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不動産のみ記載した遺産分割協議書作成ガイド:基本情報と注意点


《この記事の監修者》

司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら


最終更新日:2026年2月16日
 

不動産のみ記載した遺産分割協議書作成ガイド:基本情報と注意点

遺産分割協議書とは?

遺産分割協議とは、亡くなった方(被相続人)の遺産について、相続人全員で「誰がどの財産を引き継ぐか」を話し合うことです。この話し合いの内容を文書にまとめたものが遺産分割協議書と呼ばれます。

たとえば、誰がどの土地・建物を相続するか、預貯金をどのように分配するかなどを協議し、合意した内容を記録します。

作成した遺産分割協議書は、次のような手続きで必要になります。

  • 不動産の名義変更(相続登記)
  • 預貯金の解約・払い戻し
  • 有価証券の名義変更

遺産分割協議書には実印で押印し、印鑑証明書とセットで使用するのが通常です。

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遺産分割協議書がないとどうなる?

遺産分割協議書がないケースとしては、主に次の2つが考えられます。

法定相続分どおりに相続する場合

分割協議を行わず、法律が定める割合(法定相続分)のとおりに全員が相続するケースです。この場合、相続人全員が全ての財産の手続きに当事者として関与する必要があります。

不動産の名義変更では相続人全員の申請が必要になり、預貯金や有価証券についても全員での手続きとなります。手続きの手間が大幅に増える点に注意が必要です。

協議がまとまらない場合

相続人間で意見が対立し、話し合いがまとまらないケースです。何もせず放置した場合や、家庭裁判所の遺産分割調停でも解決しない場合は、原則として法定相続のまま手続きが滞ることになります。

⚠ 放置するリスク

不動産の名義が亡くなった方のまま放置されると、将来的に売却やリフォームのための融資設定ができなくなります。さらに長期間の放置によって次の世代の相続(数次相続)が重なり、関係する相続人の数が増大するという深刻なリスクがあります。

不動産のみを記載するケースとは?

通常は、相続人全員で遺産全部(不動産、預貯金、有価証券等)について話し合い、その内容を1通の遺産分割協議書にまとめます。しかし、実際の相続手続きでは不動産のみを記載した協議書を作成するケースもあります。

ケース①:プライバシーの保護のため

遺産分割協議書は各種相続手続き(法務局・銀行・証券会社等)に提出しますが、全財産を記載した協議書をそのまま提出すると、手続き先に関係のない財産の内容まで知られてしまうことになります。

たとえば、法務局に相続登記を申請する際に全財産を記載した協議書を提出すると、預貯金の残高や株式の保有状況など本来無関係な金融資産の詳細も登記官の目に触れることになります。

こうした事態を避けるため、法務局向けには不動産のみを記載した遺産分割協議書(抜粋版)を別途作成し、それを提出して手続きすることが可能です。内容が全体の協議と異ならなければ、それぞれの協議書は有効で手続き上の問題はありません。

ケース②:不動産の手続きを急ぐ必要があるため

もう1つのケースとして、諸事情により不動産の相続手続きを他の財産より先行して進めたい場合があります。

  • 相続税の納税資金を確保するため
  • 事業のための融資に関係するため
  • 他の財産の調査や手続きに時間がかかるため
  • 相続登記の義務化による期限に対応するため

預貯金やその他の財産の分割協議がまとまるのを待っていると、相続登記の義務化による3年の期限を超過してしまうおそれもあります。合意が取れた不動産についてのみ先行して遺産分割協議書を作成し、速やかに名義変更を完了させることは、法的義務の履行とペナルティの回避の観点から有効な手段です。

⚠ ご注意ください

不動産は遺産の中でも高額な財産となることが多いため、先行して遺産分割協議を行う場合は慎重に進めましょう。

不動産のみを記載した遺産分割協議書は有効?

結論から言うと、不動産のみを記載した遺産分割協議書は法的に完全に有効です。管轄の法務局でも、登記手続きの添付書類として問題なく受理されます。

民法上、遺産分割協議は全財産を一度に分割しなければならないという制約はなく、特定の財産についてのみ先行して協議を成立させる「一部分割」の形式が認められているためです。

✔ ポイント

協議書は1通のみが原本とは限りません。各相続人がそれぞれ原本を保管したい場合は、同じ内容の協議書を相続人の人数分作成するのが一般的です。内容が異ならなければ、何通あっても問題ありません。

遺産分割協議書の正しい記載方法

法務局での相続登記を確実に進めるためには、遺産分割協議書に記載する不動産の情報を登記事項証明書(登記簿)の記載通りに正確に書き写すことが必須条件です。

日常生活で使う住所(住居表示)と、登記上の「地番」「家屋番号」は異なりますのでご注意ください。普段の住所を協議書に記載してしまうと、法務局で受理されません。

協議書に必要な基本的構成要素

遺産分割協議書には法律で決まったフォーマットはありませんが、登記手続きを行うために必要な標準的な構成要素があります。

構成要素記載内容
被相続人の特定氏名、生年月日、死亡日(相続開始日)、最後の本籍、最後の住所を公的書類のとおりに記載
分割内容の明確化「誰が」「どの不動産を」「どのように取得するか」を一義的に記載
清算条項記載のない財産や後日判明した財産の取り扱いを定める条項
作成年月日協議書の作成日
署名・捺印相続人全員の署名および実印での捺印

土地の記載に必要な項目

土地を記載する場合は、登記事項証明書から次の4項目を正確に書き写します。

項目説明
所在土地が存在する場所(登記上の表記)
地番登記上の番号(住居表示の番地とは異なります)
地目土地の用途(宅地、田、畑など)
地積面積(㎡単位)

建物(一戸建て)の記載に必要な項目

項目説明
所在建物が存在する場所
家屋番号登記上の建物の番号
種類居宅、共同住宅、店舗など
構造木造スレート葺2階建など
床面積各階ごとの面積

マンション(区分所有建物)の記載方法

マンションの登記記録は、建物の権利と土地を利用する権利(敷地権)が一体化された特殊な構造をしており、土地や一戸建てと比較して記載が格段に複雑になります。

登記事項証明書の表題部に従って、以下の3つの構成に分けて全ての情報を書き写す必要があります。

区分記載すべき項目
一棟の建物の表示マンション全体の「所在」、マンションの「名称」
専有部分の建物の表示個別部屋の「家屋番号」「名称」「種類」「構造」「床面積」
敷地権の表示土地の符号、「所在及び地番」「地目」「地積」、敷地権の「種類」「割合」
⚠ マンションの場合の注意点

上記の項目のうち1つでも記載漏れや誤記があると、対象不動産を特定できないとして登記手続きが進行しなくなるおそれがあります。必ず最新の登記事項証明書を取得し、照らし合わせながら作成しましょう。

また、被相続人がマンションを誰かと共有していた場合には、上記の項目に加えて「被相続人の持分」(例:持分2分の1)も明記する必要があります。

トラブルを防ぐ「清算条項」の重要性

不動産のみの協議書を作成する際、将来の親族間トラブルを防ぐために非常に重要なのが「清算条項」の記載です。

清算条項とは、協議書に記載されていない財産(後回しにした預貯金や株式など)や、後日新たに発見された財産について、「誰が取得するか」「どのように取り扱うか」をあらかじめ定めておく条項です。

この条項がなければ、新たな財産が判明するたびに相続人全員で再度話し合いを行い、実印を押し直すという手間が発生します。

清算条項の記載例

【パターン1】特定の代表者がすべて引き受ける場合
本協議書に記載のない被相続人の遺産、および後日新たに判明した遺産については、相続人○○(代表者の氏名)がすべてこれを取得する。
※ 手続きの迅速化・簡略化を優先する場合に適しています。少額の預貯金等が後から見つかった場合にも再度の協議が不要になります。
【パターン2】改めて全員で協議する場合
本協議書に記載のない被相続人の遺産、および後日新たに判明した遺産については、その分割方法について共同相続人全員で別途協議の上、決定するものとする。
※ 他の財産の全体像が不明な場合や、公平な分割を望む場合に適しています。

古い遺産分割協議書は使える?

基本的に遺産分割協議書に有効期限はありません

たとえば、何年も前に相続税申告の際に税理士に作成してもらった遺産分割協議書が残っているものの、不動産の名義変更は行っていなかった、というケースはよくあります。この場合、当時作成した協議書をそのまま利用することが可能です。

✔ 印鑑証明書の期限について

相続登記(不動産の名義変更)の場合、印鑑証明書にも期限がありませんので、当時の印鑑証明書が残っていれば改めて他の相続人の協力を得なくても手続きが可能です。

ただし、銀行預金などその他の手続きについては印鑑証明書に有効期限(発行後3ヶ月〜6ヶ月など)がある場合もございますので、遺産分割協議書は古いものが使えても、印鑑証明書だけは新しく取得し直す必要があるケースもあります。

遺産分割の放置がもたらす税務上の不利益

相続税の「未分割申告」で特例が使えなくなる

相続税の申告期限は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この期限までに遺産分割協議がまとまらない場合、法定相続分で仮の申告と納税を行うことになります(未分割申告)。

ここで最大の問題は、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」といった大幅な税負担の軽減をもたらす特例制度が一切適用できなくなる点です。

特に小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用・事業用の宅地について評価額を最大80%減額できるという相続税対策の要となる制度です。この特例の適用には、申告期限までに対象不動産の遺産分割が確定していることが必須条件となります。

申告期限後3年以内に分割が成立すれば「更正の請求」により後から特例適用・還付を受けることは可能ですが、それまでの間は多額の税金を立て替えて納付する負担が生じます。

したがって、預貯金の協議が長引く場合は、不動産のみの遺産分割協議書を活用して、少なくとも評価額の大きな宅地の分割を早期に確定させることが税務上も非常に重要です。

民法改正による「10年ルール」

2023年(令和5年)4月1日の民法改正により、遺産分割を長期間放置することに対する新たなルールが設けられました。

相続開始から10年を経過した後の遺産分割は、原則として特別受益(生前の多額の援助)や寄与分(療養看護等の貢献)を考慮せず、法定相続分を基準に処理されることとなります。

過去の貢献や不公平を主張したい場合は、10年以内に協議を着手するか、家庭裁判所へ遺産分割の請求を行う必要があります。遺産分割を放置することは、登記の義務化・税務・民法のいずれの観点からも不利益しか生みません。

遺産分割協議書は自分でも作成できる?

遺産分割協議書は法的な文書ですので、司法書士や弁護士が作成することが多いですが、相続人自身が作成することも可能です。

インターネットや書籍を参考にご自身で作成されるケースもありますが、インターネットに掲載されている雛形がどのケースにも使えるとは限りませんので、ご自身の状況に合った内容にすることが重要です。

⚠ ご注意ください

遺産分割協議書の内容に不備があると、再度作成し直すことになり、他の相続人から改めて押印をいただく必要があります。不動産などの重要な財産を記載することが多いため、間違いのないよう専門家への依頼をおすすめいたします。

自分で行うか専門家に依頼するかの判断基準

次のような条件が揃っている場合は、ご自身での手続きを検討する余地があります。

  • 法定相続人が配偶者と子のみなど関係がシンプルで争いがない
  • 相続人間で連絡が容易に取れる
  • 対象不動産が一戸建てのみなど権利関係が単純である
  • 平日に役所や法務局へ足を運ぶ時間がある

一方、以下のような要因がある場合は、司法書士への早期相談をおすすめします。

ケース内容
相続関係の複雑化数次相続、代襲相続、行方不明の相続人、認知症の方、未成年者が含まれる場合など。家庭裁判所での特別代理人選任等が必要になることがあります。
不動産の権利関係が複雑対象不動産が多数ある場合、マンション(区分所有建物)の場合、私道の共有持分がある場合など。
書類作成に不安がある登記簿と一致する正確な記載に自信がない場合や、清算条項の適切な設計をしたい場合。
義務化の期限が迫っている書類不備による法務局との往復を避け、過料を確実に回避したい場合。
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司法書士 板垣隼
この記事の作成者兼監修者
板垣 隼(いたがき はやと)
司法書士 / 行政書士 / 1級FP技能士
司法書士法人 不動産名義変更手続センター 代表
司法書士事務所開業から17年。「難しいことを、やさしく、早く、正確に」をモットーに、相続登記や不動産名義変更の手続きをサポート。KINZAI Financial Planやビジネスメディアへの寄稿実績多数。
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