マイナス財産すべて承継しない
- 注意:相続放棄しても、放棄の時に相続財産を現に占有している場合は、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が残る(民法第940条)
限定承認(民法第922条)
- 期限:相続放棄と同じく3か月以内
- 申述先:家庭裁判所
- 効果:プラス財産の範囲内でマイナス財産を承継。プラスの方が多ければ残りは相続人に
- 注意:相続人全員での共同申述が必要。実務的にはハードルが高い
相続後の選択肢:相続土地国庫帰属制度
3か月の期限を過ぎてしまった場合や、相続放棄では他の遺産も失ってしまう場合は、相続土地国庫帰属制度(2023年4月施行)の利用も検討できます。ただし建物がある土地・抵当権等の担保権が設定された土地は対象外のため、まず抵当権抹消が前提となります。
遺贈で抵当権付き不動産を受け取った場合の取扱い
遺言で「遺贈」として抵当権付き不動産を受け取った場合、受遺者は次の選択ができます。
包括遺贈の場合
包括遺贈(「全財産の3分の1」等の割合指定)の受遺者は、相続人と同一の権利義務を負います(民法第990条)。マイナス財産(残債)も承継するため、放棄したい場合は3か月以内に家庭裁判所へ遺贈放棄の申述が必要です。
特定遺贈の場合
特定遺贈(「○○の土地」等の物件指定)は、受遺者がいつでも放棄できます(民法第986条)。ただし、抵当権付き不動産を承継する場合、登記原因「遺贈」で所有権移転登記をした上で、抵当権の処理(団信申請・抹消・残債承継等)を別途進めます。
遺贈の場合の登記名義人住所証明書・遺言執行者の関与等、必要書類は通常の相続登記と異なります。専門家への相談が安全です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 抵当権が設定された不動産を相続したら、住宅ローンも自動的に引き継ぐのですか?
Q2. 団信に加入しているかどうかを確認する方法は?
Q3. 相続登記をすれば、抵当権の登記は自動的に消えますか?
Q4. 抵当権が残っている不動産は売却できますか?
Q5. 何十年も前の古い抵当権が残っていますが、抹消できますか?
Q6. 抵当権付き不動産を相続したくない場合はどうすればよいですか?
Q7. 遺贈で受け取った不動産に抵当権が残っていた場合は?
Q8. 抵当権抹消登記を自分でやる場合の費用は?
Q9. 抵当権の登記名義人(金融機関)が合併等で変わっている場合はどうしますか?
Q10. 抵当権付き不動産の相続を司法書士に依頼すべき判断基準は?
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