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遺留分侵害額請求(要点まとめ)
● 遺留分とは:兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・直系尊属)に保障された最低限の取り分(民法1042条)。侵害する遺言も無効にはなりませんが、権利を行使すれば侵害額に相当する金銭を請求できます
● 請求方法:遺言や贈与で財産を取得した相手(受遺者・受贈者)に金銭の支払いを請求します(2019年7月1日以降の相続)。内容証明郵便で意思表示するのが確実です
● 期限:相続開始と侵害を知った時から1年で時効消滅。知らなくても相続開始から10年で消滅します(民法1048条)
● 割合の目安:おおむね法定相続分の2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)
● 相談先:交渉・調停・訴訟は弁護士、合意後の不動産名義変更登記は司法書士、税務は税理士が担当します
遺産相続において、「全財産を特定の人に譲る」という遺言があった場合でも、一定の相続人には最低限の取り分が法律で保障されています。これが「遺留分」という制度です。この記事では、遺留分を侵害された場合の請求方法や、反対に請求された場合の対応、2019年の民法改正による重要な変更点、実務上の注意点について、司法書士の視点から分かりやすく解説します。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障された、最低限の相続割合のことです。
本来、自己の財産は贈与や遺言等により自由に処分できるのが原則です。しかし、この原則を貫くと、被相続人(亡くなった人)が、贈与や遺言により全財産を特定の相続人だけに取得させていた場合、他の相続人は一切相続財産を取得することができなくなってしまいます。
そこで、民法は、相続人の生活保障や相続財産の公平な分配の観点から、被相続人の財産処分の自由に一定の制限を加える「遺留分制度」を設けています(民法1042条以下)。
遺留分を有するのは、以下の相続人に限られます。
| 相続人の種類 | 続柄 | 遺留分の有無 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 | あり | - |
| 第1順位 | 子・孫(直系卑属) | あり | 代襲相続を含む |
| 第2順位 | 親・祖父母(直系尊属) | あり | 子がいない場合のみ |
| 第3順位 | 兄弟姉妹・甥姪 | なし | - |
兄弟姉妹には遺留分がありません。たとえば、子供のいない夫婦において、夫が「全財産を妻に相続させる」という有効な遺言を書けば、兄弟姉妹から遺留分を請求されることはなく、原則として兄弟姉妹を含めた遺産分割協議も不要になります(ただし、遺言の有効性そのものが争われる可能性は残ります)。遺言がない場合は兄弟姉妹にも法定相続分が発生するため、遺産分割協議が必要となり、トラブルの温床となることもあります。
遺留分の侵害とは、亡くなった方の遺言や生前の贈与によって、本来相続人が受け取れるはずの最低限保障された相続割合(遺留分)を下回ってしまう状況のことです。
具体的には、以下のような場合に遺留分の侵害が発生します。
遺留分が侵害された場合、その相続人は、遺言によって財産を取得した受遺者や、生前贈与を受けた受贈者に対して、侵害された遺留分に相当する金銭を支払うよう請求することができます。これが「遺留分侵害額請求」です。請求の相手が複数いる場合は、受遺者が受贈者より先に負担するなど、負担の順序が法律で定められています(民法1047条)。
2019年7月1日に施行された相続法改正により、遺留分制度は大きく変わりました。この改正を理解することは、遺留分問題を考える上で非常に重要です。
改正前は「遺留分減殺請求」という名称で、権利行使によって財産そのもの(不動産や株式など)の所有権が当然に移転するという仕組みでした。これにより、不動産は自動的に共有状態となり、複雑な権利関係が生じていました。
改正後の「遺留分侵害額請求」では、金銭の支払いを請求する権利に変更されました。
相続開始の日(被相続人の死亡日)が基準となりますので、ご自身のケースがどちらに該当するか確認が必要です。2026年現在に新たに発生する相続は、すべて新法(遺留分侵害額請求)の対象です。
遺留分侵害額請求を行うためには、以下の要件を満たす必要があります。
請求できるのは、前述の通り、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属に限られます。兄弟姉妹は請求できません。
また、相続放棄をした人は遺留分侵害額請求を行うことはできません。相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとみなされるためです。
遺言や生前贈与によって、自分の遺留分を下回る財産しか取得できない状態であることが必要です。
遺留分侵害額請求権には、非常に短い時効があります。
「知った時から1年」というのは、葬儀や四十九日、悲しみの中での生活再建を考えると、極めて短い期間です。迷っている時間はありません。まずは意思表示だけでも行う必要があります。
「遺留分を請求できる本人が、請求しないまま亡くなってしまった」というケースがあります。この場合、遺留分侵害額請求権はその相続人に相続(承継)され、相続人が代わりに行使できます。
民法1046条1項は、請求できる者を「遺留分権利者及びその承継人」と定めており、この承継人には遺留分権利者の相続人が含まれると解されています。遺留分侵害額請求権は、本人だけしか持てない権利(帰属上の一身専属権)ではないためです。
注意すべきは、権利を承継しても時効期間(知った時から1年)はそのまま進行し続けることです。承継した相続人は、期間内に速やかに意思表示(内容証明郵便の送付など)を行う必要があります。起算点の判断など難しい論点を含むため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
遺留分の計算は複雑ですが、基本的なステップを理解しておくことが重要です。
ここで重要なのが「生前贈与の持ち戻し」です。2019年の改正により、持ち戻し期間に明確な制限が設けられました。
| 贈与の相手 | 持ち戻し期間 | 条件 |
|---|---|---|
| 相続人 | 相続開始前10年間 | 婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与(特別受益)に限る |
| 第三者 | 相続開始前1年間 | 原則として全ての贈与 |
| 悪意の当事者 | 期間制限なし | 贈与者と受贈者の双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知って行った場合 |
相続人への生前贈与が相続開始前10年以内のものしか対象にならないという「10年ルール」は、事業承継や相続対策において重要な意味を持ちます。たとえば、後継者に自社株を贈与する場合、贈与から10年経過すれば、その株式は原則として遺留分計算の基礎財産から外れることになります。
| 相続人の構成 | 全体の遺留分割合 |
|---|---|
| 直系尊属のみ | 遺産の3分の1 |
| それ以外(配偶者や子がいる場合) | 遺産の2分の1 |
相続人: 母(配偶者)、長男、長女
遺産総額: 1億円
この計算結果がプラスになった場合、その金額が請求できる遺留分侵害額の目安となります。※上記は概算の考え方です。厳密には、遺留分権利者自身が受けた遺贈・特別受益の価額や、具体的相続分に応じて取得すべき遺産の価額を差し引き、承継する相続債務の額を加算して算定します(民法1046条2項)。
遺留分計算において、現金や上場株式は評価が容易ですが、不動産は評価額が一義的に決まらないため、最も激しい対立点となります。
| 評価方法 | 特徴 | 実勢価格との関係(一般的な目安) |
|---|---|---|
| 時価(実勢価格) | 実際に市場で売買される価格 | 100% |
| 公示価格・基準地価 | 国や都道府県が公表 | 実勢価格に近い |
| 相続税路線価 | 相続税申告に使用 | 約80% |
| 固定資産税評価額 | 毎年の固定資産税通知書記載 | 約70% |
※上記の割合はあくまで一般的な目安です。個々の不動産の時価を一定割合の掛け戻しで機械的に算定できるわけではなく、争いになった場合は近隣の成約事例・査定書や不動産鑑定評価などをもとに、相続開始時の時価を検討します。
この評価額の差は、都市部の不動産では数千万円に達することもあります。まずは公的評価額をベースに交渉を開始し、合意に至らなければ不動産鑑定士による鑑定に進むという段階的なアプローチが現実的です。
1年の期間内に権利を守るには、遺留分侵害額を請求する意思表示を相手方に到達させることが必要です。その意思表示をした事実と日付を後日証明できるようにする確実な方法が、配達証明付き内容証明郵便の送付です。
内容証明郵便に記載すべき要素:
詳細な金額計算が完了していなくても、「遺留分を請求する」という意思さえ明確に伝われば、期間内に権利を行使したことになります。したがって、まずは通知を送り、その後にじっくりと財産調査や交渉を行うのが定石です。なお、家庭裁判所に調停を申し立てただけでは相手方への意思表示にはならないため、通知は別途必要です。
訴訟は時間も費用もかかるため、できる限り協議や調停での解決が望ましいとされています。
ここからは、請求「する側」ではなく請求「された側」の視点で解説します。ある日突然、内容証明郵便が届いて戸惑う方は少なくありません。
改正民法により遺留分が金銭債権化されたことで、「資産はあるが現金がない」という受遺者(不動産を相続した人など)は深刻な問題に直面することになりました。このような場合、以下の対処法があります。
受遺者が直ちに金銭を準備できない場合、裁判所に対して支払期限の猶予を求めることができます(民法1047条5項)。
手続き: 受遺者・受贈者が裁判所に対し、支払債務の全部または一部について相当の期限を定めるよう求めます(民法1047条5項)。猶予が自動的に認められるわけではなく、資力や不動産の換価可能性などの事情を踏まえて裁判所が判断します
効果: 許与された期限が到来するまでは履行遅滞にならず、遅延損害金や強制執行を心配せずに資金の準備を進められます
この制度は、受遺者が住んでいる家を即座に競売にかけられるような事態を防ぐためのセーフティネットです。すぐに払えない場合でも、法的な猶予を求める手段があることを知っておくことが重要です。
金銭での支払いが最終的に不可能な場合、合意により不動産そのものを渡して債務を消滅させる「代物弁済」が選択肢となります。
代物弁済を行う場合は、所有権移転登記が必要です。
通常の相続登記(登録免許税0.4%)と異なり、税率が通常の売買等と同じ2.0%と高くなる点に注意が必要です。
多くの方が見落としがちですが、代物弁済には重大な税務リスクがあります。
税務上、金銭の支払いに代えて不動産を移転する代物弁済は「資産の譲渡」に当たり、原則として、代物弁済によって消滅した遺留分侵害額(債務額)を譲渡対価として譲渡所得を計算します(国税庁質疑応答事例)。渡した不動産の取得費(被相続人が取得した当時の価格を引き継ぎます)を譲渡対価が上回っている場合、その差益に対して譲渡所得税が課税されます。
状況:
課税関係:
長男は、土地を失った上に、翌年の確定申告で約508万円の現金を納税しなければならなくなります。不動産を手放したうえに納税資金も別途必要になるため、事前の税額試算が欠かせません。
代物弁済を行う前に、必ず税理士によるシミュレーションを行い、手元資金で納税が可能か、あるいは別の解決策がないかを検討しなければなりません。「お金がないから土地で払う」という安易な判断は、後で取り返しのつかない事態を招く可能性があります。
遺留分の授受が行われた場合、当初の相続税申告の内容と実際の財産配分にズレが生じるため、税務手続きが必要です。
| 立場 | 必要な手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 支払った側(受遺者) | 更正の請求 (払いすぎた相続税を取り戻す) | 遺留分侵害額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内(相続税法32条1項3号) |
| 受け取った側(請求者) | 修正申告または期限後申告 (追加で相続税を納める) | 法定の短期期限はないものの、早めの対応が必要 |
特に更正の請求は期限が非常に短いため、注意が必要です。
紛争になってからの対処も重要ですが、トラブルを未然に防ぐ「予防法務」はより価値があります。
遺留分対策として最も有効なツールの一つが生命保険です。
死亡保険金は、受取人の固有財産とされ、原則として遺産分割の対象にも、遺留分算定の基礎財産にも含まれません。
原則: 死亡保険金は受取人固有の財産となり、遺産分割の対象にも遺留分算定の基礎財産にも含まれません
注意: 現金の大部分を保険に振り替えるような極端な設計では、下記の「著しい不平等」の例外に該当するおそれがあり、保険料相当額がすべて基礎財産から外れるとは限りません
最高裁は、保険金額が遺産総額に比して過大であり、他の相続人との間に「到底是認できないほどの著しい不平等」が生じる場合には、例外的に特別受益として持ち戻しの対象となると判断しています。
持戻しの対象になるかどうかについて、保険金額や遺産総額に対する一律の安全基準はありません。保険金額の比率のほか、被相続人との関係、同居・介護の状況、各相続人の生活実態などから個別に判断されます。保険の設計は、こうしたリスクも踏まえて検討することが大切です。
また、生命保険金を「遺留分支払いの原資」として用意しておく(代償分割資金としての活用)という方法も、不動産を守るための有効な手段です。
遺留分対策として、以下のような方法も有効です。
遺留分の問題は「誰に相談すればよいか分かりにくい」というお声をよくいただきます。局面ごとに担当できる専門家が法律で決まっているため、以下の表を参考にしてください。
| 相談内容 | 担当する専門家 |
|---|---|
| 相手方との交渉・調停・訴訟の代理 | 弁護士 |
| 合意成立後の不動産の名義変更登記(代物弁済による所有権移転登記など) | 司法書士 |
| 相続登記・生前贈与による名義変更登記 | 司法書士 |
| 譲渡所得税・相続税の申告や税額シミュレーション | 税理士 |
当センター(司法書士法人)では、遺留分侵害額の支払いに関する合意が成立した後の不動産名義変更登記(代物弁済による所有権移転登記など)や、相続登記・生前贈与による名義変更登記を承っております。相手方との交渉や調停・訴訟の代理は取り扱っておりませんので、遺留分をめぐって相続人間に対立がある場合は、弁護士にご相談ください(関東対応エリアを中心に、弁護士のご紹介も可能です)。
遺留分侵害額請求は、2019年の民法改正により金銭債権化され、複雑な計算式、厳格な時効、そして不動産や税務の問題が絡み合う高度な法律問題です。
特に重要なポイントを再確認します。
遺留分の問題は、法律、税務、登記、そして家族関係が複雑に絡み合います。早めに専門家に相談し、適切な対応をとることが、円満な解決への第一歩です。
当センターでは、遺留分に関する合意成立後の不動産名義変更登記をはじめ、相続登記・生前贈与登記など登記手続き全般のご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・直系尊属)に法律上保障された、最低限の相続割合のことです(民法1042条)。「全財産を特定の人に譲る」という遺言も無効にはなりませんが、遺留分を侵害された相続人は、権利を行使することで侵害額に相当する金銭の支払いを受けられます。
ありません。遺留分が認められるのは配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属のみです。子供のいない夫婦で「全財産を配偶者に相続させる」という遺言を残せば、兄弟姉妹から遺留分を請求されることはありません。
あります。相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅します。また、知らなかった場合でも相続開始から10年を経過すると請求できなくなります(民法1048条)。
「基礎財産(相続開始時の財産+一定の生前贈与−相続債務)×全体の遺留分割合(原則2分の1・直系尊属のみの場合は3分の1)×法定相続分」で各自の遺留分額を計算し、そこから実際に取得した財産の価額などを差し引いた額が請求できる侵害額の目安です(厳密な算定方法は民法1046条2項)。
無視はおすすめできません。放置すると調停・訴訟に発展し、遅延損害金の負担も生じ得ます。まずは請求者が遺留分権利者か、時効が完成していないか、請求額の根拠が妥当かを確認し、内容に納得できない場合は弁護士に相談してください。
裁判所に支払期限の猶予(期限の許与)を求める方法(民法1047条5項)や、合意の上で不動産そのものを渡す代物弁済という方法があります。ただし代物弁済には譲渡所得税が課税されるリスクがあるため、実行前に税理士への相談が不可欠です。
相続されます。遺留分権利者が請求しないまま死亡した場合、その相続人が権利を承継して行使できます(民法1046条1項の「承継人」)。ただし時効期間は進行し続けるため、承継した相続人は早めに意思表示を行う必要があります。
合意成立後の不動産名義変更登記(代物弁済による所有権移転登記など)や、相続登記・生前贈与登記は司法書士にご相談いただけます。当センターでは相手方との交渉・調停・訴訟の代理は取り扱っておらず、その場合は弁護士へのご相談をご案内しています。登記手続きは全国対応・相談無料で承っています。
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