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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
遺留分侵害額請求権
自己の財産は贈与や遺言等により自由に処分できるのが原則です。しかし、この原則を貫くと、被相続人(亡くなった人)が、贈与や遺言により全財産を特定の相続人だけに取得させていた場合、他の相続人は一切相続財産を取得することができなくなってしまいます。そこで、民法は、相続人の生活保障、相続財産の公平な分配の観点から、被相続人の財産の処分の自由に一定の制限を加える「遺留分制度」を設けています(民法1042条以下)。
【目次】
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各相続人の遺留分の割合を算出する計算式は、次のとおりです(民法1042条1項・2項、900条、901条)。
各相続人の遺留分の割合 = 総体的遺留分 × 法定相続分
【総体的遺留分】
直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
それ以外の場合 2分の1
【法定相続分】
相続人 | 相続分 |
配偶者 子 | 2分の1 2分の1 |
配偶者 直系尊属 | 3分の2 3分の1 |
配偶者 兄弟姉妹 | 4分の3 4分の1 |
※子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は均等です。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1です。
例えば、相続人が配偶者、子A及び子Bである場合の遺留分は、次のとおりです。
配偶者: 1/2(総体的遺留分) × 1/2(法定相続分) = 1/4
子A: 1/2(総体的遺留分) × 1/4(法定相続分) = 1/8
子B: 1/2(総体的遺留分) × 1/4(法定相続分) = 1/8
被相続人が遺留分を侵害する贈与や遺言をしていた場合に、遺留分権利者が、贈与や遺言により財産を取得した者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利のことです(民法1046条1項)。
例えば、相続人が配偶者、子A及び子Bである場合に、被相続人が次のような内容の遺言を残していたとします。
「全財産(金1億円)を子Bに相続させる。」
この遺言に従うと、被相続人の全財産である金1億円を子Bが取得することとなり、配偶者及び子Aは一切相続財産を取得できません。この場合、配偶者及び子Aはそれぞれ遺留分を侵害されているので、相続財産を取得した子Bに対して遺留分侵害額請求権を行使することができます。
配偶者及び子Aが遺留分侵害額請求権を行使した場合の最終的な相続分は次のとおりです。
配偶者: 2500万円
子A: 1250万円
子B: 1億円 - 2500万円(配偶者の相続分) - 1250万円(子Aの相続分) = 6250万円
上記の例では、「遺留分算定の基礎となる財産の額」を単純に「全財産である金1億円」としましたが、実際には「遺留分算定の基礎となる財産の額」は、次の計算式で求めます(民法1043条1項)。
遺留分算定の基礎となる財産の額 = 相続開始時の財産の価額 + 生前贈与の価額(※) - 相続債務の全額
※生前贈与の価額に算入されるのは、原則として次の期間内にされた贈与です(民法1044条1項・3項)。
相続人以外の者に対する贈与:相続開始前の1年間
相続人に対する贈与:相続開始前の10年間
遺留分侵害額請求権の行使については、特別な方法が定められているわけではありません。まずは相続人間の話し合いで解決を試みることになると考えられます。
遺留分侵害額請求権の行使の際は、遺留分侵害額請求権を行使する旨を記載した配達証明付き内容証明郵便を相手方に送付するのが望ましいといえます。
なぜなら、遺留分侵害額請求権は、上述のとおり、原則として相続の開始等を知った時から1年で消滅してしまうので、その期間内に遺留分侵害額請求権を行使したという証拠を残しておくためです。
相続人間の話がまとまらない場合や話し合いができない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。調停では、中立的な立場の調停委員を交えて話し合いで解決を試みます。調停でも解決できない場合は、訴訟を提起することになります。
遺留分侵害額請求権例えば、旧法では、遺留分を侵害する不動産の贈与があり、遺留分権利者の遺留分割合が4分の1である場合に、遺留分権利者が「遺留分減殺請求権」を行使すると、遺留分権利者はその不動産の持分4分の1を取得することになります。
しかし、遺留分制度の主な目的である相続人の生活保障、相続財産の公平な分配の観点からは、財産そのものを取得させなくても金銭的な補償が与えられれば足りると考えられます。また、特定の相続人に特定の財産を取得させたいという被相続人の意思を尊重すべきであるとも考えられます。そこで、遺留分の請求権は、民法改正により「財産そのもの」ではなく「金銭」を請求する権利に変更されました。
ただし、現在、遺留分の請求をする際に、必ずしも新法の遺留分侵害額請求の規定が適用されるとは限らない点に注意が必要です。2019年7月1日の改正民法の施行以降に発生した相続については、新法の遺留分侵害額請求の規定が適用されますが、2019年7月1日より前に発生した相続については、たとえ2019年7月1日以降に遺留分の請求した場合であっても、旧法の「遺留分減殺請求」の規定が適用されます(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年7月13日)附則2条)。
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