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団体信用生命保険(団信)と住宅ローンの相続・登記手続きガイド


《この記事の作成者兼監修者》

司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (
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​最終更新日:2026年8月29日

団体信用生命保険(団信)とは?

団体信用生命保険(以下「団信」といいます)とは、住宅ローンの借主が返済期間中に死亡したとき、または加入している団信で定められた所定の保障事由に該当したときに、その保険金の給付によって住宅ローンの残高が完済される生命保険です。死亡以外の保障事由は商品によって異なり、民間金融機関の団信では所定の「高度障害状態」、フラット35の新機構団信では所定の身体障害状態などが定められています(詳しくは後述します)。

住宅ローンは、個人が人生のなかで背負う最も大きな負債です。返済期間は通常20年〜35年、近年では40年・50年ローンといった超長期の商品も増えているため、その間に契約者に万が一のことがあるリスクは常に存在します。「もし契約者が死んだら(亡くなったら)、残りの住宅ローンはどうなるのか」――団信は、そうした不安から残された家族と金融機関の双方を守る重要な仕組みといえます。

「フラット35」など一部の例外を除き、多くの民間住宅ローンでは団信への加入が必須条件とされており、保険料は金利に含まれる(又は金融機関が負担する)形が一般的です。一方、住宅金融支援機構が提供するフラット35(新機構団信)では、2017年(平成29年)10月1日申込受付分から、それまで別途支払いだった団信の特約料が借入金利に含まれる取扱いに変更されました。なお、フラット35は健康上の理由等により新機構団信に加入しない場合でも利用することが可能です(その場合は団信に加入する場合に比べて借入金利が引き下げられます)。

なお、健康上の理由等により通常の団信に加入できない場合でも、引受条件が緩和された「ワイド団信」が利用できる場合があります。ワイド団信は通常の団信に比べて金利に一定の保険料相当額が上乗せされますが、死亡時・高度障害時にローンが完済されるという効果は同じです。

団信の存在理由と社会的意義

住宅ローンの借主が亡くなったり重大な障害を負ったりした場合、借主の収入が途絶え、住宅ローンの返済が困難になります。残された家族が経済的に困窮し、最悪の場合、自宅に設定された抵当権を実行され、競売手続により第三者に売却されて住む場所を失ってしまうおそれがあります。

団信に加入していれば、保険金で住宅ローンが完済されるため、残された家族は住宅ローンの負担から解放されます。多額の負債を承継することなく、居住の安定が確保されるという強力な社会的意義をもっています。

団信がおりない・保険金が支払われないケース(免責事由)

団信に加入していても、すべてのケースで保険金が支払われるわけではありません。いわゆる「団信がおりない」(保険金が支払われない)状態になるのは、主に保険約款に定められた「免責事由」に該当する場合です。裏を返せば、病死・事故死・老衰といった死因の違いそのものによって支払いの可否が分かれるわけではなく、免責事由に該当しない限り、死亡は原則として保障の対象です。免責事由に該当して保険金が支払われなかった場合、死亡時に残っていた住宅ローン債務は相続債務として扱われます(誰が最終的に負担するかは、相続放棄・限定承認の有無や、連帯債務・連帯保証といった契約関係によって変わります)。

代表的な免責事由としては、以下のようなものがあります。

  • 加入日(保障開始日・責任開始日)から一定期間内の自殺による死亡の場合、保険金は支払われません。たとえばフラット35の新機構団信では「保障開始日から1年以内の自殺」が死亡保険金の免責事由として定められています。民間金融機関の団信は保険会社ごとに約款が異なりますので、期間は必ずご自身の約款でご確認ください。
  • 保険契約者や被保険者の故意による事故(詐欺目的など)の場合
  • 告知義務違反(加入時の健康状態について事実と異なる告知をした場合)が発覚し、保険契約が解除された場合
免責事由に該当した場合、団信の保険金は支払われず、住宅ローンの残債は相続債務として承継の対象になります。ただし告知義務違反については例外があり、住宅金融支援機構は告知義務違反による解除の場合について「ただし、支払事由の発生が解除の原因となった事実によらない場合には、支払われます。」としています。告知しなかった事実と死亡との間に因果関係がないときは、契約が解除されても保険金が支払われるという趣旨です。いずれにしても最終的な支払いの可否は、約款に基づいて引受保険会社・金融機関が判断します。万が一の際にご家族が困らないよう、約款の免責事由を事前に確認しておきましょう。

団信の保険金の流れ (一般の生命保険との違い)

一般的な死亡保険の場合、契約で指定された配偶者や子などの遺族が保険金の受取人となりますが、団信の場合は仕組みが大きく異なります。

団信は、一般に融資機関側(金融機関や住宅金融支援機構など)を保険契約者および保険金受取人とし、住宅ローンの借主を被保険者とする特殊な形態の保険契約です。借主が亡くなったり所定の高度障害状態になったりした場合、生命保険会社から融資機関側へ直接保険金が支払われ、その保険金が住宅ローンに充当されて完済となる流れになります。

つまり、遺族(相続人)の手元に現金が入るわけではなく、保険金は金融機関と生命保険会社の間で処理されるという点が大きな特徴です。この仕組みは、後述する相続税の取り扱いにも大きく関わってきます。

「高度障害状態」の適用基準

団信の保障対象は「死亡」だけではありません。多くの民間金融機関の団信では、保険約款に定められた所定の「高度障害状態」に該当した場合にも、保険金によって住宅ローンが完済されます。なお、死亡以外の保障事由は団信ごとに異なり、フラット35の新機構団信には高度障害保険金の取扱いがなく、所定の身体障害状態が別の基準で定められています(後述)。

ただし、高度障害状態とは単なる重病や怪我を指すものではなく、両眼の視力の完全な喪失、中枢神経系への著しい障害による終身にわたる要介護状態、身体の一部の完全な喪失など、極めて重篤かつ回復の見込みがない状態を指します。

該当するかどうかは、担当医師の診断書だけでなく、引受保険会社による厳格な審査を経て決定されます。高度障害を理由に団信の適用を申請する場合には、約款の条件を事前に確認しておくことが大切です。

ここで注意したいのは、「死亡以外でローンが完済される基準」は加入している制度によって異なるという点です。民間金融機関の団信では、保険約款に定められた所定の高度障害状態が基準であり、公的な障害等級とは別の基準です。これに対して、フラット35の新機構団体信用生命保険(2017年10月1日申込受付分以降)では、住宅金融支援機構が「保障開始日以後の傷害または疾病により、身体障害者福祉法に定める障害の級別が1級または2級に該当し、身体障害者手帳の交付を受けたとき」を、機構に対する債務が全額弁済される場合として明示しています。したがって「身体障害者手帳の等級は団信とは無関係」と考えるのは誤りです。ただしこの場合も、原因となった傷害・疾病が保障開始日以後に生じたものであることが条件とされています。ご自身がどの制度に加入しているかによって基準が変わりますので、該当するかどうかの判断は、約款の条件を確認したうえで借入先の金融機関・引受保険会社にご確認ください(当センターでは該当性の判定や保険金請求の手続きは行っておりません)。

住宅ローン契約者が死亡したときの手続きは?

金融機関への「死亡の通知」と保険金請求の時効(3年)

住宅ローンの契約者が亡くなった場合、遺族がまず行うべきことは、借入先の金融機関への速やかな「死亡の通知」です。この通知を起点として、金融機関側で団信の保険金請求手続きが開始されます。

保険法第95条第1項は、保険給付を請求する権利は、これを行使することができる時から3年間行使しないときは時効によって消滅すると定めています。死亡による保険給付は死亡の時から請求できるため、民法第140条の初日不算入により、実務上は死亡日の翌日から起算した3年となります。各社の約款でも「支払事由が生じた日の翌日から起算して3年」と定められているのが一般的です。なお、書類の提出期限や様式は、加入している団信の引受保険会社・借入先の金融機関ごとに定められており一律ではありません。具体的な期限・提出先は必ず借入先の金融機関にご確認ください。また団信では、保険金の受取人は通常、金融機関等です。遺族が一般の生命保険と同じ形で直接保険会社へ請求するわけではなく、遺族の役割は借入先へ速やかに死亡を連絡し、指示された書類を提出することにあります。手続きが遅れると、本来弁済されるはずだった残債の扱いに支障が生じるおそれがありますので、相続が発生したら早めに借入先へ連絡してください。

保険金請求に必要な書類

団信の請求手続き自体は、預貯金の相続手続きに比べると、求められる書類の種類が少なく比較的簡素です。ただし、金融機関によって必要書類や所定書式は異なりますので、借入先に直接確認されることをお勧めします。一般的に求められる書類の例は以下のとおりです。

必要書類 発行機関・取得先 目的・留意点
金融機関所定の請求書類 借入先の金融機関 遺族が死亡の事実を届け出て、団信による債務弁済の手続きを進めるための書面。名称・様式・提出者は金融機関や団信によって異なる
死亡診断書(又は死体検案書) 医療機関(担当医師) 死亡の原因・日時・場所を証明する書類
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) 本籍地の市区町村役場 被保険者の死亡の事実を公的に証明する書類
死亡の記載のある住民票(住民票除票) 最後の住所地の市区町村役場 死亡の事実と住所を確認するための書類。金融機関によって求められる場合がある

保険会社はこれらの書類をもとに審査を行い、問題がなければ保険金が金融機関へ支払われ、ローン残債が完済されます。

なお、当センターが取得を代行できるのは、相続登記・抵当権抹消登記に必要な戸籍・住民票等です。保険金請求そのものの代行は行っておりませんので、団信の請求手続きは借入先の金融機関の案内に従ってお進めください。

口座凍結と預貯金の相続手続きとの優先順位

金融機関の内部では、住宅ローン・団信の手続きを担当する融資関連部署と、預貯金の解約・名義変更を担当する預金関連部署は通常別々です。遺族はこの2つの手続きを並行して進める必要があります。

なお、金融機関に死亡を連絡すると、被相続人名義の預金口座は凍結(取引停止)され、その口座からの住宅ローンの引き落としもできなくなるのが一般的です。団信の審査が終わるまでの間の返済の要否や、死亡日以降に引き落とされた返済分の返金(精算)の取扱いは金融機関ごとに異なりますので、死亡の連絡の際にあわせて確認しておくと安心です。

預貯金の相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、全相続人の戸籍謄本・印鑑証明書、遺産分割協議書など、膨大な書類が必要となります。一方、団信の請求に必要な書類は、死亡診断書・戸籍謄本・住民票除票など比較的少数で済むケースが多いといえます(金融機関により異なります)。

実務上は、書類収集が容易な「団信の手続き」を先に進めるのが合理的です。ローン完済の事実を早期に確定させることで、精神的・経済的な負担が軽減されるとともに、後続する抵当権抹消登記への準備にもスムーズに移行できます。

契約者死亡後の相続登記と抵当権抹消登記の必要性

団信でローンが完済されても登記手続きは残る

団信の保険金が金融機関に支払われ、銀行のシステム上で住宅ローンの残債がゼロになっても、不動産に関する法的な手続きがすべて完了したわけではありません。法務局が管轄する不動産の「登記簿(登記記録)」における権利関係は、自動的に書き換わることはないため、「相続登記(不動産名義変更)」と「抵当権抹消登記」の2つの手続きが必要となります。

このうち相続登記は、令和6年(2024年)4月1日から法律上の義務になりました。原則として、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならず、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象となる可能性があります。一方、抵当権抹消登記にはこのような申請義務・期限はありませんが、売却や新規の借入れに支障が出ないよう、完済後は早めに済ませておくのが実務的です。相続登記の義務化について詳しくはこちら

一般的に、住宅ローンを組む際には金融機関が債権を担保するために借主の住宅に抵当権を設定し、その登記を行います。住宅ローンは通常、借主がその住宅に住むことを前提としているため、住宅の名義人と住宅ローンの借主は一致していることがほとんどです。

団信に加入している住宅の名義人が亡くなった場合、保険金によって住宅ローンが完済されると、その住宅ローンを担保していた抵当権も実体上は消滅します。しかし、登記簿上の記録は自動では消えないため、抵当権抹消登記の手続きが必要になるのです。

登記申請の順序:まず相続登記から

不動産の登記簿には、所有者を示す「甲区」と、金融機関の抵当権などの担保権を示す「乙区」があります。

抵当権抹消登記は、抵当権が消滅したことによって利益を受ける不動産の所有者(登記権利者)と、金融機関(登記義務者)とが共同で申請します。団信によってローンが完済された場合は、抵当権が消滅したのが所有者の死亡よりも後になるため、登記権利者はその不動産を相続した相続人です。したがって、先に相続登記で名義を相続人に移しておく必要があります。

つまり、まず「相続登記」で被相続人から相続人へ所有権を移転し、その後に「抵当権抹消登記」を行うという順序になります。実務上は法務局に対して相続登記と抵当権抹消登記の連件申請(同時に複数の申請を行うこと)が認められており、司法書士に依頼する場合はこの形式が一般的です。

これに対して、生前に住宅ローンを完済していたのに抵当権抹消登記だけを済ませないまま亡くなったというケースは扱いが異なります。この場合は抵当権が消滅したのが死亡よりも前なので、登記権利者は被相続人です。不動産登記法第62条(一般承継人による申請)は、登記権利者について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人がその登記を申請することができると定めているため、相続登記を経ずに被相続人名義のまま抵当権抹消登記を申請することができます。抵当権抹消登記の手続き全般はこちら

抵当権を放置するリスク

「住宅ローンの支払いは終わっているのだから、わざわざ費用と手間をかけて抵当権を消す必要はないのでは?」と考える方もいらっしゃいます。しかし、抵当権の登記を放置することは将来にわたって不動産の活用を著しく制限する重大なリスクを伴います。

  • 登記簿に抵当権が残っていると、将来不動産を売却しようとしても、買主が購入を拒否する原因になります。
  • リフォームや建て替えのために新たな融資を受ける際にも、過去の抵当権が残っている状態では融資審査が通らないおそれがあります。
  • 手続きを後回しにしている間にさらなる相続(数次相続)が発生すると、手続きに関与すべき相続人が増え、権利関係が複雑になります。
  • 金融機関の合併・商号変更・本店移転があると、登記簿上の抵当権者の表示と、金融機関から受け取った解除証書・弁済証書・委任状の記載が食い違うことがあります。この場合、変更の経緯が分かる書類(当該金融機関等の商業登記簿謄本等)が別途必要となることがあり、手間と時間が増えます(なお、合併そのものによって、いったん受け取った書類の効力が失われるわけではありません)。
抵当権抹消登記自体は法律上の義務ではありませんが、そのままにしておくと将来いざ手続きをするときに書類を紛失していたり手続きが複雑になったりするおそれがあるため、相続登記の機会にあわせて手続きされることを強くお勧めします。

抵当権抹消登記の必要書類

住宅ローンの完済後、金融機関の窓口又は郵送で交付される以下の書類が、抵当権抹消登記に必要となります。

必要書類 内容・留意点
解除証書又は弁済証書(登記原因証明情報) 抵当権が「弁済」や「解除」によって消滅したという事実とその日付を証明する中核的な書類
登記識別情報又は登記済証 抵当権設定時(ローン借入時)に法務局から金融機関に通知・交付されたもの。登記識別情報は12桁の符号からなる「情報」を提供する仕組みで、紙そのものが権利証として効力を持つ旧制度の登記済証とは取扱いが異なります
金融機関の委任状 金融機関が不動産所有者又はその代理人(司法書士)に、抵当権抹消の登記申請権限を委任する書類
金融機関の登記事項証明書(又は会社法人等番号) 金融機関の法人としての実在性と代表者の資格を証明する情報

会社法人等番号の活用と登記事項証明書の「作成後3か月以内」の取扱い

平成27年(2015年)11月2日施行の不動産登記令等の改正により、法人が不動産登記を申請する場合は、代表者の資格を証する登記事項証明書を添付するのではなく、申請情報に金融機関の「会社法人等番号」を記録・記載するのが原則になりました。法務省のQ&Aでも、会社法人等番号を有する法人が不動産登記を申請する場合には会社法人等番号を提供しなければならないとされています。

会社法人等番号に代えて登記事項証明書を提供することもできますが、その場合は作成後の期間に制限があります。法務省は「作成後3か月以内(令和2年3月29日までは,作成後1か月とされていました。)」としており、令和2年(2020年)3月30日から、1か月以内が3か月以内に緩和されました。この「3か月以内」は無条件の有効期限ではなく、あくまで会社法人等番号に代えて登記事項証明書を提供する場合の期間である点にご注意ください。

登記手続きにかかる費用

相続登記と抵当権抹消登記には、国に納付する登録免許税のほか、各種証明書の取得費用、司法書士に依頼する場合の報酬等が発生します。

費用の種類 金額の目安
相続登記の登録免許税 原則として対象不動産の固定資産評価額 × 0.4%。ただし土地については令和9年(2027年)3月31日まで免税措置があり、不動産の価額が100万円以下の土地の相続登記などは登録免許税が免除されます(申請書に租税特別措置法第84条の2の2第2項による非課税である旨の記載が必要)
抵当権抹消登記の登録免許税 不動産1個につき1,000円(同一の申請書により20個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合は、申請1件につき20,000円)。土地1筆+建物1棟の一戸建てなら2個で2,000円
司法書士への報酬 一般的な住宅のケースで概ね10万円〜20万円程度(事案により変動)

登記を申請する場合は、登録免許税や証明書取得費などの実費がかかり、司法書士へ依頼する場合には別途報酬が発生します。相続登記には申請期限があり、抵当権抹消登記も売却や借換えの前提になりますので、必要な手続と費用を早めに確認しておくとよいでしょう。

団信と相続税の関係 ― 申告時に注意すべき2つのポイント

団信に関連する手続きのなかで、登記手続きと並んで高度な専門的判断が求められるのが、相続税の申告における取り扱いです。国税庁も「相続税の申告において誤りやすい事例」として団信に関する項目を明確に指摘しており、一般の方だけでなく専門家でも判断を誤りやすい分野です。

ポイント①:団信の保険金は「みなし相続財産」にならない

相続税法上、被相続人の死亡を原因として支払われる一般的な生命保険の死亡保険金は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象に取り込まれます(500万円 × 法定相続人の数の非課税枠あり)。

しかし、団信によって支払われる保険金は「みなし相続財産」には該当せず、相続税の対象外です。

その理由は団信の契約構造にあります。団信の保険契約者・保険金受取人はいずれも「金融機関」であり、保険金は生命保険会社から金融機関の口座に直接振り込まれてローン残高の弁済に充当されます。遺族の手元に新たな財産が増加するわけではないため、税法上も相続人の財産取得とはみなされないのです。

ポイント②:住宅ローン残債は「債務控除」できない

相続税の課税遺産総額は、大まかに次のように計算されます。以下は団信との関係を説明するために簡略化したイメージで、実際の計算では非課税財産や一定期間内の生前贈与の加算なども考慮します。

課税遺産総額 =(積極財産 + みなし相続財産)−(債務控除 + 葬式費用)− 基礎控除額

ここで最も深刻な申告ミスが起きやすいのが「債務控除」の取り扱いです。被相続人の死亡時点で住宅ローンの残高が存在していたことは事実なので、「遺産総額から債務控除として差し引けるはず」と考えてしまいがちです。

団信の保険金によって返済が免除される住宅ローンの残債は、相続税法上の債務控除として認められません。相続税法上、遺産額から控除できる債務は「確実と認められる債務」に限られますが、団信によって返済が免除される住宅ローンは、被相続人の死亡により支払われる保険金によって補填されることが確実で、相続人が支払う必要のない債務にあたるためです。反対に、免責事由に該当するなどして保険金が支払われず、住宅ローン債務が実際に相続人へ承継される場合は、取扱いが異なります。

正しい税務処理としては、団信の保険金を相続人が取得する財産として計上せず、団信で弁済される住宅ローン残債についても債務控除を行わないという処理になります。保険金と債務を申告書上で相殺しているのではなく、それぞれ別の理由で相続税の計算に入らないという点にご注意ください。

この原則を誤り、住宅ローンを債務控除に算入して過少な相続税額で申告した場合、税務調査により不足分の税金に加え、過少申告加算税や延滞税といったペナルティを課されるリスクがあります。

相続税の申告が必要かどうかの判定には、見落としやすい注意点があります。国税庁は、判定の基礎となる「財産の価額の合計額」について「租税特別措置法第69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)および租税特別措置法第69条の5(特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例)等を適用しない場合における課税価格の合計額をいいます」としています(国税庁タックスアンサー No.4205 注2)。つまり、小規模宅地等の特例を適用すれば基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)以下になるというケースでも、特例を適用する前の金額で判定することになります。自宅の土地はこの特例の対象になりやすいため、「基礎控除額以下だから申告は不要」と自己判断するのは危険です。申告の要否は必ず税理士にご確認ください。

補足:団信による完済に所得税はかかるのか?

「住宅ローンという借金が消滅するのだから、経済的な利益(債務免除益)を得たことになり、所得税がかかるのでは?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

本来、借金が免除されることは経済的利益にあたりますが、団信による住宅ローンの完済については、所得税・住民税も課税されません。

この点について国税庁は、団体信用保険の課税上の取扱いを定めた通達(昭和44年5月26日 官審(法)34ほか「団体信用保険にかかる課税上の取扱いについて」)で、「保険事故が死亡であった場合の賦払償還債務の免除に関しては、相続税の課税上は相続人によって承継される債務がないものとし、被保険者である顧客およびその相続人について所得税の課税関係は生じない。」としています。住宅ローンの団信についても、この取扱いに沿って所得税の課税関係は生じないものとして扱われています。所得税の課税関係が生じない以上、これを課税標準の基礎とする住民税も課されません。

なお、同じ通達は、保険事故が廃疾(団信でいう高度障害)であった場合については「その利益が身体の傷害に基因して受けるものであるので、所得税の課税関係は生じない。」としており、死亡の場合と高度障害の場合とでは、非課税とされる理由づけが異なります。

この取扱いの背景には、団信の保険金がそもそも相続人(遺族)の手元に入るものではなく、金融機関と保険会社の間で処理されるという契約構造があります。遺族が保険金を受け取ってから自分で返済に充てる一般の生命保険とは、この点で扱いが異なります(次の章で3つのケースを比較します)。

まとめると、亡くなった本人の住宅ローンを通常の団信で弁済するケースでは、その債務の免除について相続税・所得税・住民税のいずれも課税されないということになります。ただし、相続した不動産そのものは相続税の課税対象(路線価等による評価)となりますので、その点は区別して理解しておく必要があります。また、ペアローンで一方に保険事故が生じるともう一方の債務まで弁済される「連生型」の団信のように、亡くなった方以外の債務まで免除される商品では、課税関係が通常の団信と異なる場合があります。ご自身の契約の課税上の取扱いは、商品内容を確認のうえ税理士にご確認ください。

保険の種類による税務上の違い ― 3つのケースを比較

住宅ローンの返済原資がどのような保険によるものかで、相続税の取り扱いには大きな違いが生じます。以下の3つのケースを整理しておきましょう。

保険加入の状況 死亡保険金の扱い 住宅ローン残債の扱い
団信加入(保険金で完済) 受取人が金融機関のため、みなし相続財産に該当しない(課税対象外) 保険金で補填されることが確実なため、債務控除は不可
一般の生命保険を返済に充てる場合
(被相続人が保険料を負担し、相続人が死亡保険金を受け取るケース)
受取人である相続人が現金を受け取るため、みなし相続財産として課税対象(相続人が受け取る死亡保険金には原則「500万円 × 法定相続人の数」の非課税限度額)。契約者・保険料負担者・受取人の組合せが異なる場合は、所得税や贈与税の対象となることがあります 相続人が負債を承継し自ら返済するため、債務控除が可能
保険未加入(自己資金で返済) 保険金の支払いなし 相続人が完全な負債として承継するため、債務控除が可能

このように、団信に加入していない場合に遺族が自ら受取人となっている一般の生命保険で住宅ローンを返済するケースでは、保険金はみなし相続財産として計上し、住宅ローン残債は債務控除するという、団信とは全く逆のアプローチが必要です。この違いを混同することが税務トラブルの大きな原因となります。

ペアローン・連帯保証と団信なし(未加入)の場合のリスク

ペアローン・連帯保証の注意点

近年、共働き世帯の増加に伴い、夫婦の収入を合算してより高額な物件を購入するための「ペアローン」や「連帯保証」を利用するケースが増えています。しかし、これらの契約形態には、当事者の一方が亡くなった際に深刻な問題が生じるリスクがあります。

ペアローンの場合

ペアローンとは、同一の物件に対して夫婦がそれぞれ個別の住宅ローン契約を結び、互いに相手の連帯保証人となる仕組みです。この場合、夫婦がそれぞれ個別の団信に加入しているのが基本形で、保障されるのは原則として保険事故に該当した本人の借入残高です。ただし、一方に保険事故が生じると双方のローンを弁済する「連生型」の団信を用意している金融機関もあるため、契約内容の確認が必要です。

例えば、夫婦がそれぞれ個別の団信に加入していて、夫が3,000万円・妻が3,000万円のペアローンを組んでいた場合に夫が亡くなると、夫名義の3,000万円は団信で完済されますが、妻名義の3,000万円のローンはそのまま残ります。世帯収入が減少するなか、自身のローン返済を続けなければなりません。

連帯保証・連帯債務の場合

一方が主債務者、もう一方が連帯保証人・連帯債務者という契約形態でも注意が必要です。ここで確認すべきは「誰が団信の被保険者になっているか」です。団信の保障対象になっていない連帯保証人・連帯債務者が亡くなっても、通常は団信による弁済はありません。ただし連帯保証人と連帯債務者では法的な地位が異なり、また連生型の団信では双方が保障対象になる商品もあります(フラット35の連帯債務でも、一人だけが加入する方法と、二人でデュエットに加入する方法があります)。

一部の金融機関やフラット35のオプションには、「夫婦連生団信(デュエット)」という特約があります。これは夫婦のどちらか一方に万が一のことがあった場合に、住宅ローン残高の全額が免除されるという強力な相互保障の仕組みです。ご自身の契約にどのような特約が付いているか、生前から確認しておくことが大切です。

団信なし(未加入)で死亡した場合の4つの法的選択肢

フラット35を団信なし(新機構団信に加入しない形)で利用していた場合や、健康上の理由等で団信に加入していなかった場合、契約上の保障終了事由に該当して団信の保障が終了していた場合など、団信による保障がないまま契約者が死亡すると保険金による完済は行われず、住宅ローンの残債は「負債の相続」の問題になります。このような状況で取り得る主な選択肢は以下のとおりです。

選択肢 概要 期限・要件
①単純承認(返済を引き継ぐ) 不動産の価値がローン残高を上回る場合や、居住継続を優先し返済を完遂できる収入がある場合に選択。相続財産の処分行為を行ったり、相続開始を知ってから3ヶ月何もしなければ自動的に単純承認となる 特段の手続き不要(3ヶ月の不作為で自動成立)
②限定承認 相続によって取得した財産の限度で被相続人の債務を負担する方法。共同相続人がいる場合は原則として全員で共同して行う必要があり、その後の清算手続も伴うため、検討する場合は早めの専門家相談が必要 相続開始を知ってから3ヶ月以内に、相続人全員で共同して家庭裁判所へ申述
③相続放棄 ローン残高が不動産の市場価値を大幅に上回るオーバーローンの場合に検討する。相続によって承継する住宅ローン債務は負担しなくなるが、全ての遺産に対する権利も失う。相続人自身が連帯債務者・連帯保証人として負っている契約上の責任は、相続放棄をしても原則として消滅しない点に注意 相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ単独で申述
④任意売却
(①〜③とは段階が異なります)
①〜③が「相続をどう扱うか」の選択であるのに対し、これは単純承認をした後に返済が困難になった場合の不動産の処分方法。金融機関の合意を得て市場価格に近い金額で売却する。なお金融機関との交渉および不動産の売却仲介は当センターの業務範囲外です 金融機関との交渉・合意が必要
単純承認・限定承認・相続放棄を選ぶための期間(熟慮期間)は、正確には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」です。被相続人が亡くなった日と必ず一致するわけではなく、先順位の相続人が放棄した後に相続人となった場合などは起算点が異なります。また、3か月以内に財産調査が終わらず判断できない場合は、期間内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てることができます。団信が支払われるかどうかは保険会社の審査結果を待たないと確定しないことがありますが、その審査中も熟慮期間は進行します。支払いの可否は借入先の金融機関・引受保険会社にご確認いただき、期限が迫っている場合は熟慮期間の伸長も含めて早めにご検討ください。
なお、相続放棄・限定承認を検討している段階で相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされることがあります。不動産の売却や名義の処分を行う前に必ず確認してください。

手続きの全体像と専門家への依頼

住宅ローン契約者の死亡に伴う一連の手続きは、金融機関との折衝、保険法や民法に基づく時効管理、法務局に対する不動産登記申請、相続税計算など、複数の専門領域にまたがる複雑なプロジェクトです。

これらの手続きを、深い悲しみのなかで法律に不慣れな方がすべてミスなく完遂することは容易ではありません。手続きの順序や税務判断を誤ると、余分な費用の負担や追徴課税といった経済的な不利益につながるおそれがあります。

司法書士が担う役割

司法書士は不動産登記の専門家として、以下のような業務を担当します。

  • 法定相続情報証明制度の活用や、戸籍謄本等の収集
  • 相続登記の申請に必要な範囲で、遺産分割協議の結果を登記用の遺産分割協議書として作成
  • 金融機関から交付された解除証書等の精査
  • 法務局に対する「相続登記」と「抵当権抹消登記」の連件申請
  • 親権者と未成年の子が共同相続人となるなど利益相反が生じる場合に、特別代理人選任申立てに必要な家庭裁判所提出書類を作成

また、相続税に関しては、相続税実務に精通した税理士の助言を受けることで、団信に関する債務控除の誤適用をはじめとする致命的な申告ミスを未然に防ぐことができます。

団体信用生命保険は、住宅ローンという大きな負債から家族を守るための優れた仕組みです。しかし、その効果を法的に確定させ、不動産を安全に次世代へ承継していくためには、時効を見据えた迅速な初動、正確な不動産登記、そして適切な税務申告が不可欠です。各分野の専門家を適切に活用することで、安全かつ円滑な財産承継を実現しましょう。
この記事の作成者兼監修者
板垣 隼(いたがき はやと)
司法書士 / 行政書士 / 1級FP技能士
司法書士法人 不動産名義変更手続センター 代表
司法書士事務所開業から17年。「難しいことを、やさしく、早く、正確に」をモットーに、相続登記や不動産名義変更の手続きをサポート。KINZAI Financial Plan・manegyへの寄稿実績あり。

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