農地(田・畑)の名義変更 | 要点まとめ
● 原則は農地法の許可が必要:農地を農地のまま売買・贈与するには農地法3条の許可、転用目的なら5条許可(市街化区域は届出)が必要です。許可・届出がないと登記できません。
● 相続は許可不要:相続・遺産分割・包括遺贈・相続人への特定遺贈は許可不要。ただし農業委員会への届出(農地法3条の3/取得を知った日から10か月以内)と相続登記が必要です(相続人以外への遺贈は3条許可が必要)。
● 親子間でも許可は同じ:親子間の贈与・売買でも農地法の許可は省略できません。贈与は贈与税にも注意。
● 登録免許税:相続=評価額×0.4%、贈与・売買=原則2.0%(土地の売買は令和11年3月31日まで軽減1.5%)。
● 必要書類はケースで変わる:相続・売買贈与・転用で集める書類が異なります(本文に一覧)。
● 2024年4月から相続登記は義務:取得を知った日から3年以内。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となることがあります。
● 当センターの担当範囲:法務局への登記申請(司法書士業務)。農地法の許可申請は行政書士の業務範囲です(相続による農業委員会への届出〈農地法第3条の3〉は当センターで対応しています)。
農地の名義変更には原則として農地法の許可が必要です
田や畑といった農地は、日本の食料生産を守るための「農地法」によって厳格に管理されています。一般的な宅地や雑種地とは異なり、農地を売買・贈与で移転する際には、原則として農業委員会や都道府県知事の許可を得なければ名義変更(所有権移転登記)ができません。
農地法の許可とは?3条・4条・5条の違い
農地の名義変更や転用には、その内容に応じて異なる許可が必要です。主な許可は次の3種類です。
市街化区域か市街化調整区域かによって、申請手続きや審査基準も大きく異なります。
市街化区域内の農地は届出で済む場合があります
農地が市街化区域(すでに市街地を形成している区域、または概ね10年以内に優先的に市街化を図る区域)内にある場合は、手続きが簡略化されることがあります。
- 4条・5条の転用:その農地が市街化区域内にあれば、許可ではなく農業委員会への「届出」で足ります(農地法4条・5条)。市街化区域かどうかは都市計画上の区域区分で決まります。締切日・様式など窓口対応は自治体ごとに異なるため、事前確認をおすすめします。
- 3条(農地のまま売買等):市街化区域内であっても農業委員会の許可が必要です。
相続による農地の名義変更は許可不要ですが届出が必要です
相続・遺産分割・包括遺贈・相続人への特定遺贈によって農地を取得した場合は、農地法3条の許可は不要です。ただし、以下の手続きが別途必要になります。農地に特化した相続の論点は、農地の相続登記についてのページもあわせてご覧ください。
農業委員会への届出(農地法3条の3)
相続等により農地の権利を取得したときは、その農地がある市区町村の農業委員会へ届出をしなければなりません。届出期限は、権利を取得したことを知った日から10か月以内と定められています(農地法3条の3)。届出を怠ると10万円以下の過料の対象となることがありますので、早めの対応をお勧めします。
詳しい届出方法は、農林水産省のホームページもご参照ください。
相続登記の義務化(2024年4月〜)
相続登記の義務化について詳しくは、2024年相続登記が義務化|期限3年・過料10万円のポイントと対応策をご覧ください。相続登記の基本は相続登記について詳しく見るをご参照ください。
相続後に農地を売却・転用する場合
相続で農地を取得した後、さらにその農地を売却したり宅地等に転用したりする場合には、別途、農地法3条・4条・5条の許可(または届出)が必要です。相続による取得自体は許可不要でも、その後の処分には通常の農地法規制が適用されますのでご注意ください。
親子間・贈与による農地の名義変更
「親の農地を子へ」「親族間で田畑を譲る」といった親子間・親族間の名義変更でも、相続でない限り農地法の許可は省略できません。生前に贈与する場合は農地法3条の許可(転用を伴うなら5条)を取得したうえで、贈与を原因とする所有権移転登記を行います。
① 許可は親子間でも必要:身内だからといって許可なしに名義を移すことはできません。
② 贈与税の負担:贈与は登録免許税(評価額×2.0%)に加え、受け取った側に贈与税がかかる場合があります。相続時精算課税制度や、農業を継ぐ場合の納税猶予制度など、税の取扱いは複雑です。具体的な税額は税理士にご確認ください。
③ 相続との比較:将来の相続を待つ方が登録免許税は安く(0.4%)、許可も不要です。生前贈与が有利かどうかは慎重な検討が必要です。
生前贈与全般の進め方・税金の考え方は、生前贈与による不動産名義変更のページで詳しく解説しています。
農地の売買・無償譲渡による名義変更
農地を第三者に売買したり、無償で譲り渡したりする場合の名義変更です。いずれも農地法3条(農地のまま)または5条(転用目的)の許可が前提になります。
農地を買える人には要件があります
農地法3条で農地を「農地のまま」取得できるのは、原則として自ら農業を行う個人や農地所有適格法人などに限られます。買い手が農業に従事する見込みがない場合は許可が下りず、名義変更もできません。「畑を買いたい」「田んぼを売りたい」という取引では、まず買い手が要件を満たすかの確認が出発点になります。
なお、かつて取得のハードルだった下限面積要件(取得後の経営面積が原則50アール以上など)は、2023年(令和5年)4月1日の農地法改正で撤廃されました。そのため現在は、農家でない一般の方でも、自ら耕作する意欲と具体的な営農計画があれば取得が認められやすくなっています。
無償で譲り渡す(無償譲渡)場合
代金を取らずに農地を譲り渡す「無償譲渡」も、法律上は贈与として扱われます。したがって農地法の許可は必要で、登録免許税は評価額×2.0%、譲り受けた側に贈与税が生じる可能性があります。「無償だから簡単」ではない点にご注意ください。
農地の名義変更にかかる登録免許税
法務局で名義変更登記を行う際には、登録免許税という税金がかかります。農地の場合も、登記原因に応じて以下の税率が適用されます。
基本の税率
司法書士報酬や登録免許税を含めた費用の具体例は、不動産名義変更の費用のページもご参照ください。
農業者向けの特例措置(10/1000への軽減)
以下の要件を満たす場合、登録免許税が10/1000(1.0%)に軽減される特例があります。対象は農用地区域内の土地に限られ、令和10年3月31日までに取得した場合に適用されます。なお、適用は促進計画の公告日から1年以内に行う移転登記に限られます。
- 意欲ある農業者が、農地中間管理事業の推進に関する法律に基づく農用地利用集積等促進計画により農地を取得した場合
- 農地中間管理機構が、農地売買等事業により農地を取得した場合
農地の名義変更に必要な書類【ケース別】
必要書類は「どんな原因で名義を移すか」で大きく変わります。代表的な3ケースの主な書類は次のとおりです(自治体・法務局によって追加を求められる場合があります)。
「農地 所有権移転登記 必要書類」で迷われた方は、まずご自身のケース(相続か、売買・贈与か、転用か)を確認すると、集めるべき書類が整理しやすくなります。
農地の名義変更手続きの流れ
ケースA:売買・贈与など(農地を農地のまま移転する場合)
農地を農地のまま他人や親族に売買・贈与する場合は、農地法3条の許可が必要です。
- 農業委員会へ事前相談:譲受人の農業要件、耕作計画、周辺農地への影響などを確認します。
- 3条許可申請:農地法許可を停止条件とする契約書(案)・譲受人の経営計画書・理由書等を添付して申請します。農業委員会の受付締切日や審査総会は「月1回」と決まっている自治体がほとんどで、締切を1日でも過ぎると手続きが丸ごと1か月遅れます。事前のスケジュール確認が不可欠です。
- 許可書の交付:農業委員会から許可書が交付され、契約の効力が確定します。
- 代金決済:許可を得たうえで、代金の授受を行います。
- 法務局へ所有権移転登記申請:許可書、契約書、印鑑証明書、固定資産評価証明書などを添付して登記申請を行います。
ケースB:農地を転用する場合(4条・5条)
- 4条(自分のまま転用):農地を宅地・駐車場等に転用する場合で、所有者は変わりません。
- 5条(転用目的で他人に売る・貸す):農地を転用する目的で売買・贈与・賃貸借する場合です。
いずれも市街化区域内であれば届出で済む場合がありますが、市街化調整区域内では都道府県知事等の許可が必要です。転用の計画が不確実な場合や、周辺農地への悪影響が懸念される場合には、許可が下りないこともあります。
ケースC:相続で農地を取得した場合
- 相続人の確定(戸籍収集):被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本などを取得します。農地は名義が祖父母世代のまま放置されている例が多く、調べると相続人が10人以上に膨らむ数次相続に発展することも珍しくありません。戸籍が各地に散っていて収集に数か月かかることもあるため、期限のある手続きだけに早めの着手が肝心です。
- 遺言書または遺産分割協議書の作成:遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、協議書を作成します。
- 農業委員会へ届出(3条の3):取得を知った日から10か月以内に、農業委員会へ届出をします。
- 法務局へ相続登記申請:戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書、固定資産評価証明書などを添付して登記申請を行います。
③と④は順番が前後しても問題ありません。④(相続登記)を先行することも多いですが、届出と相続登記では期限・趣旨が異なります。相続登記の詳しい手続きは相続登記について詳しく見るをご参照ください。
農地の名義変更でよくある注意点
「登記地目」と「現況」の違い
農地法上、農地に該当するかどうかは登記簿の地目ではなく土地の現況で判断します。ただし登記実務では、登記地目が「田」「畑」のまま売買・贈与の登記をする場合、法務局で農地法関係書類(許可書・届出受理通知書など)の確認を求められるのが通常です。すでに現況が農地でない場合は、農業委員会で非農地証明等の可否を確認し、必要に応じて地目変更登記(土地家屋調査士の業務)を先に検討します。
自治体ごとに審査基準や締切日が異なる
農地法の許可申請は各市区町村の農業委員会が窓口ですが、審査スケジュール(毎月の締切日や総会日程)、必要書類、添付資料の様式は自治体ごとに異なります。必ず事前に農業委員会へ相談し、最新の手続き案内を確認することをお勧めします。
許可が下りない場合もある
以下のような場合、許可が下りないことがあります。
- 譲受人が農業に従事する見込みがない(3条)
- 周辺農地の利用に支障をきたす恐れがある
- 転用計画が不確実、または転用の必要性が認められない(4条・5条)
- 農用地区域内の農地で転用制限が厳しい
不許可が出てから契約をやり直すと、手付金の返還や税金の精算でこじれます。農業委員会への事前相談で「この譲受人・この計画なら許可が下りそうか」の感触をつかんでから契約に進むのが安全です。
自分で手続きするのが難しいケース・専門家への依頼
農地の名義変更は、農地法の許可・届出と法務局での登記申請という2段階の専門知識が必要です。ご自身で進めることも可能ですが、次のようなケースでは専門家への依頼をご検討ください。
- 農地法3条・5条の許可が必要で、農業委員会とのやり取りに不安がある
- 相続人が多い・遠方に住んでいるなど、戸籍収集や遺産分割協議が複雑
- 登記地目と現況が異なり、農地に該当するかの判断が難しい
- 平日に法務局・役所へ行く時間が取れない
・農地法の許可申請:行政書士の業務範囲です(相続による農業委員会への届出〈農地法第3条の3〉は当センターで対応しています)。
・法務局への所有権移転登記・相続登記:司法書士の業務範囲です(当センターが対応します)。
・地目変更登記・測量:土地家屋調査士の業務範囲です。
当センターは全国対応・年間2,000件を超える相談実績のもと、農地の相続登記・所有権移転登記など法務局への登記申請を担当します。農地法の許可・届出申請や地目変更登記が必要な場合は、手続きの切り分けを行ったうえで、各専門家に確認すべき事項を整理してご案内します。「何から手をつければいいか分からない」という段階でも、明確でシンプルな料金体系でご案内しますので、まずはお気軽にご相談ください。
