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遺言執行者について


《この記事の監修者》

司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら
 

遺言執行者とは?

遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利や義務を有する者のことです(民法1012条)。

遺言執行者を選任するメリットは?

遺言執行者の選任により、スムーズに遺言の内容を実現することが期待できます。

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じます(民法985条)。例えば、遺言者が特定の遺産を特定の相続人に相続させるという内容の遺言をしていた場合、遺言者が亡くなった時点で、その相続人はその遺産を取得していることになります。

しかし、実際には、不動産の遺贈であれば登記名義の変更が必要ですし、預貯金の相続であれば解約手続等が必要になります。相続人がこのような手続をしてくれないことも考えられますし、相続人間に感情的な対立があって手続が進まないこともありえます。

そのような場合に、遺言執行者が選任されていると、遺言執行者が相続人に代わってこれらの手続を行うので、手続がスムーズに進むことが期待できます。

遺言執行者の選任が必須の場合とは?

遺言執行者によらなければ執行できない遺言事項として次のものがあります。

【認知】

認知とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子とその父との間に親子関係を生じさせることをいいます(民法779条)。この認知は、遺言によってもすることができます(民法781条2項)。遺言による認知の場合には、遺言執行者は、その届出をしなければならないこととされています(戸籍法64条)。そのため、遺言による認知をするには、遺言執行者の選任が必須です。

推定相続人の廃除及びその取消し

推定相続人の廃除とは、遺留分(※)を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)が、被相続人(亡くなった人)に対して虐待、重大な侮辱その他の著しい非行があったときに、家庭裁判所がその推定相続人の相続人としての地位を奪う制度です(民法892条)。この推定相続人の廃除は、遺言によってもすることができます(民法893条)。推定相続人の廃除の取消しについても同様です(894条2項)。遺言による推定相続人の廃除及びその取消しは、被相続人が亡くなった後すみやかに遺言執行者が家庭裁判所にその請求することによって実現します。そのため、遺言による推定相続人の廃除及びその取消しをするには、遺言執行者の選任が必須です。

※遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた、遺産の一定の取り分のことです(民法1042条)。

一般財団法人の設立

一般財団法人の設立者は、遺言によってその設立する意思を表示することができます。遺言による一般財団法人の設立は、被相続人が亡くなった後すみやかに遺言執行者が定款の作成・認証、設立登記の申請等の設立手続をすることになります。そのため、遺言による一般財団法人の設立をするには、遺言執行者の選任が必須です(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)

遺言執行者が選任されていない場合の相続手続は?


遺言執行者が選任されていない場合、不動産、預貯金及び有価証券等の相続手続に相続人全員が関与しなければならなくなったり、手続が煩雑になる場合があります。

例えば、被相続人名義の預貯金の相続手続で、遺言執行者が選任されていない場合、相続人全員の実印の押印や印鑑証明書が必要になることがあります。

一方、公正証書遺言により選任された相続人ではない専門家が遺言執行者として選任されている場合は、遺言執行者単独で解約できることが一般的であるといわれています(金融機関によって扱いが異なることがあります。)。

また、被相続人名義の不動産を第三者に遺贈する旨が記載されている遺言書に基づいて不動産の名義変更をする際に、遺言執行者が選任されていない場合は、遺贈を受けた人だけではなく、相続人全員が実印を押印したり印鑑証明書を提出したりして手続に関与しなければなりません。

一方、遺言執行者が選任されていれば、遺言執行者が相続人全員を代理するので、遺言執行者と遺贈を受けた人だけでその不動産の登記名義を変更することができます。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者の選任方法は、次の2つです。

  • 遺言で遺言執行者を指定する(民法1006条1項)。
    遺言執行者の指定を第三者に委託することもできます。
  • 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる(民法1010条)。

遺言執行者の選任申立てできる場合とは?

選任申立てできる場合は、次の2つです。

遺言の執行が必要であること

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利や義務を有する者のことをいいますので、遺言の内容が執行を必要としない場合は、選任の申立ては却下されます。なお、遺言の執行を要しない場合には、法定相続分の指定や遺言執行者の指定等があります。

遺言執行者がないとき、又はなくなったとき

遺言執行者がないときとは、遺言書で遺言執行者を指定していないときや指定した遺言執行者が就職を拒絶したとき等をいいます。遺言執行者がなくなったときとは、遺言執行者が死亡したときや辞任したとき(民法1019条2項)等をいいます。

選任申立て手続方法は?

【申立人】利害関係人(相続人、遺贈を受けた人等)

【申立先】遺言者の最後の住所地の家庭裁判所

【必要書類】一般的な必要書類は、次のとおりです。

  • 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
  • 遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
  • 利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)

遺言執行者による相続登記の方法は?
(相続法改正による扱いの変更)

不動産に関する遺言としては、特定の遺産を特定の相続人に相続させるという内容の遺言(特定財産承継遺言)(民法1014条2項)が一般的だと思いますので、その場合の相続登記について説明します。

従来、特定財産承継遺言により不動産を取得した相続人は、登記名義を変更していなくても第三者に自分が権利者であることを主張することができました。そのため、遺言執行者はその相続人に代わって登記名義の変更手続をすることはできず、相続人自身が手続をしなければならないこととされていました。

しかし、相続法の改正により令和元年7月1日以降に開始した相続については、特定財産承継遺言により不動産を取得した相続人は、法定相続分(法律で定められた相続分)を超える部分については、登記を備えなければ第三者に自分が権利者であることを主張することができなくなりました(民法899条の2第1項)。そのため、令和元年7月1日以降の遺言により選任された遺言執行者は、その相続人のために登記名義の変更手続をすることができます(民法1014条2項)。従来通り相続人が手続をすることも可能です。

遺言執行者としては、相続人に損害を被らせないよう、相続人の相続を承認する意思を確認して、速やかに名義変更手続をすることが望まれます。

遺言執行者と相続登記

相続登記の手続き方法(費用・必要書類・義務化等)については、以下にまとめておりますのでご参照ください。

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