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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
最終更新日:2026年2月17日
団体信用生命保険(以下「団信」といいます)とは、住宅ローンの借主が返済期間中に死亡又は所定の高度障害状態になったときに、その保険金の給付によって住宅ローンの残高が完済される生命保険です。
住宅ローンは、個人が人生のなかで背負う最も大きな負債です。返済期間は通常20年〜35年という長期にわたるため、その間に契約者に万が一のことがあるリスクは常に存在します。団信は、そうしたリスクから残された家族と金融機関の双方を保護する重要な仕組みといえます。
「フラット35」など一部の例外を除き、多くの民間住宅ローンでは団信への加入が必須条件とされており、保険料は金利に含まれる(又は金融機関が負担する)形が一般的です。一方、住宅金融支援機構が提供するフラット35(新機構団信)では、2017年(平成29年)10月1日申込受付分から、それまで別途支払いだった団信の特約料が借入金利に含まれる取扱いに変更されました。なお、フラット35は健康上の理由等により新機構団信に加入しない場合でも利用することが可能です(その場合は団信に加入する場合に比べて借入金利が引き下げられます)。
住宅ローンの借主が亡くなったり重大な障害を負ったりした場合、借主の収入が途絶え、住宅ローンの返済が困難になります。残された家族が経済的に困窮し、最悪の場合、自宅に設定された抵当権を実行され、競売手続により第三者に売却されて住む場所を失ってしまうおそれがあります。
団信に加入していれば、保険金で住宅ローンが完済されるため、残された家族は住宅ローンの負担から解放されます。多額の負債を承継することなく、居住の安定が確保されるという強力な社会的意義をもっています。
団信に加入していても、すべてのケースで保険金が支払われるわけではありません。保険約款には「免責事由」が定められており、該当する場合には保険金が支払われず、住宅ローンの残債がそのまま遺族に残ることになります。
代表的な免責事由としては、以下のようなものがあります。
一般的な生命保険の場合、被保険者やその家族が保険金の受取人となりますが、団信の場合は仕組みが大きく異なります。
団信は、一般に融資機関側(金融機関や住宅金融支援機構など)を保険契約者および保険金受取人とし、住宅ローンの借主を被保険者とする特殊な形態の保険契約です。借主が亡くなったり所定の高度障害状態になったりした場合、生命保険会社から融資機関側へ直接保険金が支払われ、その保険金が住宅ローンに充当されて完済となる流れになります。
つまり、遺族(相続人)の手元に現金が入るわけではなく、保険金は金融機関と生命保険会社の間で処理されるという点が大きな特徴です。この仕組みは、後述する相続税の取り扱いにも大きく関わってきます。
団信の保障対象は「死亡」だけではありません。保険約款に定められた所定の「高度障害状態」に該当した場合にも、保険金によって住宅ローンが完済されます。
ただし、高度障害状態とは単なる重病や怪我を指すものではなく、両眼の視力の完全な喪失、中枢神経系への著しい障害による終身にわたる要介護状態、身体の一部の完全な喪失など、極めて重篤かつ回復の見込みがない状態を指します。
該当するかどうかは、担当医師の診断書だけでなく、引受保険会社による厳格な審査を経て決定されます。高度障害を理由に団信の適用を申請する場合には、約款の条件を事前に確認しておくことが大切です。
住宅ローンの契約者が亡くなった場合、遺族がまず行うべきことは、借入先の金融機関への速やかな「死亡の通知」です。この通知を起点として、金融機関側で団信の保険金請求手続きが開始されます。
団信の請求手続き自体は、預貯金の相続手続きに比べると、求められる書類の種類が少なく比較的簡素です。ただし、金融機関によって必要書類や所定書式は異なりますので、借入先に直接確認されることをお勧めします。一般的に求められる書類の例は以下のとおりです。
| 必要書類 | 発行機関・取得先 | 目的・留意点 |
|---|---|---|
| 団信弁済届(所定用紙) | 借入先の金融機関 | 遺族から金融機関に対する保険金請求と充当の意思を示す書面 |
| 死亡診断書(又は死体検案書) | 医療機関(担当医師) | 死亡の原因・日時・場所を証明する書類 |
| 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 本籍地の市区町村役場 | 被保険者の死亡の事実を公的に証明する書類 |
| 死亡の記載のある住民票(住民票除票) | 最後の住所地の市区町村役場 | 死亡の事実と住所を確認するための書類。金融機関によって求められる場合がある |
保険会社はこれらの書類をもとに審査を行い、問題がなければ保険金が金融機関へ支払われ、ローン残債が完済されます。
金融機関の内部では、住宅ローン・団信の手続きを担当する融資関連部署と、預貯金の解約・名義変更を担当する預金関連部署は通常別々です。遺族はこの2つの手続きを並行して進める必要があります。
預貯金の相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、全相続人の戸籍謄本・印鑑証明書、遺産分割協議書など、膨大な書類が必要となります。一方、団信の請求に必要な書類は、死亡診断書・戸籍謄本・住民票除票など比較的少数で済むケースが多いといえます(金融機関により異なります)。
団信の保険金が金融機関に支払われ、銀行のシステム上で住宅ローンの残債がゼロになっても、不動産に関する法的な手続きがすべて完了したわけではありません。法務局が管轄する不動産の「登記簿(登記記録)」における権利関係は、自動的に書き換わることはないため、「相続登記(不動産名義変更)」と「抵当権抹消登記」の2つの手続きが必要となります。
一般的に、住宅ローンを組む際には金融機関が債権を担保するために借主の住宅に抵当権を設定し、その登記を行います。住宅ローンは通常、借主がその住宅に住むことを前提としているため、住宅の名義人と住宅ローンの借主は一致していることがほとんどです。
団信に加入している住宅の名義人が亡くなった場合、保険金によって住宅ローンが完済されると、その住宅ローンを担保していた抵当権も実体上は消滅します。しかし、登記簿上の記録は自動では消えないため、抵当権抹消登記の手続きが必要になるのです。
不動産の登記簿には、所有者を示す「甲区」と、金融機関の抵当権などの担保権を示す「乙区」があります。
抵当権抹消登記を申請する際には、登記簿上の現在の所有者が手続きの主体となる必要がありますが、所有者が既に亡くなった被相続人名義のままでは手続きを進めることができません。
したがって、まず「相続登記」で被相続人から相続人へ所有権を移転し、その後に「抵当権抹消登記」を行うという順序が法律上の原則です。実務上は法務局に対して相続登記と抵当権抹消登記の連件申請(同時に複数の申請を行うこと)が認められており、司法書士に依頼する場合はこの形式が一般的です。
「住宅ローンの支払いは終わっているのだから、わざわざ費用と手間をかけて抵当権を消す必要はないのでは?」と考える方もいらっしゃいます。しかし、抵当権の登記を放置することは将来にわたって不動産の活用を著しく制限する重大なリスクを伴います。
住宅ローンの完済後、金融機関の窓口又は郵送で交付される以下の書類が、抵当権抹消登記に必要となります。
| 必要書類 | 内容・留意点 |
|---|---|
| 解除証書又は弁済証書(登記原因証明情報) | 抵当権が「弁済」や「解除」によって消滅したという事実とその日付を証明する中核的な書類 |
| 登記識別情報又は登記済証 | 抵当権設定時(ローン借入時)に法務局から金融機関に交付された、いわゆる「権利証」の原本 |
| 金融機関の委任状 | 金融機関が不動産所有者又はその代理人(司法書士)に、抵当権抹消の登記申請権限を委任する書類 |
| 金融機関の登記事項証明書(又は会社法人等番号) | 金融機関の法人としての実在性と代表者の資格を証明する情報 |
以前は、金融機関の代表者の資格を証明する書面として、登記事項証明書(商業・法人登記簿謄本)の原本を添付する必要がありました。かつてはその有効期限が発行から「1ヶ月以内」と厳格に定められていたため、手続きが少しでも遅れると証明書の有効期限が切れ、取り直しを求められるケースが頻発していました。この点については、その後の改正により有効期限が「3ヶ月以内」に延長されています。
さらに、平成27年(2015年)11月以降の運用変更により、申請書に金融機関の「会社法人等番号」を正確に記載することで、法務局側でシステムを通じて法人の登記情報を直接照会できるようになりました。これにより、要件を満たす場合には代表者の資格を証する登記事項証明書の物理的な添付を省略することが可能となり、有効期限切れの問題も解消されるようになっています。
相続登記と抵当権抹消登記には、国に納付する登録免許税のほか、各種証明書の取得費用、司法書士に依頼する場合の報酬等が発生します。
| 費用の種類 | 金額の目安 |
|---|---|
| 相続登記の登録免許税 | 対象不動産の固定資産評価額 × 0.4% |
| 抵当権抹消登記の登録免許税 | 不動産1個につき1,000円(定額) |
| 司法書士への報酬 | 一般的な住宅のケースで概ね10万円〜20万円程度(事案により変動) |
団信によって数千万円規模の住宅ローンが完済されるという大きな経済的利益を踏まえると、登記にかかるこれらの費用は、残された不動産を法的に保護し安全に管理・活用していくための不可欠な必要経費といえるでしょう。
団信に関連する手続きのなかで、登記手続きと並んで高度な専門的判断が求められるのが、相続税の申告における取り扱いです。国税庁も「相続税の申告において誤りやすい事例」として団信に関する項目を明確に指摘しており、一般の方だけでなく専門家でも判断を誤りやすい分野です。
相続税法上、被相続人の死亡を原因として支払われる一般的な生命保険の死亡保険金は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象に取り込まれます(500万円 × 法定相続人の数の非課税枠あり)。
しかし、団信によって支払われる保険金は「みなし相続財産」には該当せず、相続税の対象外です。
その理由は団信の契約構造にあります。団信の保険契約者・保険金受取人はいずれも「金融機関」であり、保険金は生命保険会社から金融機関の口座に直接振り込まれてローン残高の弁済に充当されます。遺族の手元に新たな財産が増加するわけではないため、税法上も相続人の財産取得とはみなされないのです。
相続税の課税遺産総額は、大まかに次のように計算されます。
課税遺産総額 =(積極財産 + みなし相続財産)−(債務控除 + 葬式費用)− 基礎控除額
ここで最も深刻な申告ミスが起きやすいのが「債務控除」の取り扱いです。被相続人の死亡時点で住宅ローンの残高が存在していたことは事実なので、「遺産総額から債務控除として差し引けるはず」と考えてしまいがちです。
正しい税務処理としては、団信の保険金はみなし相続財産に含めずゼロとして扱い、住宅ローンの残債も債務控除から除外してゼロとして扱う(両者を相殺して申告書に一切反映させない)という処理が求められます。
この原則を誤り、住宅ローンを債務控除に算入して過少な相続税額で申告した場合、税務調査により不足分の税金に加え、過少申告加算税や延滞税といったペナルティを課されるリスクがあります。
「住宅ローンという借金が消滅するのだから、経済的な利益(債務免除益)を得たことになり、所得税がかかるのでは?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
本来、借金が免除されることは経済的利益にあたりますが、団信による住宅ローンの完済については、所得税・住民税も課税されません。
その根拠としては、所得税法第9条において「心身に加えられた損害に起因して取得するもの」等が非課税所得として定められていることに加え、団信の保険金はそもそも相続人(遺族)が直接受け取るものではなく、金融機関と保険会社の間で処理されるという契約構造にあります。相続人に直接の経済的利益が帰属するものではないことから、実務上も非課税として取り扱われています。
住宅ローンの返済原資がどのような保険によるものかで、相続税の取り扱いには大きな違いが生じます。以下の3つのケースを整理しておきましょう。
| 保険加入の状況 | 死亡保険金の扱い | 住宅ローン残債の扱い |
|---|---|---|
| 団信加入(保険金で完済) | 受取人が金融機関のため、みなし相続財産に該当しない(課税対象外) | 保険金で補填されることが確実なため、債務控除は不可 |
| 一般の生命保険を返済に充てる場合 | 受取人である相続人が現金を受け取るため、みなし相続財産として課税対象(500万円 × 法定相続人数の非課税枠あり) | 相続人が負債を承継し自ら返済するため、債務控除が可能 |
| 保険未加入(自己資金で返済) | 保険金の支払いなし | 相続人が完全な負債として承継するため、債務控除が可能 |
このように、団信に加入していない場合に遺族が自ら受取人となっている一般の生命保険で住宅ローンを返済するケースでは、保険金はみなし相続財産として計上し、住宅ローン残債は債務控除するという、団信とは全く逆のアプローチが必要です。この違いを混同することが税務トラブルの大きな原因となります。
近年、共働き世帯の増加に伴い、夫婦の収入を合算してより高額な物件を購入するための「ペアローン」や「連帯保証」を利用するケースが増えています。しかし、これらの契約形態には、当事者の一方が亡くなった際に深刻な問題が生じるリスクがあります。
ペアローンとは、同一の物件に対して夫婦がそれぞれ個別の住宅ローン契約を結び、互いに相手の連帯保証人となる仕組みです。この場合、団信の保障は「死亡した本人の借入残高」のみに限られます。
例えば、夫が3,000万円・妻が3,000万円のペアローンを組んでいた場合に夫が亡くなると、夫名義の3,000万円は団信で完済されますが、妻名義の3,000万円のローンはそのまま残ります。世帯収入が減少するなか、自身のローン返済を続けなければなりません。
一方が主債務者、もう一方が連帯保証人・連帯債務者という契約形態でも同様の注意が必要です。主債務者が亡くなれば団信で全額弁済されますが、連帯保証人・連帯債務者側が亡くなった場合は、原則としてローン残高は1円も免除されません。
健康上の理由で団信に加入できなかった場合や、返済の滞納等で団信が失効していた場合、遺族には住宅ローンの全額が「負債の相続」としてのしかかります。このような状況で取り得る主な選択肢は以下のとおりです。
| 選択肢 | 概要 | 期限・要件 |
|---|---|---|
| ①単純承認(返済を引き継ぐ) | 不動産の価値がローン残高を上回る場合や、居住継続を優先し返済を完遂できる収入がある場合に選択。相続財産の処分行為を行ったり、相続開始を知ってから3ヶ月何もしなければ自動的に単純承認となる | 特段の手続き不要(3ヶ月の不作為で自動成立) |
| ②限定承認 | 相続で得たプラスの財産の範囲内でのみ負債を清算する方法。自己の固有財産を持ち出す必要がないリスクヘッジに優れた手法 | 相続開始を知ってから3ヶ月以内に、相続人全員で共同して家庭裁判所へ申述 |
| ③相続放棄 | ローン残高が不動産の市場価値を大幅に上回るオーバーローンの場合に有効。ローン返済義務から完全に解放されるが、全ての遺産に対する権利を失う | 相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ単独で申述 |
| ④任意売却 | 単純承認後にローン返済が困難になった場合に、金融機関の合意を得て市場価格に近い金額で売却する方法。競売よりも高値で売れる可能性がある | 金融機関との交渉・合意が必要 |
住宅ローン契約者の死亡に伴う一連の手続きは、金融機関との折衝、保険法や民法に基づく時効管理、法務局に対する不動産登記申請、相続税計算など、複数の専門領域にまたがる複雑なプロジェクトです。
これらの手続きを、深い悲しみのなかで法律に不慣れな方がすべてミスなく完遂することは容易ではありません。一度でも手続きの順序や税務判断を誤ると、大きな経済的損失や追徴課税という取り返しのつかない事態を招くおそれがあります。
司法書士は不動産登記の専門家として、以下のような業務を遺族に代わって遂行します。
また、相続税に関しては、相続税実務に精通した税理士の助言を受けることで、団信に関する債務控除の誤適用をはじめとする致命的な申告ミスを未然に防ぐことができます。

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