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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
最終更新日:2026年2月17日
死因贈与とは、贈与者(財産をあげる人)と受贈者(財産をもらう人)との間で交わされる契約で、贈与者が死亡した時に財産が贈与者から受贈者に移転することを内容とするものです。
通常の贈与(生前贈与)では、契約と同時に財産が移転しますが、死因贈与では「贈与者の死亡」が財産移転の期限(不確定期限、または始期)になっている点が特徴です。つまり、生前に「私が亡くなったらこの不動産をあなたに譲ります」「はい、いただきます」という双方の合意があって初めて成立します。
現代の高齢化社会において、不動産という高額な財産を誰に、どのような条件で託すかという課題は年々複雑化しています。死因贈与は、将来の権利移転を生前の合意によって確定させることができるため、計画的な不動産承継の有力な選択肢となっています。
死因贈与と似た制度に「遺贈」があります。遺贈とは、遺言によって遺言者の財産を他人に取得させることをいいます。
死因贈与も遺贈も、財産所有者の死亡により無償で財産が移転する点では共通しています。しかし、法的な性質は大きく異なります。
死因贈与は贈与者と受贈者との「契約」であり、生前の合意に基づく処分です。一方、遺贈は遺言者が単独で行う行為(単独行為)であり、受贈者が事前に内容を承諾している必要はありません。受贈者がその遺言の存在すら知らなくても、遺言書を作成すること自体は可能です。
遺贈の場合、受贈者に指定されたとしても、受贈者はいつでも自由にその権利を放棄できます。もし放棄されると、当該不動産は他の法定相続人による遺産分割協議の対象となり、遺言者の意図どおりにならないリスクが生じます。
これに対し、死因贈与は生前に双方の合意によって契約が成立しているため、受贈者が事後的に一方的に放棄するリスクは極めて低くなります。「確実にこの人に不動産を渡したい」という希望を実現するには、遺贈よりも死因贈与が構造的に適しているといえます。
撤回についても違いがあります。遺贈は遺言者が生存中であればいつでも自由に遺言を書き直すことで撤回・変更できます。死因贈与も原則として撤回可能とされていますが、契約として成立している以上、受贈者が何らかの対価的行為を行っている場合などは、一方的な撤回が制限されるケースがあります。
| 比較項目 | 死因贈与 | 遺贈 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 契約(双方の合意が必要) | 単独行為(遺言者の一方的な意思表示) |
| 成立要件 | 両当事者の申込みと承諾 | 民法の定める方式による遺言書の作成 |
| 放棄の可否 | 原則として困難(契約の拘束力による) | いつでも自由に放棄可能 |
| 撤回の可否 | 原則可能だが、負担の有無等により制限あり | 生前であればいつでも自由に撤回可能 |
| 方式の柔軟性 | 口約束でも成立可能(実務上は公正証書を推奨) | 自筆証書・公正証書など厳格な方式が必要 |
死因贈与は契約であるため、通常の贈与契約と同様に、贈与者の「あげます」という意思表示と、受贈者の「もらいます」という意思表示の合致によって成立します。
法律上は必ずしも書面である必要はなく、口約束でも有効に成立します。自筆証書遺言のように日付の記載漏れや押印の欠落などの形式不備で無効になるリスクがない点は、死因贈与の柔軟さともいえます。
死因贈与の実務上、特に重要な活用形態が「負担付死因贈与」です。これは、受贈者に対して一定の義務(負担)を課すことを条件に結ばれる死因贈与契約です。
例えば、「自身が亡くなるまで同居して身の回りの世話をすること」を条件として、自己所有の不動産を贈与するような契約がこれに該当します。高齢化社会において、自宅不動産を死後に譲渡する代わりに、生前の介護・療養看護・生活支援などを確保する手段として広く利用されています。
負担付死因贈与において最も注目すべき特徴は、契約の撤回に対する強力な制限です。
通常の死因贈与は遺贈の規定が準用されるため原則として撤回可能ですが、負担付死因贈与において受贈者が約束した負担(介護や世話など)の全部または一部をすでに誠実に履行した場合、贈与者は特段の事情がない限り一方的に契約を撤回することができなくなります。
長年にわたり献身的な介護や支援を行った受贈者が、贈与者の心変わりによって一切の対価を失うという不公平を防止するための法理です。受贈者にとっては、自身の労力に対する対価としての不動産取得が法的に強く担保されるという大きなメリットになります。
死因贈与の受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合の取り扱いについては、判例の立場が分かれており明確ではありません。
民法では、遺贈について「遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と規定しています(民法994条1項)。死因贈与については「遺贈に関する規定を準用する」(民法554条)とされていることから、この規定が適用されるかが問題になります。
東京高裁の判例(平成15年5月28日)では、死因贈与は遺贈と同様に無償の財産供与行為であり、個人的な人間関係に基づいてされるものである点で共通性があるとして、民法994条1項が準用され、受贈者の死亡時点で効力を失うと判断しました。
一方、京都地裁の判例(平成20年2月7日)では、死因贈与は契約である以上、贈与者の意思で一方的に撤回できないこと、また、契約成立の時点で受贈者には期待権が生じていることから、受贈者が先に死亡しても効力は失われないとしました。
遺贈の場合は、遺言の内容を実現するために遺言執行者を定めることができます(民法1006条1項、1010条)。死因贈与についても同様に、実務上、死因贈与の内容を実現するために「執行者」を指定することができるとされています。
不動産が死因贈与の対象となっている場合、執行者の指定の有無は登記手続に大きく影響します。
| 場合 | 登記手続きの方法 |
|---|---|
| 執行者の指定なし | 贈与者の相続人全員と受贈者が共同で登記申請しなければならない |
| 執行者の指定あり | 指定された執行者と受贈者のみで、相続人の関与なく登記申請が可能 |
執行者が指定されていない場合、贈与者の死後に相続人全員の協力が必要となります。死因贈与の存在に反対する相続人が一人でもいれば手続は頓挫するおそれがあるため、公正証書による死因贈与契約書に執行者を指定しておくことが実務上不可欠です。
死因贈与契約に基づいて、贈与者の生前に不動産の所有権移転の仮登記をすることができます。正式には「始期付所有権移転仮登記」(不動産登記法105条2号)といいます。
死因贈与契約を締結していても、贈与者が生前にその不動産を第三者に売却し、その第三者が先に登記を備えてしまうと、受贈者は自己の権利を主張できなくなります(民法177条)。
しかし、生前に仮登記を済ませておけば、登記簿上の順位が保全されます。贈与者の死後、仮登記を本登記に移行(順位を昇格)させることで、仮登記後に現れた第三者の権利に優先して完全な所有権を確保できます。
不動産の死因贈与において、実務上最も慎重な検討が必要なのが税務上の取り扱いです。「死亡により財産が移転する」という点では相続や遺贈と同じですが、税法上の扱いが大きく異なるため、想定以上の負担が生じることがあります。
法務局での名義変更手続き(所有権移転登記)の際に納付する登録免許税の税率に、決定的な差があります。
| 名義変更の原因 | 登録免許税率 |
|---|---|
| 相続(法定相続・遺産分割等) | 固定資産税評価額の 0.4% |
| 遺贈(相続人に対するもの) | 固定資産税評価額の 0.4% |
| 死因贈与 | 固定資産税評価額の 2.0% |
死因贈与の登録免許税率は相続の5倍です。例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、相続登記なら8万円のところ、死因贈与では40万円と、32万円もの差額が発生します。不動産評価額が高いほどこの差は拡大します。
法定相続や相続人に対する遺贈では、不動産取得税は非課税です。しかし、死因贈与による不動産取得では、受贈者が配偶者や子などの法定相続人であっても原則として不動産取得税が課税されます。
死因贈与は、単なる遺言の代替手段ではなく、贈与者と受贈者の合意に基づく高度に戦略的な法的スキームです。制度を正しく理解し、メリットとデメリットを比較した上で判断することが重要です。

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