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代物弁済とは?民法改正で諾成契約に
登記・税務の注意点


《この記事の監修者》

司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら

最終更新日:2026年2月17日
 

代物弁済の諾成契約化|2020年民法改正による変更点と不動産登記実務への影響

代物弁済とは? ― 制度の基本と身近な活用場面

代物弁済(だいぶつべんさい)とは、本来の給付(お金の支払いなど)に代えて、別の物を引き渡すことにより債務を消滅させる制度です。

たとえば、AさんがBさんにお金を貸している場合、Bさんは本来であれば現金を返さなければなりません。しかし、AさんとBさんの間で「お金を返す代わりに、Bさんが所有する絵画を渡す」という合意が成立し、実際にBさんがAさんに絵画を引き渡せば、お金を返済したのと同じ効力が生じ、借金そのものが消滅します。これが代物弁済の基本的な仕組みです。

不動産の取引場面では、金銭の支払いが困難となった債務者が、所有する土地や建物を債権者に引き渡すことで債務を解消するケースが稀に見られます。

代物弁済が活用される場面の例
金銭債務の支払いが行き詰まった際に、強制執行(差し押さえ・競売)を回避する手段として、当事者間の合意により不動産で弁済するケースが実務上見られます。債務者にとっては競売による大幅な価格低下を避けられ、債権者にとっても時間とコストのかかる法的手続きを経ずに確実な資産回収が図れるという双方にメリットのある方法です。

2020年4月1日施行の民法改正 ― 代物弁済の「諾成契約化」

旧民法では「要物契約」という解釈が有力だった

2020年の改正前、旧民法482条は次のように規定していました。

旧民法 第482条「債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」

「…給付をしたときは、弁済と同一の効力を有する」という表現が用いられていたため、代物弁済は当事者の合意だけでは成立せず、実際に物の引渡しなどの給付があって初めて成立する「要物契約」であるという解釈が有力に主張されていました。

実務での取扱いと判例との矛盾

しかし、実務上は「要物契約」という解釈と矛盾する運用が広く行われていました。

たとえば、代物弁済の予約停止条件付きの代物弁済といった担保目的での利用がその典型です。「借りたお金を期日までに返せなかったら、代わりに所有する不動産を渡す」といった約束は、まだ代物の給付がされていない段階で契約の効力を認めることを前提としています。これは要物契約の考え方とは相容れないものでした。

さらに、昭和57年6月4日の最高裁判例(集民136号39頁)では、不動産を目的とする代物弁済契約について、当事者の意思表示がなされた時点で所有権移転の効果が生じる旨が示されています。この判断は、実際に不動産の引渡しや登記がなされていなくても所有権が移転することを認めたものであり、代物の給付がなければ効力が生じないとする要物契約の枠組みでは説明がつかないものでした。

改正民法で「諾成契約」であることが明確に

こうした実務の実態や判例の蓄積を踏まえ、2020年(令和2年)4月1日に施行された改正民法では、代物弁済が諾成契約(当事者の合意のみで成立する契約)であることが条文上、明確にされました。

改正民法 第482条「弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」

ここで注目すべきは「…契約をした場合において、…」という部分です。この表現により、代物を実際に給付する前でも代物弁済契約は有効に成立することが認められており、要物契約ではなく諾成契約であることが法律の文言上、はっきりと示されたのです。

改正前後の比較

比較項目旧民法(改正前)改正民法(2020年4月1日〜)
契約の性質要物契約とする解釈が有力
(合意+給付で成立)
諾成契約であることが明文化
(合意のみで成立)
条文の表現「…他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」「…契約をした場合において、…その弁済者が当該他の給付をしたときは…弁済と同一の効力を有する。」
契約の成立時期代物の給付時とする見解が有力当事者の合意時
判例との整合性昭和57年判例との矛盾が指摘判例の立場と整合

本来の債務が消滅するタイミング ― 契約成立と消滅時期は異なる

改正民法によって代物弁済契約が合意の時点で有効に成立するようになりましたが、契約が成立した時点で本来の債務がただちに消滅するわけではありません

改正民法482条は「…その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」と定めており、代物の給付をした時点で初めて、本来の債務の消滅という効果が発生します。

身近な活用事例 ― 建物リフォームによる所有権の一部移転

代物弁済は借金返済の場面だけでなく、日常生活の身近な場面でも活用される制度です。代表的な例として、建物のリフォームに伴う所有権の一部移転があります。

事例:親の建物を子がリフォームしたケース

子が自分の費用で、親が所有する建物のリフォーム工事を行ったとします。リフォームにより建物の価値が上がりますが、建物の所有者は親のままです。つまり、子の出費によって親が利益を得ている状態になります。

この場合、子は親に対して、価値の増加分に相当する金額を請求する権利(償金請求権:民法248条)を取得します。

そこで、親が子に対する償金の支払い(本来の債務)に代えて、償金に相当する価額の建物所有権の一部を子に移転するという代物弁済契約を締結する方法が考えられます。

親から子への建物の所有権一部移転の登記が完了した時点で、親の償金支払債務は消滅します。

実務上のポイント
このような親子間の代物弁済では、リフォーム費用の額と移転する持分割合の関係が曖昧だと、税務上「贈与」とみなされるリスクがあります。工事の請負契約書・領収書・不動産鑑定評価書などの客観的な資料を整備し、対価の適正さを証明できるように準備しておくことが重要です。

不動産を対象とする代物弁済 ― 登記手続きの実務と必要書類

不動産を目的物とする代物弁済では、登記(所有権移転登記)を早期に備えることが実務上きわめて重要です。登記がないと第三者(差押債権者・二重譲受人など)に対抗できず、代物弁済の安全性が大きく損なわれます。

代物弁済による所有権移転登記の必要書類

書類の種類提出する側内容・留意点
登記原因証明情報双方代物弁済契約書や、その内容を要約した書面。元の債権債務の内容、合意日、対象不動産の表示、代物弁済により債務を消滅させる旨を明記
登記識別情報
(または登記済証)
債務者(現名義人)不動産を手放す側が正当な権利者であることを証明する書面
印鑑証明書債務者(現名義人)発行から3ヶ月以内のもの。実印を申請書・委任状に押印
住民票債権者(新名義人)新たな所有者の住所・氏名を登記に反映させるための書面
固定資産評価証明書いずれか登録免許税の算定根拠となる書面。最新年度のもの

前提登記として「住所・氏名変更登記」が必要になるケース

登記簿上に記録されている債務者の住所や氏名が、引越しや婚姻などにより現在と異なっている場合、そのままでは所有権移転登記を申請することができません。不動産登記法の連続性の原則により、まず「所有権登記名義人の住所(氏名)変更登記」を先に完了させる必要があります。

住所の変遷が複数回に及ぶ場合は、登記簿上の旧住所から現在の住所に至るまでの変遷を、戸籍の附票や住民票の除票などの公的書類で途切れなく証明しなければなりません。この書類収集に時間がかかることが、手続き全体を遅らせる原因となりがちです。

代物弁済に伴う税務上のリスク ― 思わぬ課税に注意

代物弁済は当事者の感覚としては「借金を清算する」行為に過ぎませんが、税法上は「資産の譲渡」として扱われるため、当事者双方に思わぬ課税が発生するリスクがあります。

債務者側 ― 「みなし譲渡」による譲渡所得税

不動産を提供した債務者は、手元にお金が入るどころか大切な財産を失っている状態です。しかし税務上は、「本来支払うべき債務を免れた」という経済的利益を得たとみなされます。これは、不動産を市場で売却し、得た現金で返済したことと同じ扱いになるのです。

したがって、代物弁済時の不動産の時価(消滅する債務額)が、過去の取得費を上回っている場合、その差額に対して譲渡所得税が課税されます。

所得の種類所有期間の条件(譲渡した年の1月1日時点)所得税率住民税率合計税率
短期譲渡所得所有期間が5年以下30.63%9%39.63%
長期譲渡所得所有期間が5年超15.315%5%20.315%

※所得税率には復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が含まれています。

計算例

親が3,000万円で購入した土地(長期保有)を相続し、自身の5,000万円の借金の代物弁済として債権者に提供した場合:

 譲渡所得 = 5,000万円(時価)- 3,000万円(取得費)= 2,000万円

 税額 = 2,000万円 × 約20% = 約400万円

財産を失って借金を返済したばかりの債務者に、さらに約400万円もの納税義務が生じます。取得費が不明で概算取得費(売買代金の5%)が適用される場合は、譲渡益がさらに大きくなるため、一層の注意が必要です。

非課税となる場合(救済措置)

もっとも、資力を喪失して債務弁済が著しく困難な状況で、滞納処分・強制執行・競売・破産手続等の強制換価手続きにより資産が譲渡された場合など、一定の要件を満たすと譲渡所得が課税されない取扱いがあります。

任意の譲渡であっても、強制換価の回避が困難と認められ、譲渡代金の全部が債務弁済に充てられた場合等には非課税となり得ます。

いずれの場合も、資力喪失の状態や資金使途を客観的な証拠で裏付けることが不可欠ですので、関係書類はきちんと保全しておくことが重要です。

債権者側 ― 不動産取得税と贈与税のリスク

代物弁済により不動産を取得した債権者側にも、以下の税負担が生じます。

不動産取得税

不動産を新たに取得した場合、原因が代物弁済であっても通常の売買と同様に不動産取得税(都道府県税)が課税されます。取得後、数ヶ月してから納税通知書が届くため、事前に資金計画に含めておく必要があります。

差額未清算による贈与税リスク

特に深刻なのが、対象不動産の時価と消滅する債務額に大きな差がある場合の課税リスクです。

たとえば、債務残高3,000万円に対し、時価5,000万円の不動産を受け取った場合、本来は差額2,000万円を「清算金」として債務者に返還すべきです。この清算を行わずに放置すると、2,000万円が債務者から債権者への無償の利益供与とみなされ、贈与税(最高税率55%)の課税対象となる恐れがあります。

「どんぶり勘定」は危険
「面倒だから差額の精算はなしにしよう」という安易な合意は、多額の贈与税を発生させかねません。対象不動産の適正な時価評価と、差額が生じた場合の清算プロセスを契約書に明記しておくことが不可欠です。

まとめ ― 代物弁済を安全に進めるために

2020年の民法改正により、代物弁済が諾成契約であることが明確化されたことで、契約段階での法的安定性は大きく向上しました。しかし、不動産を対象とする代物弁済には、登記手続き、法改正への対応、税務リスクの管理という複数の課題が同時に絡み合います。

対応すべき課題具体的なリスク
登記手続き登記の遅延による二重譲渡・差押えのリスク、前提登記の漏れ
法改正対応住所変更登記の義務化(2026年〜)に伴う過料、相続登記未了による手続き不能
税務リスクみなし譲渡による譲渡所得税、差額未清算による贈与税、不動産取得税

当事者同士の口頭合意やインターネット上のひな形を使った自己流の対応では、後日、税務調査による追徴課税や他の債権者からの詐害行為取消権の行使といった深刻な問題に発展しかねません。

代物弁済の検討段階から、登記手続きの安全性を担保する司法書士、そして税務リスクを事前にシミュレーションする税理士による専門家のサポート体制を整えることが、トラブルを未然に防ぐための最善の選択です。

司法書士 板垣隼
この記事の作成者兼監修者
板垣 隼(いたがき はやと)
司法書士 / 行政書士 / 1級FP技能士
司法書士法人 不動産名義変更手続センター 代表
司法書士事務所開業から17年。「難しいことを、やさしく、早く、正確に」をモットーに、相続登記や不動産名義変更の手続きをサポート。KINZAI Financial Planやビジネスメディアへの寄稿実績多数。
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