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個人名義の不動産を法人名義に変更する手続きとメリット・デメリット


《この記事の作成者兼監修者》

司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (
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作成日:2026年5月11日

賃貸アパートや収益マンションをお持ちの方から、「個人名義の不動産を法人名義に切り替えたい」というご相談をいただくことが増えています。当センターには、「顧問税理士から法人化を勧められたが、実際の契約や登記手続きはどう進めればよいか」「相続の際、複数人へスムーズに承継させるために不動産を法人名義にしておきたい」といった、法人化に伴う法務・登記面のご相談が多く寄せられます。

ただし、個人から法人への「名義変更」は、単純な書類提出では完了しません。法律上は個人から法人への売買(または現物出資)として扱われ、登録免許税・不動産取得税は原則として必ず発生します。さらに、個人側で譲渡益が出れば譲渡所得税も加算されます。判断を誤るとコスト負けしてしまうため、メリットとデメリットを正しく理解したうえで進める必要があります。

このページでは、不動産名義変更について年間2,000件以上のご相談をお受けしている司法書士法人 不動産名義変更手続センターが、個人から法人への移転について、4つの方法の使い分け・税金とコストの実額・決済から登記完了までの段取りまで、ご相談の現場で実際にお伝えしている内容をそのまま整理してお伝えします。

この記事の要点(先に結論)

● 個人→法人の「名義変更」とは:実質的には売買または現物出資。無償で動かすと「みなし譲渡」で課税される

● 主な目的:所得分散・法人税率の活用・経費計上の幅・相続対策(株式化)

● 主なコスト:登録免許税(土地1.5%・建物2.0%/土地の1.5%は2029年3月31日までの軽減税率)/不動産取得税(土地:評価額×1/2×3%/建物:評価額×3〜4%)/譲渡益が出れば個人側に譲渡所得税

● 損益分岐の目安:賃料収入だけでなく、課税所得・含み益・取得費の把握状況・借入残高・今後の保有期間を合わせて5〜10年単位で試算

● 当センターの対応範囲:法人名義への所有権移転登記(売買登記)。税務試算は税理士業務範囲のため税理士にご相談ください

「個人→法人の名義変更」とは何か

「名義を変更する」と聞くと、市役所での住所変更のような単純な手続きをイメージされる方もいますが、個人と法人の間ではそうはいきません。個人と法人は法律上まったく別の権利義務の主体(法人格)として扱われるため、所有権を動かすには「売る」か「現物として出資する」かのいずれかの取引が必要になります。

法律上は「売買」「現物出資」のどちらかに該当する

個人が所有する不動産を法人に移す方法は、実務上は次の2つに集約されます。

  • 売買:個人(売主)が法人(買主)に時価で売却する。最も一般的な方法
  • 現物出資:法人の設立時または増資時に、現金の代わりに不動産を出資する

これに加えて、所有権自体は移さず賃料収入だけを法人に集める方法として、管理委託方式一括転貸(サブリース方式)の2つの選択肢があります(後述)。

「無償譲渡」を選ぶと税金で逆転する理由

「家族の会社に贈与すれば移転コストを抑えられるのでは」というご相談はよくあります。結論としては、個人から法人への無償譲渡(贈与)は法律上は可能ですが、税務上の取扱いが極めて不利になるため、実務上はほぼ選択されません。理由は次の3点です。

  1. 個人側に「みなし譲渡所得課税」(所得税法59条):時価で売却したものとみなされ、譲渡所得税が課される
  2. 法人側に「受贈益課税」:時価相当額が法人の益金として法人税の対象になる
  3. 同族会社の行為計算否認(所得税法157条/法人税法132条):時価より著しく低い対価での売買も、税負担を不当に減少させるものとして、税務署長の判断で時価ベースに引き直して課税されることがある

つまり、個人と法人の間では「タダで動かす」「相場より大きく安く動かす」という選択肢が事実上なく、適正な時価に基づく取引が前提になります。

業際の整理:売買価格は当事者間で決めますが、同族会社間では税務上の時価から外れていないかが問題になります。税務上の評価・課税リスクの検討は税理士、不動産鑑定評価が必要な場面は不動産鑑定士に確認し、司法書士は登記原因・登記必要書類との整合性を確認します。

個人不動産を法人で活用する4つのパターン

個人所有の不動産を法人で活用する方法は、大きく2系統・合計4つに整理されます。最初に切り分けを押さえてください。

  • 所有権を法人に移す方法(2つ):①売買 / ②現物出資
  • 所有権は個人のまま、所得の一部を法人に移す方法(2つ):③管理委託方式 / ④一括転貸(サブリース方式)

つまり「名義変更(所有権移転)」に該当するのは①②のみで、③④は所有権はそのままで賃料収入の流れを変える仕組みです。それぞれメリット・デメリットが異なるため、目的に応じて選択します。

方法
所有権の移転
主な用途
主なコスト・特徴
売買
個人 → 法人へ移転
収益不動産を法人で運営したい/長期的な節税・相続対策
登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税・印紙税
現物出資
個人 → 法人へ移転(出資)
法人の設立時・増資時に現金代わりに不動産を出資
同上+検査役の調査または専門家証明+不動産鑑定士の鑑定評価
管理委託方式
移転しない(個人のまま)
移転コストを避け、軽い所得移転で済ませたい
移転税は不要。所得移転効果は管理料の範囲に限定(料率の目安は5〜10%程度。実態判断が必須)
一括転貸
(サブリース方式)
移転しない(個人のまま)
所有権は残しつつ、管理委託より大きく所得を移したい
移転税は不要。法人が空室リスクを負う対価として管理委託より高めに設定可(料率の目安は10〜20%程度。実態判断が必須)

売買による移転(最も一般的)

個人が所有する不動産を、自分が代表を務める法人(または家族の同族会社)に時価で売却する方法です。所有権が完全に法人に移るため、家賃収入・売却益・固定資産税などすべてが法人帰属になります。

この方法の特徴は、家賃収入・売却益・固定資産税まですべてが法人帰属となり、所得・経費の流れが法人内で完結することです。家族役員への役員報酬支給、内部留保による再投資、株式承継による相続対策まで、不動産管理法人の標準的なスキームをそのまま適用できます。一方で、決算申告・社会保険手続き・取締役会運営など、個人保有にはなかった実務負担が増える点は次のH2-4で説明するとおりです。

移転時のコストは最も大きい部類で、登録免許税は土地1.5%(軽減税率)・建物2.0%、不動産取得税が3〜4%、個人側で譲渡益が出れば譲渡所得税も加算されます。

現物出資(法人設立・増資時)

新しく法人を設立する際、または既存法人の増資の際に、現金の代わりに不動産を出資する方法です。出資した不動産の時価相当額が、出資者(個人)の保有株式に置き換わります。

移転税は売買と同じくかかりますが、現金を用意する必要がない点がメリットです。一方で、株式会社の設立時に現物出資を行う場合は会社法33条、設立後の増資時に現物出資を行う場合は会社法207条が適用されます。いずれも定款(または取締役会決議等)に記載された現物出資財産等の価額の総額(複数財産を同時に出資する場合はその合計額)が500万円を超えると、原則として裁判所選任の検査役の調査が必要になります(会社法33条10項1号/同207条9項1号)。検査役調査を省略するには、弁護士・公認会計士・税理士等による価額相当証明が必要で、不動産を出資する場合は不動産鑑定士の鑑定評価書も併せて取得することが法律上要求されます(会社法33条10項3号/同207条9項3号)。証明者の手配・鑑定費用も含めて段取りが必要なので、現物出資を選ぶ場合は早めに動くのが実務的です。

譲渡所得税は発生する:「現物出資なら譲渡所得税はかからない」と誤解されることがありますが、個人が法人へ不動産を現物出資した場合も、税務上は資産の譲渡として扱われ譲渡所得課税の対象になります。収入金額は原則として取得した株式・出資持分の時価で判断しますが、その価額が不動産の時価の2分の1未満となる場合は、不動産の時価で譲渡したものとして課税される点に注意してください(所得税法59条)。法人間で行う法人税法上の「適格現物出資」とは別の規定であり、個人→法人のケースでは原則として課税が生じます。

管理委託方式(所有権は移転しない)

所有権は個人のまま据え置き、別途設立した管理会社(同族会社)に建物管理・賃借人対応・修繕の手配・賃料集金などの業務を委託する方式です。個人は家賃収入をそのまま受け取り、そこから法人に管理委託料を支払う形で、所得の一部を法人に振り分けます。

所有権の移転自体がないため、登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税のいずれもかかりません。法人の設立コストと毎年の維持コストだけで始められるため、4つの方式の中で初期負担が最も軽いのが特徴です。

一方で、管理委託料の水準は単に「家賃の5〜10%」といった料率だけで安全性が決まるものではありません。税務調査で見られるのは、法人が実際に何をしているか、誰が賃借人対応をしているか、空室・滞納リスクを本当に法人が負っているか、契約書と入金実態が一致しているかです。料率の目安はあくまでも目安として、実態と契約書を整えたうえで税理士と相談して設定します。法人に移せる所得は管理料の範囲内に限定されるため、所得移転効果は売買・現物出資はもちろん、後述のサブリース方式と比べても最も小さくなります。「移転コストはかけたくないが、家族役員に少額の所得を移す程度で十分」というケースに向きます。

一括転貸(サブリース方式)(所有権は移転しない)

所有権は個人のまま据え置き、法人が個人から物件を一括で借り上げ、それをさらに第三者(賃借人)に転貸する方式です。個人は法人から「賃料」を受け取り、法人は転貸先の賃借人から「転貸料」を受け取って、その差額が法人の収益になります。

こちらも所有権の移転がないため、登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税はかかりません。サブリース方式の特徴は、法人が空室リスク・賃借人の家賃滞納リスクを引き受ける点です。リスクを負う対価として、法人の取り分(転貸差益)は管理委託方式の管理料水準より高めに設定できますが、こちらも料率だけで安全性が決まるものではありません。法人が本当に空室・滞納リスクを負っているか、賃借人対応・修繕対応を法人が実際に行っているか、契約書と入金実態が一致しているかが税務調査で問われます。料率の目安は税理士と相談しつつ、実態に合わせて設定してください。

管理委託方式より所得移転効果は大きく、所有権移転を伴う売買・現物出資の中間に位置する選択肢といえます。ただし、個人と法人の間で正式な賃貸借契約(一括借上契約)の締結と、賃借人との転貸借契約の整備が必要で、書面上の手当ては管理委託方式より複雑になります。賃借人とのトラブル時の対応窓口も法人側に移るため、法人としての賃貸管理体制を整える必要があります。

選び方の目安:目的別に整理すると、長期保有・収益も含めて完全に法人に集約したいなら売買、創業時から法人で保有するなら現物出資、移転コストを避けて軽い所得移転で済ませたいなら管理委託方式、所有権は残しつつ管理委託より大きく所得を移したいなら一括転貸(サブリース方式)が、それぞれ適しています。所得移転効果の大きさはおおむね売買・現物出資>サブリース>管理委託の順、移転時コストの軽さは管理委託>サブリース>現物出資>売買の順です。

法人名義に変更するメリット

移転コストを払ってでも法人化を選ぶ方が多いのは、長期的に見て次のような税負担・運営面のメリットが大きいためです。

所得分散による税負担の軽減

個人の不動産所得は、所得税(最高45%)+復興特別所得税(所得税額の2.1%)+住民税(10%)で、最高税率帯では合計約55.945%まで累進する課税方式です。賃料収入が高くなるほど税負担が急激に重くなります。

法人名義にすれば、家族(配偶者・子ども等)を役員に据えて役員報酬として所得を分散できます。1人で受け取っていた所得を数人で分けることで、各人の所得税率が下がり、世帯単位の手取りが増える可能性があります。

法人税率と所得税率の差を活用できる

中小法人の法人税単体の税率は、年800万円以下の所得部分は15%(軽減税率)、800万円超の部分は23.2%です。ただし、これに地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税を合算した実効税率は概ね33〜35%程度になるケースが多く、所在地・資本金・役員報酬設計によって変動します。「法人なら23〜25%で済む」という単純化は誤りで、個人所得税・住民税・社会保険料・法人維持費を含めて比較する必要があります。
個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がるため、ある一定ライン(おおむね課税所得800〜1,000万円超)を境に法人で利益を出した方が有利になるケースが増えますが、最終的なクロスポイントは案件ごとに変動するため、税理士による試算が前提です。

個人の課税所得
所得税+住民税の合計税率
中小法人実効税率との比較
〜195万円
15%
個人が有利
695万円〜900万円
33%
ほぼ拮抗
900万円〜1,800万円
43%
法人が有利になりやすい
1,800万円〜4,000万円
50%
法人が大幅に有利
4,000万円超
55%
同上

※表中の税率は所得税+住民税の単純合算です。実際にはこれに復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わり、最高税率帯では実効税率が約55.945%になります。所得控除・各種特例によっても変動するため、具体的な試算は税理士業務範囲となります。税理士にご相談ください。

経費計上の幅が広がる

個人の不動産所得では、必要経費として認められる範囲が限定されます。法人化すると、役員報酬・退職金・生命保険料・社宅家賃の一部・出張旅費規程に基づく日当など、個人では計上しにくい支出を経費として処理できる場合があります。

家族役員に支払う役員報酬は、法人側では損金算入され、受け取った家族側では給与所得控除(給与収入に応じた一定額の概算控除)を使えます。個人の不動産所得として一人で受け取る場合と比べて、世帯全体の実効税負担を下げられるのがポイントです。

役員報酬は要件と相当性に注意:役員報酬を損金算入するには、定期同額給与・事前確定届出給与などの税法上の要件を満たす必要があります。さらに、勤務実態に見合わない高額な部分は損金として認められず、名義だけの役員や業務実態に比べて高額な報酬は税務調査で否認されるリスクがあります。報酬額は職務内容と整合させて設定してください。

相続対策(株式承継への切替)

不動産そのものを相続させると、相続のたびに不動産登記(相続登記)が必要になり、共有状態になりやすく、売却・活用の意思決定が複雑になります。

法人名義に切り替えておくと、相続させるのは不動産そのものではなく「株式」になります。株式は分けやすく評価方法も複数あるため、不動産ごとの相続登記は発生しません。ただし、株式の評価・株主構成・議決権の集中・代表者死亡時の役員変更まで設計しておく必要があります。株式が相続人間で分散すると、法人の意思決定が止まることもあるため、「法人化=相続トラブルが消える」と単純に考えるのは危険です。事前に株価対策・後継者指定・遺言の組み合わせで設計しておけば、相続税の圧縮余地も広がります。

関連する制度:2024年(令和6年)4月から相続登記は義務化されました。相続の開始および自己が所有権を取得したことを知った日から3年以内の登記が必要で、正当な理由なく怠ると過料の対象になります。施行日前に開始した相続も対象で、2024年4月1日時点で未登記の不動産は2027年3月31日までに登記しなければなりません(経過措置)。法人化しておけば、不動産自体の名義は法人のままで動かないため、相続のたびに登記する手間が省けます。詳しくは相続登記の義務化と期限のページを参照してください。

内部留保で再投資しやすい

個人で得た所得は、いったん高い税率で課税されたあとの「手取り」が再投資の原資になります。法人で利益を留保すれば、法人税(実効税率約23〜25%)を払ったあとの内部留保を次の物件購入や修繕に回せるため、再投資のスピードが上がります。

デメリット・注意点

法人化の判断でつまずきやすいのは、メリットの数え上げに気を取られて、移転コストと運営面の負担を過小評価してしまうケースです。実際にご依頼を受ける前に必ず確認している5点を挙げます。

移転コスト(登録免許税・不動産取得税・印紙税)

個人→法人の所有権移転には次の税金が発生します。

税金
税率(売買の場合)
備考
登録免許税(土地)
固定資産税評価額の1.5%
令和11年(2029年)3月31日までの軽減税率(本則は2.0%)
登録免許税(建物)
固定資産税評価額の2.0%
住宅用家屋の軽減(個人居住用)は法人取得では適用不可
不動産取得税(土地)
固定資産税評価額×1/2×3%
(宅地・宅地比準土地)
令和9年(2027年)3月31日まで(令和8年度改正により令和12年(2030年)3月31日まで延長済み・要確認)。農地・山林・雑種地などは扱いが異なる
不動産取得税(建物・住宅)
固定資産税評価額×3%
住宅は令和9年(2027年)3月31日まで(令和8年度改正により令和12年(2030年)3月31日まで延長済み・要確認)/非住宅は4%
印紙税(契約書)
記載金額に応じ200円〜60万円
売買契約書1通につき
司法書士報酬
10万円前後〜
所有権移転登記の代理報酬

※税率は2026年5月時点の制度に基づきます。令和8年度税制改正により、土地・住宅3%および宅地1/2特例の適用期限は令和12年(2030年)3月31日まで延長されています(最新の施行状況・適用期限は移転実行時点で必ず税理士・国税庁の資料でご確認ください)。

譲渡所得税(譲渡益が出る場合に個人側で発生)

個人が法人に時価で売却し、譲渡益(売却価格−取得費−譲渡費用)が出た場合に個人側に譲渡所得税が課されます。取得費が高く譲渡損になるケースでは課税されません。保有期間に応じて税率が変わります。

  • 長期譲渡(譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年超):所得税15.315%(復興特別所得税込み)+住民税5%=合計20.315%
  • 短期譲渡(譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下):所得税30.63%(復興特別所得税込み)+住民税9%=合計39.63%

※保有期間は「譲渡した年の1月1日時点」で判定します(取得日から譲渡日までの実年数ではない)。実際の所有期間が4年9か月でも、譲渡年の1月1日時点で取得後5年を超えていれば長期譲渡となるため、決済日を年単位でずらすだけで税率が大きく変わるケースがあります。法人化の実行時期を決める際は、この1月1日判定を必ず確認してください。

取得費が不明な場合(祖父母名義から相続したまま登記し続けてきた土地など)は、売却価格の5%を概算取得費とせざるを得ず、譲渡所得が大きく膨らむケースがあります。先祖代々の土地で取得時の売買契約書が残っていないと、たとえば評価額3,000万円の土地でも譲渡所得が2,850万円扱いとなり、長期譲渡で計算しても譲渡所得税だけで約580万円に達する計算になります。法人化を検討する前に、まず古い権利証・売買契約書・除籍などから取得時の資料が遡れるかを確認してください。

法人設立コスト・維持コスト(決算・税理士報酬・社会保険)

法人を持つと、設立時の初期費用と、利益の有無にかかわらずかかる毎年のランニングコストの両方が発生します。

設立時の初期費用(一度きり)

  • 株式会社の設立費用:定款認証・登録免許税などで約25万円
  • 合同会社の設立費用:登録免許税中心で約10万円

毎年のランニングコスト

  • 法人住民税の均等割(中小法人の場合):赤字でも年間最低7万円程度
  • 税理士報酬:決算込みで年間20〜50万円程度が一般的
  • 社会保険料:役員報酬を支払うと、健康保険・厚生年金の負担が発生

賃料収入の規模が小さいと、これらの維持コストで節税効果が相殺される、もしくは逆転してしまう場合があります。法人化の損益分岐点を見極めるには、設立コスト+年間維持コストを最低5〜10年分シミュレーションするのが安全です。

金融機関との調整(抵当権・住宅ローン)

個人の住宅ローン・アパートローンが残っている不動産を法人に売却する場合、金融機関の事前承諾が原則必須です。所有者変更を黙って進めると、ローン契約違反(期限の利益喪失)となり、残債一括返済を求められる可能性があります。

法人で改めて事業用ローンを組み直す場合、金利条件・融資期間が個人ローンより不利になることも多く、ローン残高・条件を踏まえた事前シミュレーションが欠かせません。

自宅を法人名義にすると最初に出る壁は住宅ローン契約と特別控除

自宅にローンが残っている場合、自宅を法人名義に切り替える際の最大の壁は税制ではなく住宅ローン契約です。住宅ローンは「本人が住むこと」を条件とした優遇金利のため、法人へ売却することは契約上の目的外使用に該当し、金融機関の承諾なしに進めれば残債の一括返済を求められます。法人側で新たに事業用ローンを組んで買い取る必要がありますが、自宅の買取りに融資を出してくれる金融機関は非常に限られます。

税務面でも、自宅を法人名義に切り替えると住宅ローン控除が使えなくなります。現行の住宅ローン控除は控除率0.7%・控除期間最大13年で、借入限度額・年あたりの最大控除額は住宅性能(一般住宅/省エネ基準適合/ZEH水準/認定住宅)や入居時期によって変動します(令和6年以降入居の場合、年間最大14〜31.5万円程度が目安)。さらに、自宅売却時の3,000万円特別控除も失います。特別控除は将来の売却時だけの問題ではなく、自分や家族が支配する法人(株式の50%超を保有する法人等)への売却は租税特別措置法35条2項の「特別の関係がある者への譲渡」に該当し、3,000万円特別控除は原則として適用されません

収益不動産の法人化と異なり、自宅を法人化するメリットはほとんどないケースが大半です(社宅家賃の経費化も、節税額は限定的なことが多い)。住宅ローン契約・失われる控除額・将来売却時の3,000万円特別控除への影響をまとめて検討したうえで、原則として自宅は個人名義のまま、収益不動産だけ法人化するのが定石です。

売買による名義変更の手続き7ステップ

個人から法人への売買による所有権移転は、おおむね次の7ステップで進みます。決済から登記完了まで、スムーズに進めば1〜2か月程度です。

  1. 移転価格の決定(時価算定)固定資産税評価額・路線価・公示価格・不動産鑑定評価額・近隣の売買事例を総合して、適正な時価を決めます。同族会社では特に、低額売買として否認されないよう客観的な根拠が必要です。
    なお、個人が法人へ時価の2分の1未満で売却した場合、所得税法上は実際の売却額ではなく「時価で譲渡したもの」として譲渡所得を計算するルールがあります(所得税法59条/著しく低い価額での譲渡)。「自分の会社だから安く売る」は税務リスクになるため避けてください。
  2. 売買契約書の作成売買代金・引渡し日・所有権移転時期・公租公課の精算方法・契約不適合責任の取扱いなどを定めます。同族会社内の取引であっても契約書は必須です。
    また、買主が株式会社で、代表取締役・取締役個人から自身が代表(または取締役)を務める会社へ売却するケースは、会社法上の利益相反取引(直接取引)に該当します。取締役会設置会社では取締役会、取締役会非設置会社では株主総会の事前の承認決議が必要です。実務上、この承認決議を証する議事録(および株主リスト等)は、所有権移転登記を申請する際の必須の添付書類となります。事後的に作成するのではなく、売買契約の前に適法に決議を経ておく必要があります。
    合同会社など株式会社以外の法人形態では、機関設計・定款・社員構成により必要な承認手続が異なるため、法人形態ごとに確認します。
  3. 法人側の資金準備法人が金融機関から融資を受ける場合は、ここで融資契約・抵当権設定の段取りを進めます。自己資金で買う場合も、法人口座への入金タイミングを売主への支払日に合わせます。
  4. 決済・引渡し売買代金の支払い・固定資産税の精算・所有権移転登記書類の取り交わしを同日に行うのが一般的です。司法書士が登記書類を確認し、法人側の融資があれば抵当権設定書類も同時に取り交わします。
  5. 所有権移転登記の申請決済日当日に司法書士が法務局へ登記申請を行います。登記原因は「売買」、申請から完了まで1〜2週間程度です。書面申請のほかオンライン申請も利用できます。
    なお、令和6年(2024年)4月1日以降、法人を所有権の登記名義人とする登記では「法人識別事項」(会社法人等番号、または名称・住所・代表者氏名による特定)の提供が必要になっています(不動産登記規則36条の2第2項)。買主が法人の登記では、会社法人等番号を申請情報に記載する形が一般的です。
  6. 不動産取得税の申告取得後おおむね10〜60日以内(都道府県によって異なる)に、不動産の所在地を管轄する都道府県税事務所へ申告します(法人本店所在地ではありません)。期限・様式・登記済の場合の申告要否は、必ず取得物件の所在地を管轄する都道府県税事務所にご確認ください。後日、納税通知書が届きます。
  7. 個人の確定申告(譲渡所得)売却した個人は、翌年2月16日〜3月15日に譲渡所得の確定申告を行います。譲渡所得税は申告分離課税です。
当センターの担当範囲:当センター(司法書士法人)は、売買による所有権移転登記、抵当権の抹消・設定、登記原因証明情報の作成・確認、本人確認、決済時の登記書類確認に対応します(主にステップ2〜5の登記手続き範囲)。ステップ1の売買価格の妥当性、ステップ6の不動産取得税試算、ステップ7の譲渡所得税・消費税の試算、法人化による節税効果の判定は税理士の担当領域です。契約交渉、契約不適合責任の設計、紛争性のある契約条項の判断は弁護士の担当領域です。

必要書類の一覧

売買による所有権移転登記に必要な書類は、売主(個人)・買主(法人)それぞれで異なります。

売主(個人)が用意する書類

  • 登記識別情報通知(または登記済証):いわゆる「権利証」
  • 印鑑証明書(発行から3か月以内)
  • 住民票(登記簿上の住所と現住所が異なる場合)
  • 固定資産評価証明書(最新年度のもの)
  • 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
  • 実印

買主(法人)が用意する書類

  • 会社法人等番号:令和6年4月1日以降、法人が所有権の登記名義人となる登記では法人識別事項として申請情報に記載が必要
  • 登記事項証明書(発行から3か月以内):決済時の資格確認・会社情報の確認資料として使用
  • 代表者の印鑑証明書(発行から3か月以内):所有権移転登記の法定添付情報として常に必要になるものではありませんが、融資・抵当権設定がある場合や、決済時の本人確認・意思確認資料として司法書士・金融機関から提出を求められることがあります
  • 法人実印
  • 株主総会議事録または取締役会議事録:機関設計・物件価額・売主と法人役員との関係によって必要になります。取締役会設置会社で重要な財産の譲受けに該当する場合や、代表取締役・取締役との利益相反取引に該当する場合は、承認決議の議事録(株主リスト等を含む)が所有権移転登記の必須添付書類になります

共通で必要な書類

  • 登記原因証明情報(売買契約書または別途作成する書面)
  • 売買契約書(収入印紙貼付済み)
  • 司法書士への委任状(登記申請を司法書士に依頼する場合)

消費税の論点(売主が課税事業者の場合)

個人で複数の賃貸用建物を所有している方など、売主個人が消費税の課税事業者に該当する場合は、法人への売却時に建物部分の売却代金に消費税がかかることがあります。土地部分は非課税ですが、土地建物を一括で売買する場合は、契約書上も土地・建物の価格区分を合理的に整理しておく必要があります。

賃貸用建物を複数所有している方や、課税売上が1,000万円を超える年がある方は、譲渡所得税だけでなく消費税の課税事業者判定も税理士にご確認ください。インボイス制度の影響もあるため、移転前の確認が不可欠です。

賃貸中の物件を法人に移すときの追加論点

賃貸アパート・マンションなど、すでに賃借人が入居している物件を法人に売却する場合は、登記書類とは別に賃貸借関係の承継が必要です。具体的には次の手当てを進めます。

  • 賃貸人変更通知書を賃借人へ送付(新しい賃貸人=法人と、振込先口座を案内)
  • 敷金・保証金の承継(売主から法人へ引き継ぎ、決済時に精算)
  • 賃料振込先口座の変更(法人口座への切替)
  • 火災保険・建物管理委託契約・サブリース契約などの契約者名義の切替
  • ローンが付いている場合は、金融機関の事前承諾+抵当権の付け替え(前述)

これらは登記とは別の作業ですが、漏れると賃料が旧口座(個人口座)に振り込まれ続けて法人の売上計上が遅延したり、火災保険の被保険者が個人のままで保険金請求ができなくなったりする実害が生じます。決済日に合わせて一括で段取りを組んでください。

かかる費用の目安(3パターン)

移転コストは不動産の評価額・土地建物比率・住宅/非住宅区分・実際の売買価格によって大きく変わります。固定資産税評価額をベースに、3パターンの目安をまとめました。不動産取得税は土地・建物を分けて試算するのが原則です(宅地評価土地:評価額×1/2×3%/住宅用建物:評価額×3%/非住宅建物:評価額×4%)。印紙税は固定資産税評価額ではなく売買契約書の記載金額で決まる点にご注意ください。

項目
ケースA
評価額2,000万円
(中古アパート)
ケースB
評価額5,000万円
(賃貸マンション)
ケースC
評価額1億円
(収益不動産)
登録免許税(土地1.5%・建物2.0%)
約35万円
約88万円
約175万円
不動産取得税(概算3〜4%)
60〜80万円
150〜200万円
300〜400万円
印紙税(売買価格基準・軽減税率適用:令和9年3月31日まで)
1万円
※1,000万円超5,000万円以下
3万円
※5,000万円超1億円以下
6万円
※1億円超5億円以下
司法書士報酬(移転登記)
10〜15万円
15〜20万円
20〜30万円
移転時コスト合計
約106〜131万円
約256〜311万円
約501〜611万円
譲渡所得税(個人側/別途)
譲渡益×20.315%
譲渡益×20.315%
譲渡益×20.315%

※登録免許税は土地:建物が概ね半々(土地は宅地評価土地として1/2特例適用)の前提での概算です。物件の土建比率・宅地比準土地該当性・住宅/非住宅区分で実額は変動します。印紙税は売買契約書の記載金額(実際の売買価格)で決まるため、上表は売買価格が評価額と同水準の前提です。印紙税の軽減税率は令和9年(2027年)3月31日までの時限措置で、期限後は本則税率が適用されます。令和8年度税制改正により、土地・住宅3%および宅地1/2特例の適用期限は令和12年(2030年)3月31日まで延長されています(最新の施行状況は移転実行時点でご確認ください)。長期譲渡(譲渡年1月1日時点で保有5年超)の前提で、譲渡所得税は取得費・譲渡費用によって大きく変動します。

ケースA(評価額2,000万円)でも約100万円超、ケースC(1億円)では約500万円超の移転コストがかかります。これに譲渡所得税(譲渡益が出る場合)、売主が課税事業者なら建物部分の消費税も上乗せされるため、「移転コスト+譲渡所得税+消費税」を何年で回収できるかを必ず試算してから決めてください。

回収年数の考え方:「移転コスト合計(万円)÷ 法人化による年間節税効果(万円)」で回収年数の目安を出します。年間節税効果は、課税所得・賃料収入・役員報酬設計・社会保険負担・法人維持コストを差し引いた後の世帯全体の手取り改善額で算出します。たとえば移転コスト合計300万円・年間節税効果60万円なら回収5年。具体額の試算は税理士業務範囲のため、税理士にご依頼ください。

登記費用の詳しい内訳は登記費用の料金体系のページもご参照ください。

向いている方・向いていない方

法人化に向いている方

判断は賃料収入の額面だけでなく、課税所得・含み益・取得費の把握状況・借入残高・今後の保有期間を合わせて見る必要があります。次のような方は法人化のメリットを享受しやすい傾向があります。

  • 個人の所得税率が法人実効税率を上回るゾーンに入っている(前述のとおり、おおむね課税所得800〜1,000万円超が目安)
  • 長期保有予定(最低でも10年以上)の収益不動産を持っている
  • 家族に所得を分散したい(配偶者・子どもを役員にしたい)
  • 相続対策として、不動産を株式化して承継させたい
  • 複数物件を所有しており、内部留保で再投資を加速させたい
  • 取得費が明確で、譲渡所得税が想定範囲内に収まる
検討開始のベストタイミング:実務でよく挙がる目安は次の2点です。①個人の課税所得が前述のラインを超えた(個人の所得税率が法人実効税率を上回るゾーン)。②物件の所有期間が、譲渡年1月1日時点で5年を超えた(短期譲渡所得39.63%から長期譲渡所得20.315%に切り替わるため、譲渡所得税の負担が軽くなるタイミング)。両方を満たすときが、コストを払ってでも法人化に動くベストポイントになりやすいです。

法人化に向いていない方

  • 自宅のみを所有している(住宅ローン契約上の目的外使用リスク・住宅ローン控除・3,000万円特別控除を失う)
  • 賃料収入が小さく、法人維持コストで節税効果が消える規模
  • 短期保有を予定している(移転コストの回収が間に合わない)
  • 取得費が不明で、譲渡所得税が膨らむ恐れがある古い土地
  • 住宅ローン残高が多く、金融機関が組み替えに応じない可能性が高い

ご相談の中で「法人化はおすすめできません」とお伝えする典型は、取得費が不明な築古アパート1棟・賃料収入年300万円前後・所有者の課税所得が500万円弱というケースです。試算するとほぼ確実に、移転コストと法人維持費で節税効果が消えてしまいます。逆に、取得費が明確な収益マンションを複数棟保有・課税所得1,500万円超・10年以上の長期保有予定といったケースでは、移転コストを払ってでも法人化メリットが大きく出やすい傾向です。

判断のポイント:法人化の判断は賃料収入の額面だけでは決まりません。移転コスト(登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税)と法人維持費(税理士報酬・社会保険・均等割)を合算した損益分岐年数が10年を超えるようなら、法人化の実行を急ぐ必要はありません。移転コスト・運営コスト・譲渡所得税の3点を必ず税理士に試算を依頼し、損益分岐年数を確認してから動いてください。当センターでは登記面の費用見積りまでをご案内しますが、税務面の試算は税理士業務のため、税理士にご相談ください。

司法書士に依頼するメリット

個人から法人への売買登記は、相続登記や住所変更登記と比べて登記書類の精度・登記原因証明の整合性・抵当権処理の同時性が問われます。司法書士に依頼することで次のメリットが得られます。

  • 登記に必要な範囲での売買契約内容・登記原因証明情報の確認:所有権移転登記の登記原因として、契約内容・当事者・日付・物件特定の整合性を確認します(契約交渉、契約不適合責任の設計、紛争性のある契約条項の判断は弁護士の担当領域です)
  • 印鑑証明書・登記事項証明書の有効期限管理:登記申請に使えるよう、決済日に合わせて適切なタイミングでの取得・準備をご案内します。あわせて、登記識別情報(権利証)の事前確認も行います
  • 抵当権抹消・新規設定の同日処理:金融機関が変わる場合も、決済日に同時申請して所有者と担保の関係をクリアにします
  • 登記識別情報通知の安全な受け渡し:法人代表者への引渡しまで責任を持って管理します
  • 登録免許税の正確な算出:固定資産評価証明書を確認し、土地1.5%・建物2.0%の軽減税率適用可否を含めて計算します

当センターは不動産名義変更を専業とする司法書士法人です。個人から法人への売買登記は当センターの主要業務の1つで、書面・オンラインによる全国対応のほか、関東圏(埼玉・東京・神奈川・千葉を中心)であれば出張面談・売買決済への立会いも承っています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 妻や家族の名義の不動産を、家族の会社に移すことはできますか?

はい、可能です。ただし、所有者本人(妻ご本人)が売主として契約・決済・登記に関与する必要があります。委任による代理での実行も可能ですが、印鑑証明書・登記識別情報・本人確認は原則所有者本人で取得・確認します。同族会社への売却は税務上の論点が多いため、税理士の関与が不可欠です。

Q2. ローンが残っている不動産も法人に移せますか?

移すこと自体は可能ですが、金融機関の事前承諾が必須です。承諾なしに進めると、ローン契約違反(期限の利益喪失)となり残債一括返済を求められる可能性があります。一般的には、決済日に法人で新規ローンを実行し、その資金で個人の残債を完済して、抵当権を抹消+新設する流れになります。

Q3. 自宅を法人名義にできますか?

制度上は可能ですが、ほとんどのケースでメリットが出ません。最初の壁は住宅ローン契約です。住宅ローンは本人居住が条件のため、法人へ売却すると目的外使用となり残債一括返済を求められます。さらに税務面でも、現行の住宅ローン控除(控除率0.7%・控除期間最大13年。令和6年以降入居の場合、年間最大14〜31.5万円程度が目安)を失います。3,000万円特別控除についても、自分や家族が支配する法人(株式の50%超を保有する法人等)への売却は租税特別措置法35条2項の「特別の関係がある者への譲渡」に該当し、3,000万円特別控除は原則として適用されません。社宅家賃の経費化メリットも限定的なため、自宅は個人名義のままにし、収益不動産だけ法人化するのが一般的です。

Q4. 法人に移転して、すぐに売却したらどうなりますか?

短期売却を前提に法人化するのはおすすめしません。個人→法人の移転時に、登録免許税・不動産取得税・印紙税・個人側の譲渡所得税が発生します。さらに、法人が取得価額を上回る価格で売却すれば、その差額に法人税等が課されます(取得直後に同額で売却するなら法人側の譲渡益は限定的ですが、移転コストと個人側の譲渡所得税は確定で発生します)。短期売却が見えているなら法人を経由させる合理性は乏しいことが多く、移転直後の売却は同族会社の行為計算否認(所得税法157条/法人税法132条)の対象になり得ます。最初から個人名義で売却した場合との税額比較を必ず行ってください。

Q5. 時価より低い価格で法人に売ったらどうなりますか?

同族会社への売買で問題になるのは、簿価ではなく時価との乖離です。売買価格が時価より著しく低い場合、個人側では時価譲渡とみなされるリスクがあり、法人側でも受贈益課税や同族会社の行為計算否認(所得税法157条/法人税法132条)が問題になります。価格は、固定資産税評価額だけでなく、路線価・公示価格・収益価格、必要に応じて不動産鑑定評価を踏まえて決めます。簿価より低くても時価相当なら低額譲渡の問題は生じにくく、逆に簿価以上でも時価より著しく低ければ税務リスクがあります。

Q6. 司法書士に依頼すると、どのくらいの期間で完了しますか?

必要書類が揃ってから、決済まで2〜4週間、決済から登記完了まで1〜2週間が目安です。ただし、利益相反取引の議事録整備・株主リストの作成・金融機関の承諾取得・売買価格の時価算定(現物出資の場合は不動産鑑定)など、書類収集・事前準備に1〜2か月かかるケースも珍しくありません。金融機関の融資手続きが絡む場合は、融資審査の期間(4〜6週間)が加わります。総じて、ご相談から登記完了まで2〜3か月程度を見込んでおくのが安全です。お急ぎの場合は事前にご相談ください。

まとめ

「個人から法人への名義変更」は、税率の差によるメリットが先行して語られがちですが、実務の現場では、いざ進めようとした際に「金融機関の承諾が下りない」「想定外の譲渡所得税が発生し、移転コストが予算を大幅にオーバーした」といった壁に直面するケースが少なくありません。法人化は「税率の差」だけで判断できる施策ではなく、住宅ローン契約、譲渡所得の取得費、相続設計、株主構成、消費税の課税事業者判定まで含めた総合判断が必要です。

進め方の手順としては、まず顧問税理士(または不動産法人化の実績がある税理士)に「このケースで法人化のメリットが出るか」のシミュレーションをご依頼ください。移転コスト・譲渡所得税・法人維持費・社会保険負担を踏まえた損益分岐年数が見えてから動くのが安全です。その結果、法人化を進める方針が決まりましたら、法務局での確実な権利移転や金融機関との担保抹消・設定手続き、利益相反取引の議事録整備、登記原因証明情報の作成は、当センターにお任せいただければ幸いです

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板垣 隼(いたがき はやと)
司法書士 / 行政書士 / 1級FP技能士
司法書士法人 不動産名義変更手続センター 代表
司法書士事務所開業から17年。「難しいことを、やさしく、早く、正確に」をモットーに、相続登記や不動産名義変更の手続きをサポート。KINZAI Financial Plan・manegyへの寄稿実績あり。

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