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不動産の生前贈与は損?2024年改正(110万円控除・7年持ち戻し)を司法書士が実務目線で解説


《この記事の監修者》

司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら

最終更新日:2026年1月14日
 

2024年贈与税制改正の完全ガイド

「生前贈与=暦年贈与が基本」という常識が、2024年改正で大きく変わりました。

相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設される一方で、暦年贈与の持ち戻し期間が3年から7年へ段階的に延長されています。

本記事では、税理士のような細かい税額計算ではなく、不動産の名義(持分)を動かすと何が起きるかを中心に、司法書士の実務目線から一般の方向けに整理します。

2024年贈与税制改正の全体像

今回の改正は、大きく分けて2つの柱があります。

  1. 相続時精算課税の使い勝手向上:年110万円の基礎控除新設、災害時の特例創設
  2. 暦年贈与の実効性低下:持ち戻し期間が3年→7年へ段階的延長

この2つの改正により、「どちらの制度を選ぶべきか」「不動産の生前贈与は本当に得なのか」という判断が、以前より複雑になっています。

相続時精算課税:年110万円控除で何が変わったか

改正の要点(3つのポイント)

  1. 年110万円の基礎控除が新設(令和6年1月1日以後の贈与から)
  2. その基礎控除の範囲は、相続税の課税価格に加算しない
  3. 贈与した不動産が災害で大きく損傷した場合、一定要件で相続時の加算価額を減額(再計算)できる特例が創設

相続時精算課税とは?(基本のおさらい)

ざっくり言うと、「贈与の時は税負担を抑え、最終的に相続時にまとめて精算する」考え方の制度です。

  • 条件(年齢など)を満たすと選択できます(直系尊属→子や孫など)
  • 重要な注意:同じ贈与者について、選択後に暦年課税へ戻すことはできません

司法書士としての警告ポイント

「選択後に暦年課税へ戻せない」というのが、最大の"取り返しのつかないポイント"です。税理士と一緒に制度選択を設計することを強く推奨します。

新制度のメカニズム

「2,500万円」+「毎年110万円」を"併用"できる

相続時精算課税は、従来からの特別控除2,500万円に加えて、改正後は毎年110万円の基礎控除が適用されます。

110万円以下なら「贈与税の申告が不要」になるケース

令和6年中(以後)に、特定贈与者からの贈与合計が110万円以下なら、その年分の贈与税申告は不要、という整理が示されています。

ただし、初めて相続時精算課税を選ぶ年は「選択届出書」の提出が必要です(申告書が不要でも、届出書を単独提出する扱い)。

「申告しなくていい=何もしなくていい」ではありません。最初の年の届出が抜けると設計が崩れます。

災害リスクの特例:不動産にとって地味に大きい改正

相続時精算課税で贈与した土地・建物が、相続までに災害で大きな被害を受けた場合、一定要件で相続税の課税価格に加算する価額を減額できます(被災価額を控除)。

  • 「一定の被害」には、被災割合10%以上などの要件が示されています
  • 申請は原則、災害発生日から3年以内に承認申請を行う整理です

不動産は"物理的に価値が落ちるリスク"がある資産。ここが制度上ケアされたのは、心理的にも実務的にもプラス材料です。

参考:国税庁「相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した土地又は建物に係る災害損失の額がある場合の相続税の課税の特例について」

暦年贈与:「7年持ち戻し」の改悪

7年持ち戻し(加算)とは?

相続や遺贈などで財産を取得した人が、被相続人から一定期間内に受けた暦年贈与は、相続税の計算上「相続財産に加算(持ち戻し)」されます。

そして2024改正で、この「一定期間」が相続開始前7年以内へ段階的に延長されました。

いつから7年?(タイムラインが重要)

国税庁の整理では、相続開始日により加算対象期間が変わります。

~2026年12月31日の相続開始
相続開始前3年以内
2027年1月1日~2030年12月31日の相続開始
2024年1月1日から死亡日まで
2031年1月1日~の相続開始
相続開始前7年以内

「今すぐ7年全部が一律適用」というより、"相続開始日ベースで段階的に広がる"ので、年表での理解が必須です。

"110万円以下でも加算される"が実務上キツい

暦年贈与の持ち戻しは、贈与税がかかったかどうかに関係なく加算されます。

つまり、基礎控除110万円以下の贈与財産も加算されると明記されています。

これが不動産対策で痛い理由は、後述の「コスト倒れ」問題に直結します。

4年目~7年目は「総額100万円」控除の調整あり

相続開始日が一定時期以後の場合、相続開始前3年を超える部分(いわゆる延長された4年間)については、合計から総額100万円を控除して加算する取扱いがあります。

ただし"不動産の名義変更"は税以外のコストが大きいので、100万円控除があっても「やったのに得してない」ケースが現実に出ます。

不動産の持分贈与:実務上の注意点

なぜ「持分贈与」が検討されるのか

不動産を丸ごと一気に贈与すると、税以前に「登記・費用・実務」の壁が出ます。そこで現実的に検討されやすいのが、持分を小分けにして移す(持分贈与)です。

毎年110万円相当の持分を移す発想

例:贈与税評価(概算)3,000万円の不動産の場合

110万円 ÷ 3,000万円 = 約3.67%
→ 毎年「約3.67%」ずつ持分移転を進めるイメージ(概算)

※実際の評価は路線価等の税評価で動くので、割合確定は税理士と連携が安全です。

ただし「毎年登記」が発生する(=コストと手間)

持分贈与を"実体に合わせて"進めるなら、通常はその都度、持分移転登記をします。このとき、贈与による所有権移転は登録免許税が原則1,000分の20(2%)です。

相続(0.4%)に比べて贈与(2%)は登記コストが重い、というのが実務のリアルです。だからこそ「税の得」と「登記・取得税等のコスト」を必ず見比べます。

不動産贈与が「コスト倒れ」しやすい理由

相続直前に不動産贈与をすると、持ち戻しで相続税の計算上は"手元にあった前提"になりやすい一方、名義を動かしたことで—

  • 贈与による所有権移転登記:登録免許税 2%(1,000分の20)
  • さらに不動産取得税など、別コストが発生し得る
  • 共有化・ローン・将来売却の難易度が上がることも

結果:節税のつもりが"手続き費用だけ増えた"という、いわゆるコスト倒れが起こり得ます。

制度選択のポイント:相続時精算課税 vs 暦年贈与

項目相続時精算課税(改正後)暦年贈与(改正後)
年間の基礎控除110万円(新設)110万円(従来通り)
持ち戻し期間110万円超の部分は相続時に加算
(110万円以下は加算されない)
3年→7年へ段階的延長
(110万円以下も加算対象)
特別控除2,500万円(併用可能)なし
制度の撤回不可(一度選択すると戻せない)
災害時の特例あり(被災価額を控除可能)なし
初年度の手続き選択届出書の提出必須110万円超の場合のみ申告

代替案としての「相続時精算課税(110万円基礎控除)」が浮上する背景

暦年贈与の持ち戻しが広がる中で、相続時精算課税の年110万円基礎控除が「小分け移転」と相性が良くなりました。

  • 相続時精算課税にも基礎控除110万円が創設
  • その控除後残額を相続時に加算する整理
  • 110万円以下なら贈与税申告が不要となるケース(初年度の届出は要注意)

ここは税理士の出番(評価・税額シミュレーション)ですが、司法書士としては「登記を何回やるか/共有がどう増えるか」が設計の肝になります。

「孫への贈与」は抜け道?—"原則"と"例外"を誤解しない

原則:持ち戻しの対象者は「相続等で財産を取得した人」

持ち戻し(加算)は、相続・遺贈等で財産を取得した人が、被相続人から受けた暦年贈与について加算する仕組みです。

このため、典型的には「相続で何も受けない孫」は持ち戻しの網から外れる場面があります(※ただし設計次第)。

例外(実務で多い落とし穴)

  • 孫が代襲相続人になる
  • 孫が遺言で遺贈を受ける(="相続等で取得"に該当し得る)

「孫に贈与すれば安全」と短絡すると、遺言設計や相続人関係で前提が崩れます。ここは税理士・司法書士の同時設計が安全です。

手続きの流れ(一般の方向け:ここだけ押さえる)

税務(入口)

  • 初年度:相続時精算課税選択届出書(必要書類添付)
  • 110万円超なら贈与税申告が絡む可能性
  • 税額計算・評価の確定は税理士確認推奨

登記(司法書士の領域)

  • 贈与契約(贈与原因)
  • 固定資産評価証明/評価額資料
  • 印鑑証明書、本人確認資料
  • 住宅ローンが残る場合:金融機関同意や抵当権の扱い等、別途検討
  • 共有持分が増えるほど、将来の処分(売却・担保)が複雑化する点に注意

よくある質問(FAQ)

110万円以内なら"完全非課税"って本当?
制度上、基礎控除の範囲は贈与税申告が不要になるケースがあります。ただし初年度の届出など手続き要件があるため、設計段階で確認が必要です。相続時精算課税の場合、110万円以下でも相続時に加算されない点が暦年贈与と異なります。
相続時精算課税を選ぶと暦年に戻せない?
同一贈与者について戻せません。これが最大の注意点です。一度選択すると、その贈与者からの贈与は全て相続時精算課税の扱いになります。
持分贈与って毎年登記するの?
第三者対抗や権利関係の明確化の観点で、一般には都度登記を検討します(コストとバランス)。ただし、登録免許税が贈与の場合2%かかるため、相続(0.4%)と比較して慎重な判断が必要です。
7年持ち戻しはいつから適用される?
相続開始日によって段階的に適用されます。2026年までの相続は従来通り3年、2027年以降は徐々に延長され、2031年以降の相続から完全に7年間が適用されます。
孫への贈与なら持ち戻しされない?
原則として、相続等で財産を取得しない孫は持ち戻しの対象外です。ただし、孫が代襲相続人になる場合や、遺言で遺贈を受ける場合は持ち戻しの対象となります。安易な判断は危険です。
不動産贈与で「コスト倒れ」するケースは?
7年以内に相続が発生すると、贈与した不動産が持ち戻しで相続財産に加算される一方、登録免許税2%や不動産取得税などのコストは戻りません。結果として、節税効果がないのに手続き費用だけが残る「コスト倒れ」が発生します。

まとめ:司法書士からのアドバイス

2024年の贈与税制改正は、「税の選択肢」だけでなく、不動産の名義をどう安全に動かすか(持分設計・登記・ローン・将来売却)をセットで考える局面が増えました。

7年持ち戻しの本質は、「生前贈与の効果が薄れた」だけではなく、不動産の名義変更を伴う場合に"費用と手間が先に確定する"点です。やり方次第で、相続時精算課税(110万円控除)や別の組み立てが有利になることもありますが、制度選択には戻れないものもあります。

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板垣 隼(いたがき はやと)
司法書士 / 行政書士 / 1級FP技能士
司法書士法人 不動産名義変更手続センター 代表
司法書士事務所開業から17年。「難しいことを、やさしく、早く、正確に」をモットーに、相続登記や不動産名義変更の手続きをサポート。KINZAI Financial Planやビジネスメディアへの寄稿実績多数。
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