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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
最終更新日:2026年2月17日
「特定の相続人に財産を渡したくない」──そう考えたとき、最初に理解すべきなのが遺留分という制度です。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された「最低限の取り分」のこと。どれほど強い意志を遺言に込めても、遺留分の権利を持つ相続人から請求されれば、一定額の金銭を支払わなければなりません。
逆に言えば、遺留分のない相続人が相手であれば、遺言を使って「渡さない」を実現するハードルは大きく下がります。まずは、誰に遺留分があるのかを正確に把握することが出発点です。
遺留分が認められているのは、配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属(父母・祖父母)に限られます。
一方、兄弟姉妹・甥姪には遺留分がありません。つまり、法定相続人が兄弟姉妹だけのケースでは、第三者や特定の相続人に遺贈する遺言をきちんと作成すれば、「渡さない」という意思を法的に実現しやすいのが実務の基本線です。
遺留分は「遺留分算定の基礎財産」をベースに計算されます。家族構成ごとの全体割合と、個別の遺留分の目安は次のとおりです。
| 家族構成(法定相続人) | 全体の遺留分割合 | 個別の遺留分(例) |
|---|---|---|
| 配偶者と子 | 1/2 | 配偶者 1/4、子全体 1/4(子2人なら各1/8) |
| 子のみ | 1/2 | 子全体 1/2(子2人なら各1/4) |
| 配偶者と直系尊属 | 1/2 | 配偶者 1/3、直系尊属全体 1/6 |
| 直系尊属のみ | 1/3 | 直系尊属全体 1/3 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 配偶者 1/2、兄弟姉妹は遺留分なし |
| 兄弟姉妹のみ | 0 | 兄弟姉妹は遺留分なし |
2019年施行の民法改正により、遺留分の請求方法は原則として金銭請求(遺留分侵害額請求)に整理されました。
これにより、「遺留分を請求されたら不動産が共有になってしまう」という従来の典型的なトラブルは起きにくくなっています。
法律上、特定の相続人の相続権を消滅させる仕組みがいくつか存在します。ただし、いずれも適用条件が厳しく、「対策として気軽に使える」性質のものではありません。制度の概要と現実的な難しさを整理します。
被相続人の殺害、遺言の偽造・隠匿など、民法に定められた一定の行為があった場合、その相続人は法律上当然に相続権を失います。これが相続欠格です。
ただし、これは重大な違法行為があったときに自動的に適用される制度であり、相続対策として任意に使えるものではありません。また、欠格者に子がいれば代襲相続が発生する点にも注意が必要です。
虐待・重大な侮辱・著しい非行がある場合に、被相続人が家庭裁判所に申し立てて相続権の剥奪を求める制度です。遺言で廃除の意思表示をすることも可能です。
▶ 特定の相続人の相続権を剥奪したい|相続廃除の方法と注意点
相続開始前であっても、家庭裁判所の許可を得れば遺留分の放棄は可能です。
ただし、許可審査では本人の真意・放棄の合理性・代償の有無が厳しく確認されます。関係が破綻している相手に協力を求めること自体が難しいケースが多く、現実的なハードルは高いと言えます。
「渡さない」を目指す案件では、遺言の作成が対策の中心になります。ただし、遺言は形式・内容ともに争われやすいため、作り方に注意が必要です。
「特定の相続人に渡さない」という内容の遺言は、他の相続人から争われる可能性が高いテーマです。自筆証書遺言では形式不備や意思能力(遺言作成時に判断能力があったか)を争点にされるリスクがあります。
そのため、実務では公正証書遺言が基本です。公証人が関与し、証人2名が立ち会うことで、遺言の有効性に関する争いを大幅に減らせます。
▶ 公正証書遺言とは?自分で進める流れや司法書士への依頼方法を解説
不動産が相続財産に含まれる場合、相続登記などの手続きに相続人全員の協力が必要になる場面があります。「渡さない」とされた相続人が手続きに協力しない──こうした事態で手続きが止まるのはよくあるケースです。
遺言執行者をあらかじめ指定しておくことで、遺言の内容を確実に実現(名義変更等)するための権限が付与され、手続きを円滑に進められます。不動産がある案件では優先度の高い対策です。
遺言の「付言事項」には法的拘束力はありません。しかし、遺産分割の内容についての説明を付言に記すことで、他の相続人の納得感を高め、紛争を抑止する効果が期待できます。
ポイントは、感情ではなく事実ベースで淡々と書くことです。なぜこの分け方にしたのか、誰に何を期待するかを具体的に記載します。
遺留分のある相続人に「渡さない」を目指す場合、遺言だけでは完全な解決が難しいケースが多くあります。ここでは、実務でよく使われる3つの手法と、それぞれの注意点を解説します。
死亡保険金は、原則として受取人の固有財産として扱われ、遺産分割の対象にはなりにくいと整理されています。このため、遺留分対策として「支払原資の確保」に活用されるケースが多い手法です。
生前贈与は遺留分対策の一つとしてよく話題に上がりますが、遺留分の算定では一定の生前贈与が計算に含まれるため、安易に動かすとかえって争いの火種になります。
特に相続開始直前の贈与ほど遺留分の算定に含まれやすく、また贈与税の課税リスクも上がります。「贈与+相続放棄」といった組み合わせも理屈上は議論がありますが、否認リスク・課税関係・当事者の意思確認など実務上は極めて繊細な対応が求められます。
養子縁組によって法定相続人を増やすと、各相続人の法定相続分が分散し、結果として遺留分の見込み額を引き下げる効果(希釈効果)が期待できます。
ただし、縁組意思の問題(形式的な縁組は無効とされるリスク)、二次相続への波及、税務上の法定相続人カウントの制限(相続税の基礎控除で算入できる養子の数には上限あり)など周辺の論点が多いため、家系全体を見渡した設計が不可欠です。
家族信託は近年注目を集めている仕組みで、相続後の管理・承継の設計に強みがあります。具体的には、受託者に管理権限を集中させる、受益者を連続的に指定する、といった柔軟な設計が可能です。
家族信託が特に有効なのは、以下のようなケースです。
いずれの場合も、遺留分の見込みとセットで組み立てることが安全な進め方です。
2024年4月1日から相続登記の義務化が施行されています。「渡さない」を巡る案件では、紛争対応に注力するあまり登記手続きが後回しになりがちですが、義務化のルールは適用されます。
相続(遺言による取得を含む)で不動産を取得した相続人は、「相続の開始および所有権の取得を知った日から3年以内」に相続登記を申請する義務があります。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となり得ます。
施行日(2024年4月1日)以前に発生した相続で未登記の不動産についても義務化の対象です。この場合の期限は、原則として2027年3月31日までとされています。
遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合など、不動産の帰属が確定していない状況では、「正当な理由」として考慮される場面が法務省から示されています。
とはいえ、「争っているから放置して問題ない」とは言い切れません。紛争中であっても期限は意識し、状況に応じた手当て(相続人申告登記の活用など)を検討する必要があります。
「渡さない」を巡る案件は、対策の順番が重要です。以下のステップに沿って、漏れなく準備を進めましょう。
「特定の相続人に一切渡さない」を"きれいに"実現できるかどうかは、遺留分の有無によって大きく変わります。
遺留分のない兄弟姉妹が相手であれば、遺言の作成で対応が可能です。一方、遺留分のある相続人が相手の場合は、以下の3つをセットで組むのが実務で最も揉めにくい道筋です。
「渡さない」を実現するための3つの柱
相続は「法律」だけでなく「感情」も動く問題です。断定的な"必勝法"を追い求めるのではなく、事実と数字を積み上げて争点を減らす設計にすることが、結果的に最も安全な道筋です。

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