【2026年6月24日公布・法改正情報】自筆証書遺言の「押印廃止」など改正民法が成立しました
パソコンなどで作成(書面または電磁的記録)して法務局で保管する新しい遺言方式「保管証書遺言(通称:デジタル遺言)」の創設に加え、自筆証書遺言の押印を不要とし、本制度(自筆証書遺言書保管制度)の手続の一部をオンラインでも行えるようにする「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が2026年6月17日に成立し、同年6月24日に公布されました。ただし、これらは施行日が政令で定められ、現時点ではまだ利用できません(押印廃止は公布日(2026年6月24日)から1年以内、保管制度のオンライン手続・保管証書遺言は公布日から3年以内に施行予定)。施行日が決まり次第、本ページを更新します。電子的な作成方法や手続の詳細は今後の政省令・法務局の運用で定まります。
自筆証書遺言書保管制度の要点まとめ
● 制度とは:自分で書いた自筆証書遺言を、法務局が原本+画像データで保管する制度(2020年7月開始)。
● 3大メリット:紛失・改ざんを防げる/家庭裁判所の検認が不要/低コスト(保管3,900円)。
● 手続き:遺言者本人が法務局を予約して出向き申請(5ステップ)。代理申請は不可。
● 必要書類:遺言書・保管申請書・本籍と戸籍の筆頭者の記載がある住民票の写し等(作成後3か月以内・マイナンバー/住民票コード記載なし)・顔写真付きの本人確認書類。
● 費用:保管3,900円/遺言書情報証明書1,400円/保管事実証明書800円。撤回・変更の届出は無料。
● 相続開始後:まず保管事実証明書、次に遺言書情報証明書。検認不要で相続登記がスムーズに。
● 公正証書遺言との違い:費用は安いが内容のチェックはなし。中身の安心は専門家相談が確実。
「自分で書いた遺言書を、安全に保管したい」「家庭裁判所の検認をなくしたい」——そんな方のための制度が、法務局で自筆証書遺言を預かる自筆証書遺言書保管制度です。本記事では、相続・不動産名義変更について年間2,000件超の相談実績がある司法書士が、手続きの流れ・費用・必要書類・公正証書遺言との違いまで、実務目線でわかりやすく解説します。預けた後・相続開始後の動きや、失敗しないための助言もまとめました。
この記事でわかること
- 制度の概要と3つのメリット(紛失防止・検認不要・低コスト)
- 法務局保管・公正証書遺言・自宅保管の比較
- 保管申請の5ステップと必要書類・費用
- 預けた後/相続開始後にできること
- よくある質問(FAQ)と司法書士からの助言
1. 自筆証書遺言書保管制度とは?
自筆証書遺言書保管制度とは、自分で書いた自筆証書遺言を、法務局(遺言書保管所)で原本と画像データの両方で保管してもらえる制度です。2020年(令和2年)7月10日に始まりました。自宅で保管すると起こりがちな紛失・隠匿・改ざん・破棄のリスクを大きく減らせるのが特徴です。
この制度の大きなメリットは次の3つです。
- 紛失・改ざんを防げる:原本を法務局が安全に保管します。家族が原本を勝手に書き換えたり捨てたりするリスクを大きく減らせます。
- 検認が不要になる:本来、自筆証書遺言は相続開始後に家庭裁判所の「検認」が必要ですが、保管制度を使った遺言は検認が不要です。相続手続のスタートがスムーズになります。
- 低コスト:法務局に納める保管申請の手数料は1件3,900円。公正証書遺言の公証人手数料と比べると、制度利用時の公的な手数料は抑えやすいのが特徴です(遺言書の作成支援を専門家に依頼する場合は別途費用がかかります)。
司法書士の実務コメント
相続登記(不動産の名義変更)では、「遺言書がすぐ使えるか」「検認が必要か」で初動のスピードが変わります。検認は申立てから完了まで1〜2か月かかることもあり、その間は登記や預貯金の解約が止まりがちです。保管制度は、この“スタートの詰まり”を減らす仕組みとして実務上とても有効です。
2. 【比較表】法務局保管・公正証書遺言・自宅保管はどれを選ぶ?
「自筆を法務局に預ける」「公正証書にする」「自宅で保管する」——3つの方法を比較すると、特徴の違いがはっきりします。
「費用を抑えつつ、紛失と検認の不安をなくしたい」なら法務局保管、「方式面の安定性や公証人の関与を重視したい」なら公正証書遺言が向いています。ただし、公証人が確認するのは主に遺言の方式や文言であり、相続税・遺留分・相続登記後の実務までを保証するものではありません。これらの個別論点は、必要に応じて税理士・司法書士・弁護士等へご確認ください。なお、法務局は遺言の“内容”が適切かどうかは確認しません(外形チェックのみ)。内容面の安心がほしい場合は、作成段階で専門家に相談するのが確実です。
3. 制度のメリット・デメリット
メリット
- 原本を法務局が保管 → 紛失・隠匿・改ざん・破棄を防げる
- 相続開始後の家庭裁判所の検認が不要
- 手数料は1件3,900円と低コスト
- 保管時に日付・氏名・押印など形式(外形)の確認を受けられる
- 相続人等への通知制度があり、遺言が“発見されない”事故を減らせる
- 死後は全国どこの遺言書保管所でも、証明書の交付請求ができる
デメリット・注意点
- 法務局は内容の適切性まではチェックしない(形式のみ)。分け方の不備や無効リスクは残る
- 申請は遺言者本人が法務局へ出向く必要がある(代理申請は不可)
- 予約が必須で、書類をそろえても予約なしでは受け付けてもらえない
- 財産目録以外はすべて自書する必要があり、書く負担がある
- 様式ルール(用紙・余白など)を満たさないと受け付けてもらえないことがある
4. 保管申請の流れ(5ステップ)
保管申請は、大きく次の5ステップで進みます。スムーズに進めるため、まず全体の流れと各ステップの要点を確認しておきましょう。
- 遺言書を作成する(自筆・様式ルールに沿って)
- 申請する法務局(遺言書保管所)を決める(住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれか)
- 保管申請書を作成する
- 法務局に予約する(予約必須)
- 本人が法務局へ行き申請 → 「保管証」を受け取る
⚠️ つまずきやすいポイント
2通目以降を追加で預ける場合は、原則として最初に申請した遺言書保管所に申請します。なお、引っ越しなどで住所が変わったときは、法務局へ「変更の届出」をするだけで手続きは完了します(手数料無料・詳しくは9章(4))。遺言書を撤回して預け直す必要はありません。全国の遺言書保管所はデータで連携されているため、変更の届出をしておけば、新しい住所地の管轄保管所でも閲覧などの手続きができます。
5. 【ステップ別】保管申請のやり方とつまずきポイント
ステップ1:遺言書を作成する
制度の対象は自筆証書遺言です。本文は本人が自書する必要があります(財産目録のみパソコン作成や通帳コピー等の添付が可能。ただし各ページに署名・押印が必要)。
法務局は“内容の相談”や“内容が適切か”のチェックはしてくれません。分け方・財産の特定・付言事項などの設計は、専門家に相談すると安心です。
司法書士の実務コメント(ここが重要)
遺言は「書けているつもり」でも、相続登記の現場では、不動産の特定が弱い(地番・家屋番号が曖昧)/預貯金の名義・支店が曖昧/受遺者の住所・氏名が不正確といった理由で、金融機関や登記で追加確認が発生しがちです。財産の書き方を事前に点検するだけでも、相続人の負担は大きく減ります。
ステップ2:申請する法務局(遺言書保管所)を決める
次のいずれかを管轄する法務局(遺言書保管所)を選べます。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産の所在地
ステップ3:保管申請書を作成する
所定の保管申請書に必要事項を記入します。申請書の様式は法務省の公式ページからダウンロードできます。
ステップ4:予約する(ここが盲点)
保管制度に関する手続は予約が必要です。「書類をそろえたのに窓口で受け付けてもらえない」というトラブルが起きやすいので、先に予約導線を確認しておきましょう。
ステップ5:本人が法務局へ行き、申請する
予約日時に、遺言者本人が遺言書保管所へ行きます。持ち物は次のとおりです(詳細は次章のチェックリストを参照)。申請が終わると、保管番号などが記載された「保管証」を受け取ります。保管証は再発行されないため、大切に保管してください。
6. 必要書類・持ち物チェックリストと遺言書の様式ルール
保管申請に必要なもの
- 遺言書(様式ルールに沿って作成したもの。ホチキス止め・封筒は不要)
- 保管申請書
- 本籍および戸籍の筆頭者の記載がある住民票の写し等(作成後3か月以内のもの。マイナンバー・住民票コードの記載がないもの)
- 本人確認書類(顔写真付きの官公署発行のもの=運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)
- 手数料 3,900円(収入印紙で納付)
- 遺言書が外国語の場合は、日本語による翻訳文
遺言書の様式ルール(満たさないと受け付けられないことがあります)
- 用紙はA4サイズ
- 余白は上5mm・下10mm・左20mm・右5mm以上を確保する(この余白には文字や図を書かない)
- 片面のみに記載する
- ページが複数になる場合は通し番号(ページ番号)を記載する
- ホチキス止めはしない
- 消えるインクや鉛筆は使わない(長期保存のため、ボールペン・万年筆など消えにくい筆記具で書く)
ワンポイント:様式ルールは「書き方(中身)」とは別の、用紙・余白などの形式のルールです。中身(自書・日付・氏名・押印)の要件は次章を、詳しい書き方は 自筆証書遺言のよくある誤り・書き方の注意 もあわせてご覧ください。
7. 費用の目安(手数料一覧)
制度利用にかかる代表的な手数料は次のとおりです(法務省公式の手数料一覧に基づきます)。
正確な金額や最新情報は、法務省「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」でも確認できます。
8. 自筆証書遺言の要件(最低限おさえる4点)
保管制度を使う前提として、遺言書そのものが有効な自筆証書遺言である必要があります。最低限、次の4点を満たしてください。
※上記は現行制度の要件です。冒頭の【法改正情報】でお伝えしたとおり、2026年6月に成立した改正民法(押印廃止など。詳細は末尾のQ10)により押印は将来不要になる見込みですが、施行日前に作成する遺言書には引き続き押印が必要です(施行日は未定)。
なお、夫婦連名など2人以上で1通の遺言(共同遺言)は無効です。夫婦でも各自1通ずつ作成します。詳しい書き方や、つまずきやすい誤りは 自筆証書遺言の書き方・よくある誤り で解説しています。
9. 預けた後にできること(生前)
(1) 閲覧(自分の遺言書を確認)
遺言者本人のみが、生前に閲覧請求できます(モニター閲覧1,400円/原本閲覧1,700円)。
(2) 撤回(返還を受ける)
預けた遺言書の保管をやめて、返還を受けることができます。撤回の手数料は無料です。
(3) 内容を変更したいとき
保管中の遺言書そのものを書き換えることはできません。実務上は、いったん撤回して返還を受け、内容を直してから再申請する方法が案内されています。なお、この再申請には改めて保管申請手数料3,900円がかかります(撤回・返還そのものは無料です)。
(4) 住所や氏名などが変わったら「変更の届出」
遺言者本人(または一定の法定代理人)が、変更の届出を行います。変更の届出も手数料は無料です。引っ越しや結婚で住所・氏名が変わったら、忘れずに届け出ましょう。
10. 相続開始後に相続人ができること
遺言者が亡くなった後、相続人や受遺者などは、主に次の手続ができます。
(1) まず「保管されているか」を確認する:遺言書保管事実証明書
「その人の遺言書が法務局に預けられているか」を確認するための証明書です(800円)。保管の有無がわからないときは、まずこれで確認します(保管証・保管番号や指定者通知でわかっている場合は、次の情報証明書から進めます)。
(2) 内容を確認し、相続手続に使う:遺言書情報証明書
遺言書の画像情報が印刷された証明書で、遺言書原本の代わりとして相続登記や金融機関の手続に使用できます(1,400円)。交付請求には、通常、遺言者の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本・相続人全員の戸籍謄本・相続人全員の住民票の写しなどが必要で(法定相続情報一覧図を利用できる場合などは添付書類が変わることもあります)、戸籍の収集に手間取るケースが少なくありません。


遺言書情報証明書の見本(上:遺言者の情報欄/下:最終ページの東京法務局による証明・保管官印)。氏名・生年月日などの個人情報は伏せています。
ここが実務上の大きな注意点ですが、この証明書が交付されると、法務局から他の関係相続人等(受遺者・遺言執行者を含む)にも、遺言書が保管されている旨が自動的に通知されます。つまり「他の相続人に知らせず、内密に内容を確認して手続きを進める」ということは制度上できません。この通知をきっかけに親族間で感情的な摩擦が生じることもあるため、請求のタイミングや事前の声かけには配慮しておくと安心です。
遺言書情報証明書の交付請求は、郵送でも可能です。ただし、添付する戸籍一式に一箇所でも不備があると法務局と何度もやり取りが発生するため、戸籍収集に不安がある場合は専門家にご相談ください。当センターでは、戸籍収集から相続登記までをまとめてサポートできます。
11. 家族が気づける「通知」の仕組み
保管制度の強みのひとつが「通知」です。遺言が“あるのに見つからない”という、もっとももったいない事故を防ぎます。
- 関係遺言書保管通知:関係相続人等の誰かが閲覧や情報証明書の交付を受けると、その他の関係相続人等(受遺者・遺言執行者などを含む)に「保管されている」旨が通知されます。
- 指定者通知:生前に希望しておけば、遺言者の死亡が確認できた時点で、指定した人(最大3名)に通知が届きます。
司法書士の実務コメント
「遺言を書いたのに見つからない」は一番もったいないパターンです。確実に気づいてほしい相手がいる方ほど、“指定者通知”の設定は検討する価値があります。
12. 保管期間・よくある質問(FAQ)
遺言書の保管期間は、法務省の制度説明では原本=遺言者の死亡後50年、画像データ=死亡後150年とされています。以下、よくある質問をまとめました。
13. 司法書士からの「失敗しないための3つの助言」
最後に、相続登記の現場を数多く見てきた専門家として、重要なポイントをお伝えします。
- “方式”は通っても、“内容”で揉める:法務局は形式確認が中心です。特に不動産・預貯金などの財産は、登記簿や金融機関の手続に耐える粒度(地番・家屋番号・口座の特定)で書くことが重要です。分け方や遺留分など争いにつながりやすい論点は、必要に応じて専門家に相談しておくと安心です。
- 不動産があるなら、登記で困らない書き方を:所在地だけでなく、登記簿で特定できる粒度(地番・家屋番号など)で書くと、相続人が迷いません。
- 通知(指定者通知)を“使う前提”で設計する:「誰に知らせたいか」を決めておくと、遺言が“発見されない”事故を減らせます。
