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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
最終更新日:2026年2月25日
遺贈(いぞう)とは、遺言書によって、遺言者が指定した相手に財産を無償で譲り渡すことです。遺贈が成立するためには、法的な効力を持つ遺言書が必須となります。
遺贈によって財産を受け取る人を「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。遺贈の法的根拠は、遺言者の意思を記した有効な遺言書にあります(民法第964条)。法的性質としては遺言者の「一方的な意思表示」によって効力を生じる単独行為であり、遺言書を作成する段階で受遺者の承諾や同意を得ておく必要はありません。遺言者の死亡と同時に自動的に法的な効力が発生します。
遺贈の最大の特徴は、財産を受け取る人(受遺者)の範囲を遺言者が自由に決定できる点です。受遺者になれる人に制限はなく、以下のように幅広い相手を指定できます。
この自由度の高さが、遺言者の意思を実現するための強力な手段となっています。
遺贈と相続は、財産承継の形態として似ていますが、法的根拠、受取人の範囲、税務上の取り扱いに決定的な違いがあります。
「相続」とは、亡くなった方の財産が民法で定められた法定相続人に受け継がれることです。遺言書がない場合は法定相続人全員が参加する「遺産分割協議」によって財産の分配方法を決定します。遺言書で財産の分配方法を指定することも可能です。
遺贈は法定相続人以外にも無償で譲り渡すことが可能であるのに対し、相続の場合は法定相続人のみが対象である点が大きな違いです。また、相続は遺言書がなくても発生しますが、遺贈は遺言書があって初めて生じるものです。
遺贈によって財産を取得した場合、贈与税ではなく「相続税」の課税対象として計算されます。これは遺贈が被相続人の死亡に起因する財産移転であるという性質に基づきます。ただし、以下の点で相続と大きく異なります。
基礎控除への影響:相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されますが、受遺者が法定相続人でない場合は「法定相続人の数」にカウントされません。遺贈を受けた人が何人いても、基礎控除額は増えません。同様に、生命保険金や死亡退職金の非課税枠「500万円×法定相続人の数」も利用できません。
2割加算の適用:被相続人の配偶者および一親等の血族(子や親。代襲相続人となった孫を含む)以外の者が財産を取得した場合、算出された相続税額に20%が加算されます。これは相続人か否かを問わず適用されるため、法定相続人であっても兄弟姉妹や甥姪は加算の対象となります。
| 比較項目 | 遺贈 | 相続 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 遺言書(単独行為) | 民法の規定 |
| 受取人 | 誰でも指定可能(法人・団体含む) | 民法上の法定相続人に限る |
| 遺言書の要否 | 必須 | 必須ではない |
| 負債の承継 | 包括遺贈は承継あり、特定遺贈は原則なし | 原則承継あり |
| 相続税基礎控除 | 法定相続人以外は人数に含まれない | 法定相続人の人数で増額 |
| 相続税2割加算 | 受遺者が配偶者・一親等血族(代襲孫含む)以外なら対象 | 相続人でも兄弟姉妹等は対象(配偶者・一親等血族は原則対象外) |
遺贈と死因贈与は、いずれも「死亡によって効力が発生する財産譲渡」という点で似ていますが、法的性質が根本的に異なります。
遺贈が遺言者の一方的な意思表示(単独行為)であるのに対し、死因贈与は贈与者と受贈者の間で締結される「契約」です。死因贈与は生前に「私が死んだらこの不動産をあなたに譲る」「分かりました」という双方の明確な合意が必要となります。
そのため、死因贈与は遺言書のような厳格な方式を必ずしも必要としませんが、不動産の実務においては、確実な名義変更のために公正証書で契約書を作成し、生前に「始期付所有権移転仮登記」という保全措置を講じることなども考えられます。
生前贈与は、財産の所有者が生きている間に他者へ財産を無償で譲渡する契約です。遺贈が死亡を契機として効力が発生するのに対し、生前贈与は生前の任意のタイミングで財産権が移転し、直ちに名義変更が可能です。
不動産を生前贈与する場合、受贈者には「贈与税」が課されます。贈与税は相続税と比較して基礎控除額が低く(年間110万円)、税率も高いため、多額の税負担が発生しがちです。さらに登録免許税の税率も2.0%、不動産取得税も課税されます。遺贈の場合は「相続税」の枠組みで処理されるため、基礎控除額が大きく、全体的な税負担が軽減されるケースが多いです。
遺贈は、財産の指定方法により「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類に分類されます。この分類は、受遺者が負債を承継するか否か、遺産分割協議への参加義務の有無に直結し、実務上の複雑さを大きく左右します。
「東京都〇〇区の土地をBに遺贈する」「〇〇銀行の預金100万円をAに遺贈する」のように、特定の財産を具体的に指定して遺贈する方法です。
「全財産の3分の1をCに遺贈する」「遺産の50%をDに遺贈する」のように、特定の財産を指定せず、遺産の全部または一定の割合を指定して遺贈する方法です。包括受遺者は民法上、法定相続人と同一の権利義務を有するとされています。
| 比較項目 | 特定遺贈 | 包括遺贈 |
|---|---|---|
| 財産の指定方法 | 個別財産(例:自宅不動産) | 遺産全体の割合(例:1/2) |
| 債務(負債)の承継 | 原則として承継しない | 割合に応じて承継する |
| 遺産分割協議 | 参加権なし | 参加権あり(相続人と同等) |
| 放棄の手続き | 遺言執行者等への意思表示で完了 (期間制限なし) | 家庭裁判所への申述 (3ヶ月以内) |
| 不動産取得税 (相続人以外の場合) | 課税される | 課税されない |
特定の資産を特定の相手に確実に渡したい場合、または受遺者に負債や遺産分割協議の負担を負わせたくない場合は、特定遺贈が圧倒的に適しています。特に法人や団体が受遺者となる場合は、負債承継のリスクや煩雑な遺産分割協議への参加を避けるため、ほぼ例外なく特定遺贈を選択すべきです。
一方、包括遺贈は遺産全体の分配を受遺者や相続人の話し合いに委ねたい場合に選択されますが、負債状況が不透明な場合や法定相続人以外に対して用いる場合は、受遺者に予期せぬ経済的負担を与える可能性が高くなります。
遺贈は遺言者の一方的な意思表示で行われるため、受遺者の意思に反して財産を押し付けることは法律上認められていません。受遺者は自身の判断で遺贈を放棄することが可能です。ただし、放棄の手続きと期限は包括遺贈と特定遺贈で大きく異なります。
包括受遺者は法定相続人と同一の権利義務を持つため、放棄手続きも「相続放棄」と同様の厳格なルールに従う必要があります。
自分が遺贈を受けたことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「遺贈放棄の申述」を行わなければなりません。この期限は非常に厳格で、期間内に手続きを完了させなかった場合、マイナス財産を含めてすべての遺贈を「単純承認」したものとみなされる危険性があります。
特定受遺者は、遺言者の死亡後であればいつでも遺贈を放棄することが可能です。期間の制限はなく、家庭裁判所での手続きも不要です。遺言執行者(指定されている場合)または法定相続人全員に対して放棄の意思表示を行うだけで法的な効力を持ちます。
不動産の遺贈を受けた場合、名義変更の登記手続きだけでなく、発生する税務上の負担を正確に把握しておくことが不可欠です。特に、受遺者が法定相続人であるか否かによって、適用される税金の種類や税率が大きく変わる構造となっています。
法務局で不動産の名義変更を行う際、国税である「登録免許税」を納付する必要があります。受遺者の属性によって適用される税率が大きく異なります。
| 受遺者の属性 | 登録免許税の税率 | 評価額1,000万円の場合 | 評価額3,000万円の場合 |
|---|---|---|---|
| 法定相続人への遺贈 | 固定資産税評価額 × 0.4% | 4万円 | 12万円 |
| 相続人以外への遺贈 | 固定資産税評価額 × 2.0% | 20万円 | 60万円 |
評価額が数千万円に上る不動産の場合、登録免許税だけで数十万円単位の差が生じます。受遺者は登記申請前に十分な現金を確保しておく必要があります。
通常の相続の場合、不動産取得税は課税されませんが、遺贈の場合は条件によって課税される場合があります。
| 遺贈の種類と受遺者 | 不動産取得税 |
|---|---|
| 相続人への特定遺贈 | 非課税 |
| 包括遺贈(相続人・相続人以外とも) | 非課税 |
| 相続人以外への特定遺贈 | 課税される(土地・住宅:3%、非住宅:4%) ※土地・住宅の3%は軽減税率であり、適用期限があります |
前述のとおり、法定相続人以外の受遺者は相続税額が2割加算されるほか、以下の不利な扱いを受けます。
これらの税務上の負担増を総合的に考慮すると、法定相続人以外への遺贈を検討する際は、事前に税理士等への相談も含めた綿密な資金計画が不可欠です。
所有者不明土地問題を解消するため、2024年(令和6年)4月1日より「相続登記の申請義務化」が施行されました。この制度変更は、遺贈によって不動産を取得したケースにも適用されます。
相続(相続人への遺贈を含む)により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために所有権の移転があったことを知った日から3年以内に名義変更の登記申請をしなければなりません。
正当な理由なく期限内に登記申請を怠った場合、10万円以下の過料が科される規定が設けられています。さらに、2024年4月1日の施行日より前に発生した過去の相続や遺贈にも遡及して適用されます。この場合の起算点は「施行日(2024年4月1日)」と「取得を知った日」のいずれか遅い日からとなり、多くのケースでは2027年3月31日が期限となりますが、取得を知った時期によっては異なる場合もあります。名義変更を放置している場合は早急に対応が必要です。
3年以内に最終的な名義変更を完了させることが事実上不可能なケースを救済するため、「相続人申告登記」という簡易制度が設けられました。
これは、法務局に対して「自分は法定相続人の一人である」ことを簡易に申告し、登記簿にその情報を付記してもらう制度です。この申告により、ひとまず3年以内の登記義務を果たしたとみなされ、過料を免れることができます。
ただし、これはあくまで暫定的な措置に過ぎません。最終的に誰が不動産を取得するかが確定した場合には、その確定した日から再び3年以内に本来の所有権移転登記を行う義務があります。
遺贈登記は、通常の相続登記と比較して手続きの難易度が高く設定されています。その最大の理由は、登記申請の原則が「共同申請」であることにあります。
遺贈登記では、基本的に財産をもらう人(受遺者)と、亡くなった方の相続人全員が一緒に登記申請をする必要があります。受遺者が「登記権利者」、相続人が「登記義務者」の立場となります。
しかし、遺贈の性質上、本来は自分たちが相続できたはずの不動産を受遺者に渡す形となる相続人が、登記手続きにすんなり協力してくれる可能性は高くありません。相続人が一人でも協力を拒んだり、行方不明であったりすれば、登記手続きは頓挫してしまいます。
遺言執行者が指定されている場合、手続きが大幅に簡単になります。遺言執行者が「相続人全員の代理」として登記義務者となるため、法定相続人全員の協力や印鑑証明書の提供は一切不要となり、受遺者と遺言執行者の2名だけで登記申請を完了させることができます。
2023年(令和5年)4月1日からの法改正により、受遺者が法定相続人である場合は、受遺者が単独で登記申請できるようになりました。他の相続人の協力は不要です。なお、2023年4月1日より前に発生した相続についても単独で申請可能です。
| パターン | 申請人 |
|---|---|
| 受遺者が相続人以外 & 遺言執行者なし | 受遺者 + 相続人全員で共同申請 |
| 受遺者が相続人以外 & 遺言執行者あり | 受遺者 + 遺言執行者で共同申請 |
| 受遺者が法定相続人 | 受遺者が単独で申請可能 |
遺贈登記は通常の相続登記とは、添付書類の有効期限や戸籍謄本の収集範囲において違いがあります。
| 提出書類 | 遺言執行者がいる場合 | 遺言執行者がいない場合 (相続人全員と共同申請) |
|---|---|---|
| 遺言書 | 必須(検認済のもの、または公正証書) | 必須(検認済のもの、または公正証書) |
| 被相続人の戸籍謄本 | 死亡の事実がわかるもののみで可 | 出生から死亡までのすべての戸籍 |
| 被相続人の住民票除票 または戸籍の附票 | 必須 | 必須 |
| 登記済権利証 (登記識別情報) | 必須 | 必須 |
| 印鑑証明書 | 遺言執行者のもの(3ヶ月以内) | 相続人全員のもの(3ヶ月以内) |
| 受遺者の住民票 | 必須 | 必須 |
| 固定資産税評価証明書 | 必須(申請年度のもの) | 必須(申請年度のもの) |
| 遺言執行者の資格証明書 | 必須 | 不要 |
遺贈登記では戸籍収集の「量」は軽減される場合がありますが、遺言執行者が指定されていない場合は相続人全員の協力を得るという「人間関係と合意形成の手間」に直面します。遺言執行者の有無が手続き上の障壁の種類を大きく変える決定的な要因です。
遺言書がある場合の相続登記について、より詳しくは「遺言書がある場合の相続登記手続きガイド|必要書類、流れ、注意点を徹底解説」をご覧ください。
遺贈による不動産名義変更手続きに必要な費用は、大きく3つに分かれます。
| 費用項目 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 法務局に納付する国税。相続人への遺贈は0.4%、相続人以外への遺贈は2.0% | 評価額1,000万円の場合 相続人:4万円 相続人以外:20万円 |
| 各種証明書等の実費 | 戸籍謄本・住民票(1通数百円)、固定資産評価証明書、公正証書遺言の謄本、郵送料等 | 合計 数千円〜1万円程度 |
| 司法書士報酬 | 専門家に依頼する場合のサービス料金。案件の複雑さにより変動 | 10万円前後が目安 |
遺言執行者の指定がなく、受遺者が相続人以外の場合、相続人全員の協力(署名押印や書類提供)が必須です。しかし、遺贈により相続分が減少する相続人は登記に非協力的になりがちです。
このような状況では、家庭裁判所への遺言執行者選任申立てが解決策となります。利害関係人(相続人や受遺者)からの申立てで裁判所が遺言執行者を選任すれば、その執行者と受遺者のみで登記申請が可能となり、相続人個々の協力がなくても手続きを進められます。
遺言執行者について詳しくは「遺言執行者について」をご覧ください。
被相続人が生前に引っ越しや改姓をしており、登記簿上の名義人表示(氏名・住所)が最終の戸籍・住民票情報と異なる場合は注意が必要です。
通常の相続登記なら住民票の除票や戸籍謄本で変更履歴を証明すれば問題ありませんが、遺贈登記の場合は登記原因が「遺贈」となるため、被相続人名義の住所(氏名)変更登記を先に済ませる必要があります。
先に「住所(氏名)変更登記」を申請して登記記録を最新のものに変更し、その後に遺贈による所有権移転登記を行います。通常は2件の申請を連件としてまとめて提出します。この手続きを怠ると、法務局から取下げの指示が出て手続きが遅延する恐れがあります。
関連ページ:住所変更登記【引越し・住所移転】|氏名変更登記【結婚・離婚】
通常の相続登記では登記済権利証(登記識別情報)は不要ですが、遺贈登記の場合は共同申請となるため、登記済権利証の添付が原則必要です。
登記済権利証が紛失等で手元にない場合は、事前通知制度の利用などが考えられます。詳しくは「【紛失】登記識別情報通知を無くしたらどうする?(権利証がない!)」をご覧ください。
民法は、特定の法定相続人(配偶者、子や孫などの直系卑属、親などの直系尊属)に対して、遺言によっても奪うことのできない財産の最低保障枠である「遺留分(いりゅうぶん)」を認めています。なお、被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
高額な不動産を特定の人に遺贈する場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性が高くなります。遺留分侵害額請求を起こされた場合、受遺者は原則として「現金」で遺留分相当額を支払わなければならず、手元に現金がなければ遺贈された不動産を売却して資金を捻出せざるを得なくなります。
特定遺贈は原則としてマイナスの財産を引き継ぎませんが、遺贈される不動産自体に「抵当権」が設定されている場合(住宅ローンの返済が残っているなど)は複雑な問題が生じます。
抵当権付きの不動産を特定遺贈された場合、受遺者は不動産を取得できますが、ローン債務を自動的に引き継ぐわけではありません。法的にはローン債務は法定相続人が法定相続分に応じて負担することになります。しかし、不動産をもらえなかった相続人がローンを返済し続ける保証はなく、返済を滞納すれば銀行が抵当権を実行し、不動産が競売にかけられるリスクがあります。
遺贈による不動産名義変更を確実かつスムーズに実現するための最大の法的安全装置が「遺言執行者」という制度です。
遺言執行者とは、遺言の内容を具体的に実現(執行)するための広範な権限を持った人物です。遺言書の中で指定されている場合、または家庭裁判所から選任された場合、遺言執行者が「相続人全員の代理」として登記義務者となる権限を持ちます。
遺言執行者について詳しくは「遺言執行者について」をご覧ください。
遺贈による不動産名義変更は、通常の相続登記と比較して、戸籍類の収集範囲の判断、包括・特定遺贈の法的解釈、受遺者と相続人の関係性の整理、近年の法改正への対応など、極めて難解な実務判断が連続します。また、2024年からの相続登記義務化により、手続きの遅滞は過料の対象となるリスクも顕在化しています。
自身で平日に何度も役所や法務局へ足を運ぶ時間的労力、不慣れな手続きによる書類不備での差し戻し、手続きの誤りによる税務上のペナルティリスクを考慮すれば、専門家への委託は極めて合理的かつ安全な選択肢です。

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