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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
最終更新日:2026年2月25日
日本の不動産登記制度は、深刻な「所有者不明土地問題」への対応を背景に、2024年(令和6年)から2026年(令和8年)にかけて大きく見直されています。
本記事では、司法書士の実務の視点から、法人が当事者となる場面で影響が大きい「法人識別事項(会社法人等番号)」の提供義務化と、住所・名称変更登記の義務化を中心に、手続の要点・罰則・職権登記の仕組みまで詳しく解説します。
2024年4月1日以降の登記申請の詳細については、法務省の公式ページをご確認ください。
令和6年4月1日以降にする所有権に関する登記の申請について(法務省)
なぜここまで登記制度が見直されるのかというと、所有者が登記簿上追えない土地が増え、公共事業や民間取引、防災・復興の局面で支障が出ているためです。国土交通省の推計(2016年)では、所在不明の土地が一定割合に達し、面積も九州に匹敵するとされています。
この問題は、個人の相続登記の未了が主因とされてきましたが、実は法人名義の不動産においても同様の問題が多発していました。企業が合併や倒産、あるいは複数回の本店移転を繰り返す中で、不動産登記簿上の名義と現在の商業登記簿上の情報が乖離し、「この不動産を所有している法人が現在どこに存在するのか」を追跡することが極めて困難になっていたのです。
従来の不動産登記は「申請主義」が基本で、所有権移転や住所変更があっても、登記を入れるかどうかは当事者の判断に委ねられてきました。
今回の改正は、その前提を一部見直し、「取得時に情報を正確に入れる」+「保有中も情報を更新する」方向へ制度設計が進んだ点がポイントです。
① 法人識別事項(会社法人等番号)の提供義務化により、不動産登記と商業登記をデータ連携させる
② 住所・名称変更登記の義務化により、登記情報の「放置」を防ぐ
2024年4月1日以降、法人が不動産の登記名義人になる登記(所有権保存・移転等)では、会社法人等番号を有する法人は、申請情報として会社法人等番号を提供することが必要となりました(外国法人など会社法人等番号を持たない法人は、別途の法人識別事項を提供します)。
この番号が登記記録に紐づくことで、商業登記との連携(後述の「職権変更」)の土台になります。
「法人識別事項」とは、法人の同一性を証明するための識別情報です。法人の種類に応じて、会社法人等番号のほか、設立準拠法国名や設立根拠法等を含む場合があります。会社法人等番号を有する国内法人にとっては、いわば法人版のマイナンバーに相当するものです。
これまでの不動産登記では、法人が不動産を取得した際、登記簿に記載されるのは「法人の名称(商号)」と「法人の住所(本店所在地)」のみでした。改正後は、これらに加えて法人識別事項が登記記録に紐付けられます。
実務で混同されやすいので、ここは明確に分けて説明します。
| 番号の種類 | 桁数 | 発行元 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 会社法人等番号 | 12桁 | 登記所(法務局) | 商業・法人登記で付番。履歴事項全部証明書の右上に表示。今回の不動産登記で必要なのはこちら。 |
| 法人番号 | 13桁 | 国税庁 | 税務・社会保障・行政手続で広く利用。 |
不動産登記で「法人識別事項」として扱うのは、会社法人等番号(12桁)です。法人番号(13桁)とは別の番号ですので、登記申請の際は番号を取り違えないよう注意してください。
従来は「住所・名称」中心でしたが、改正後は「会社法人等番号」が記録されます。
第三者から見たときに、同名会社との取り違えリスクが下がり、取引上の確認がしやすくなります。
なお、登記申請時に会社法人等番号を提供すると、登記官がシステム上で法人情報を確認できるため、法人の登記事項証明書や印鑑証明書については、一定の場合に添付省略の扱いとなる場面があります。これは企業にとって実務上のメリットです。
2024年4月以降に取得する不動産だけでなく、すでに保有している不動産についても、法人が申出をすることで会社法人等番号を登記記録に紐づけることが可能です。
後述する2026年以降の連携を考えると、保有不動産が多い企業ほど、この「申出」の活用余地があります。
古くから保有している不動産で会社法人等番号が未記録のままだと、後述する「職権による変更登記(自動連携)」の対象外となります。結果として、変更登記が「要手当てのまま残る」可能性があるため、早めの対応が望ましいでしょう。
申出の詳細については、法務省の公式ページをご確認ください。
所有権の登記名義人による法人識別事項(会社法人等番号等)の申出について(法務省)
外国法人が所有者となる場合、従来は登記簿から法人の「出自(どの国のどの法に基づく法人か)」が読み取りづらい場面がありました。
2024年4月1日以降、国内で会社法人等番号を持たない外国法人が所有権登記名義人となる場合は、申請情報として設立準拠法国を提供し、登記記録にも反映される整理になります。
令和8年(2026年)4月1日以降、所有権登記名義人の住所・氏名(法人は本店・商号等)に変更があった場合、原則として変更日から2年以内に変更登記を申請する義務が課されます。この義務は、施行前に変更が起きていた場合にも適用(経過措置あり)されるため、長年放置してきた企業も対応を迫られることになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 義務の期限 | 変更日から2年以内 |
| 過料 | 正当な理由なく怠った場合、5万円以下の過料 |
| 施行前の変更も対象 | 施行前に変更が起きていた場合も、経過措置として一定期間内の申請が求められる |
個人の相続登記義務化と法人の住所・名称変更登記義務化では、過料の金額に違いがあります。
| 登記の種類 | 対象者 | 手続き期限 | 過料 |
|---|---|---|---|
| 相続登記 | 相続・遺贈で所有権を取得した者 | 相続の開始及び所有権取得を知った日から3年以内 | 10万円以下 |
| 住所・氏名等変更登記 | 個人・法人の登記名義人 | 変更日から2年以内 | 5万円以下 |
過料の金額そのものよりも、「法令違反による過料処分を受けた」という事実がコンプライアンス上の重大な瑕疵となる点が深刻です。金融機関からの融資審査やM&A時のデューデリジェンスにおいて、不動産管理の杜撰さが露呈することは、企業価値を毀損するリスクにつながります。
本改正は企業に新たな義務を課す一方で、実務上の負担を大幅に軽減する画期的な仕組みを導入しています。それが「登記官の職権による変更登記」です。
会社法人等番号が不動産登記記録に記録されている法人が、法務局において商号変更や本店移転の商業登記を完了させると、法務局内のシステムを通じて不動産登記部門に情報が自動的に通知されます。通知を受けた登記官が、法人からの個別申請を待つことなく「職権」で不動産登記簿を更新するという流れです。
これまで、法人が本店移転を行った場合、商業登記の申請とは別に、所有するすべての不動産について管轄の法務局ごとに「登記名義人住所変更登記」を申請する必要がありました。この手続きには、不動産1個につき1,000円の登録免許税が必要で、全国に多数の拠点を所有する企業にとっては、数十万円単位の税負担と膨大な書類作成の手間が発生していました。
改正後は、登記官の職権登記によって変更登記がなされた場合、当該法人の変更申請義務は「履行済み」とみなされ、登録免許税の負担も原則として不要となります。
この仕組みが機能するうえで重要なのが、不動産登記記録に会社法人等番号が記録されていることです。
古く取得した不動産で番号が未記録のままだと、連携の対象にならず、結果として変更登記が「要手当てのまま残る」可能性があります。そのため、前述の「申出」による番号の紐づけが重要になるのです。
法人識別事項の導入と紐付いて、「所有不動産記録証明制度」という新制度も創設されました。これまで、特定の法人が「日本全国にどれだけの不動産を所有しているか」を横断的に一覧で確認できる公的な証明書は存在しませんでした。
各市区町村が発行する名寄帳(なよせちょう)はその自治体の管轄内でのみ有効であり、全国の所有物件を把握するには個別に各地の法務局へ照会する必要がありました。本制度の開始(2026年2月2日施行)により、会社法人等番号をキーとして、全国の登記所が保有するデータを横断検索し、所有不動産をリスト化した証明書の交付を請求できるようになりました。
M&A(合併・買収)を行う際、買収対象企業が全国に点在する不動産を正確に把握しているとは限りません。古い帳簿から漏れている「簿外不動産」が存在した場合、後日予期せぬ固定資産税の請求や法的リスクを被るおそれがあります。所有不動産記録証明制度を活用すれば、デューデリジェンス(資産査定)の精度を飛躍的に向上させることができます。
企業が過去の事業の残骸として抱え込んでいる不要な土地(山林や原野など)を整理する際にも有用です。所有不動産記録証明書によって自社の不良資産を特定し、売却等を通じてオフバランス化を図ることは、法人の財務体質強化に直結します。
海外の投資家や外国法人が日本の不動産を取得するケースの増加に伴い、法人識別事項の導入と並行して「国内連絡先事項」および「ローマ字氏名」の登記制度も新設されました。
日本国内に住所を有しない海外居住者(国籍を問わず)や外国法人が、日本の不動産の所有権登記名義人となる場合、日本国内における連絡先となる者の氏名・住所等を「国内連絡先事項」として不動産登記記録に記録する取扱いとなりました。
この制度の目的は、固定資産税の確実な徴収や、隣地境界トラブル・不法投棄への対応など、不動産に関する法的・行政的手続きを行う際の確実な窓口を日本国内に確保することにあります。申請の際には、国内連絡先事項を記録するか、国内連絡先となる者がない旨を記録する取扱いとなります。国内連絡先となる者は個人でも法人でも構いませんが、所有者本人以外の第三者(司法書士・弁護士・不動産管理会社など)を指定する場合には、「承諾書」の添付が必要です。
外国人が所有権の登記名義人となる場合、漢字やカタカナの氏名による登記に加え、アルファベット表記によるローマ字氏名を申請情報として提供する必要があります。パスポート等に記載された正式な氏名との同一性確認が容易になり、将来の売却時や相続時の本人確認の手間が大幅に軽減されます。
海外居住者の国内連絡先に関する詳しい情報は、以下のページをご覧ください。
海外居住者の国内連絡先事項とは|不動産登記の必要書類・手続きを解説
最後に、社内で動きやすいよう、最低限の整理をチェックリスト化します。
✓ 会社法人等番号の提供により、登記申請時の添付書類が簡素化され得る
✓ 同名法人の取り違えリスクが下がる
✓ 職権変更登記により、登録免許税と申請事務の負担が大幅に軽減される
✓ 所有不動産記録証明制度で全国の保有不動産を一元的に把握できる
✓ 2026年以降は住所・名称変更登記が義務化され、怠ると5万円以下の過料のおそれ
✓ 職権変更の恩恵を受けるには、登記記録への番号記録が前提
✓ 法令違反の事実はコンプライアンス上の瑕疵となり、融資やM&Aに影響し得る
✓ 既存物件に番号を記録しておくと、将来の連携の恩恵を受けやすい
✓ 手続きに不安がある場合は、不動産登記・法人登記の専門家である司法書士への相談が確実

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