相続登記の訂正(更正登記)要点まとめ
● 完了後は「補正」では直せない:登記完了後に見つかった誤りは、更正登記など別の登記申請で訂正します(申請中に気づいた場合は補正で対応)。
● 更正登記の対象は「最初からの誤り」:氏名の誤字・番地違い・持分の書き間違いなどの錯誤・遺漏が対象。あとから変わった住所・氏名は「変更登記」です。
● 登録免許税は不動産1個につき1,000円:更正登記は定額です(登録免許税法 別表第一)。法務局(登記官)のミスによる職権更正なら費用はかかりません。
● 相続人の漏れは更正登記で直せる場合がある:名義人の一部が共通していれば(例:兄単独名義を兄弟共有に直す)、所有権更正登記で是正できることがあります。取得者が全員入れ替わる場合は、抹消登記や真正な登記名義の回復の検討が必要です。
● 住所等変更登記は2026年4月1日に義務化:変更から2年以内(施行日前の変更は2028年3月31日まで)の申請が必要です(正当な理由のない申請漏れは5万円以下の過料の対象)。
相続登記(不動産の名義変更)が終わって一安心…と思ったのに、登記事項証明書(登記簿)を見たら誤字がある/持分が違う/住所が古いまま。
相続の現場では、こうした「登記完了後の誤り発覚」は珍しくありません。
大事なポイントは次のとおりです。
・登記が完了した後は、原則として"補正(修正)"では直せません
・誤りの内容に応じて、更正登記/変更登記/抹消登記/真正な登記名義の回復など、手続きが分かれます
・法務局側のミスなら、基本的に職権で更正してもらえます
この記事では、相続の専門家である司法書士の視点で、「どの手続きで直すべきかの見分け方」と「更正登記の具体的手順」を、できるだけ噛み砕いて解説します。
"更正登記"で直せる誤りと、直せない誤りがある
更正登記は、ざっくり言うと「登記事項に"最初から"誤り(錯誤)や漏れ(遺漏)があったので、訂正する登記」です。
ただし、更正登記は万能ではありません。
"訂正"の範囲を超えて、権利関係が別物になる修正は、更正では処理できず、抹消や別原因の登記(真正名義回復など)になることがあります。
【超重要】あなたのケースはどれ?
登記完了後の「間違い」は、まず次の3つに分けて考えると失敗しません。
A. 単純な誤記・転記(誤字、番地違い、持分の書き間違い 等)
例:相続人の氏名の漢字が1文字違う
例:住所が「1-2-3」のところ「1-2-8」になっている
例:持分が「2分の1」のはずが「3分の1」になっている(原因は"書き間違い")
→ 更正登記で直す候補です。
なお、所有権の移転の登記の際に住所を誤って登記してしまった場合も、検索用情報の申出がされていれば、個人の方は法務局の職権による住所の登記(スマート変更登記)の対象になります(海外に住所がある間や、海外に住んでいたときに申出をした場合は対象外です)。ただし、個人のスマート変更登記は、令和8年12月中旬以降に法務局から届く意思確認通知に希望する旨を回答した後、法務省が決めたスケジュールに沿って行われます。令和8年4月1日以降に検索用情報の登録が完了した方は令和9年度以降の対象で、時期は選べません。売却などで急いで直したいときは、ご自身で更正登記を申請します。
B. "間違い"ではなく「あとから変わった」だけ(住所移転・氏名変更 等)
例:相続登記後に引越しした
例:結婚等で氏名が変わった
→ これは更正ではなく、住所・氏名の変更登記の領域です。
なお、住所等変更登記は2026年4月1日(令和8年4月1日)から義務化され、変更から2年以内の申請が求められます(施行日前の変更は2028年3月31日までに申請)
C. そもそも「権利の実態」が違う(相続人の漏れ/遺産分割が無効 等)
例:本当は相続人がもう1人いた(戸籍の見落とし)
例:遺産分割協議が成立していなかった(無効)
例:遺産分割のやり直しで、取得者そのものが変わった
→ 相続人の漏れのように名義人の一部が共通するケースは、所有権更正登記で直せる場合があります。一方、取得者そのものが入れ替わる場合や協議が無効な場合は、抹消・移転・真正名義回復など、別ルートの検討が必要です(実務上ここが一番揉めやすい)。
※ Cのように「権利の実態」と登記がズレているケース(抹消登記や真正な登記名義の回復が絡むケース)の詳しい訂正方法は、錯誤登記の訂正方法(抹消・更正・回復)の解説ページをご覧ください。
なお、有効に成立した遺産分割を相続人全員の合意でやり直して取得者を変更する場合は、錯誤ではなく新たな権利移転(贈与・交換など)として登記するのが原則で、贈与税などの課税が生じることがあります(税務は税理士にご相談ください)。
一方、法定相続分でいったん相続登記をした後に遺産分割協議がまとまった場合は、令和5年4月1日以降、遺産分割を原因とする所有権更正登記で名義を直すことができます(相続分が増える相続人からの単独申請が可能・登録免許税は不動産1個につき1,000円)。
職権更正とは?
不動産登記法では、登記官が登記に錯誤・遺漏を見つけた場合の扱いが定められており、登記官の過誤による錯誤・遺漏なら、許可を得て職権で更正する仕組みがあります。登記官のミスが原因であれば費用はかかりません。
- 法務局の転記ミス等 → まずは法務局に相談し、職権更正で足りるか確認
- 申請人(または代理人)の記載ミス → 原則、更正登記を申請して直す
申請中に間違いに気づいたら?|登記申請書の訂正方法(補正)
ここまでは「登記が完了した後」の直し方ですが、登記申請がまだ完了していない(法務局の審査中の)段階で間違いに気づいた場合は、更正登記ではなく「補正」で訂正します。
登記申請書の訂正の仕方(書面申請の基本)
- 誤った箇所に二重線を引き、申請書に押した印鑑と同じ印で訂正印を押して、正しい内容を記載します(修正液・修正テープは使えません)
- 登録免許税額・課税価格など金額に関わる重要部分を間違えた場合は、訂正ではなく書き直し(再作成)が無難です
- オンライン申請の場合は、法務局からの補正のお知らせに従い、補正情報をオンラインで送信して訂正します
- 法務局の審査で不備が見つかると、電話などで補正の連絡が入ります。案内された期限内に補正しないと、申請が却下されることがあります(不動産登記法第25条)
補正では直らない不備の場合、いったん取下げをして申請し直す方法もあります。補正・却下・取下げの具体的な流れと対処法は、相続登記が補正・却下になったときの対処法の解説ページで詳しく説明しています。
更正登記の手続き|流れを具体化
ステップ1:まず"何がどう違うか"を確定する
- 登記事項証明書(登記簿)を取り、誤り箇所にマーカー
- 申請時の控え(登記申請書、添付書類の写し)があれば照合
- 「書類は正しいのに登記だけ違う」のか「書類の時点で間違っている」のかを切り分けます(ここで手続きが分岐します)
ステップ2:更正でいけるか(="同一性"があるか)を判断
更正はあくまで「訂正」。
更正前後で"同じ権利の登記"と言える範囲に収まるかが勝負です。
- 誤字・誤植、持分の記載ミスなど → 更正でいけることが多い
- 取得者が変わる等 → 更正では難しくなることが多い(要個別判断)
ステップ3:更正登記の必要書類を揃える(代表例)
ケースにより差がありますが、基本の発想は「正しい内容を証明できる資料」です。
- 登記申請書(更正登記)
- 登記原因証明情報
(例:原因を「錯誤」「遺漏」として、何が誤りかを説明) - 証拠書面
- 氏名・住所の誤り:住民票、戸籍の附票、戸籍謄本など
- 持分の誤り:遺産分割協議書、法定相続分の根拠、計算過程の説明資料 等
- 利害関係人の承諾書(必要なとき)
例:抵当権者等、第三者の権利が登記上絡むケースは要注意 - 更正で不利益を受ける人の登記識別情報・印鑑証明書(必要なとき)
持分が減る人がいる所有権更正などは共同申請となり、その方の登記識別情報(権利証)と印鑑証明書(実印の押印)が必要になる場合があります。この協力が得られないと手続きが進まないケースもあるため、早めの調整が重要です。
ステップ4:法務局へ申請(オンライン/書面)
申請自体は通常の登記と同様に行います。
ただ、更正は"理由の説明力"が命です。
「なぜ錯誤なのか」「何を根拠に正しいと言えるのか」が弱いと、補正指示や取り下げリスクが上がります。
料金の目安(登録免許税)|更正は"定額"が基本だが例外も
相続登記(移転登記)の登録免許税は評価額×0.4%が基本ですが、更正登記の登録免許税は不動産1個につき1,000円の定額です(登録免許税法 別表第一)。なお、法務局(登記官)のミスによる職権更正の場合、登録免許税はかかりません。
ただし注意点があります。
- 「見た目は更正でも、実質的に名義が動く」ケース
- 当初の相続登記の税額計算や免税措置(数次相続の免税・評価額100万円以下の土地の免税など)の適用に誤りが判明したケース
などでは、更正登記の1,000円とは別に、当初登記の不足税額の納付などが問題になることがあります。
ここは個別性が強いので、申請前に必ず確認をおすすめします。
相続で"特に多い"訂正パターン5選
| 訂正パターン | ポイント |
|---|---|
| (1) 氏名の誤字 (旧字体・俗字含む) | 一見軽微でも、売却・担保設定の場面でストップしがち。早めに直すことをオススメ |
| (2) 住所の誤り (番地違い/住居表示の混同) | 「更正」なのか「変更」なのかを取り違えやすい。2026年4月から住所等変更登記は義務化されており、正当な理由なく放置すると5万円以下の過料の対象になり得ます |
| (3) 持分の誤り (相続人間の計算ミス/入力ミス) | "訂正"で済む場合と、"やり直し"になる場合がある。遺産分割協議書の内容と整合しているかが最重要 |
| (4) 登記原因日付の誤り (死亡日・原因日付の記載違い等) | 同一性が認められる範囲なら更正の対象になり得る。ただし実務判断が入りやすいので要注意(法務局照会推奨) |
| (5) 相続対象物件の誤り (地番・家屋番号等) | 遺産分割協議書は正しいのに、登記申請だけA土地とB土地の取得者を取り違えたような場合。錯誤を原因とする抹消や更正など、是正方法の個別検討が必要。協議書自体が意図と違う内容で成立している場合は、まず協議の有効性の確認から。 |
失敗しないためのチェックリスト(申請前にここだけ)
- 登記簿の誤りは「誤記」か「変更」か「権利実態の違い」かを仕分けした
- 正しい内容を裏付ける資料(戸籍・附票・協議書等)が揃っている
- 抵当権など第三者の権利が絡んでいないか確認した
- "早く直したい"ときほど、法務局への事前相談(または司法書士への相談)を済ませた
よくある質問(Q&A)
まとめ|迷ったら早めに専門家へ
名義変更後の訂正は、「更正登記」でスムーズに直ることも多い一方、相続人漏れ・協議の問題などが絡むと、手続きは一気に難しくなります。
「これ、更正でいける?」「抹消が必要?」の段階で判断を誤ると、時間も費用も増えがちです。
不安があれば、登記簿と手元資料をもとに、早めに司法書士へご相談ください。
