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《この記事の監修者》
司法書士法人不動産名義変更手続センター
代表/司法書士 板垣 隼 (→プロフィール詳細はこちら)
最終更新日:2025年12月5日
離婚に伴い、自宅の所有名義を変更する手続きは、新たな生活を始める上で避けて通れない重要なステップです。この手続きは法務局への登記申請を伴いますが、そのタイミングが「離婚前」か「離婚後」かによって、課税される税金の種類や金額に違いが生じます。
特に、予期せぬ多額の税金、すなわち贈与税や譲渡所得税が発生するリスクを回避するためには、正確な知識に基づいた計画的な進行が不可欠です。本記事では、自宅の名義変更を検討されている方が抱える不安を解消するため、専門的な知見に基づき、タイミングごとの法的・税務上の違い、具体的な費用構造、そして実務上の最重要課題である住宅ローンへの対応策を詳細に解説します。
自宅の名義変更のタイミングは、課税の構造を変化させます。特に税制優遇の適用可否において、「離婚後」の「財産分与」として手続きを行うことが有利となる場合があります。
離婚届提出前に名義変更を行うと、夫婦間での財産の移転は、原則として「贈与」として取り扱われます。この「贈与」として扱われることによって、以下の二つの重大な税金リスクが発生します。
第一:贈与税の重い課税
財産分与と異なり、清算という名目がないため、家をもらう側(受贈者)に対し、年間基礎控除額(110万円)を超えた贈与額に対して、高率の贈与税が課税されます。自宅不動産の評価額は通常高額であるため、多額の贈与税が発生する可能性が高く、これは家をもらう側にとって重大な金銭的リスクとなります。
第二:不動産取得税
贈与を原因とする不動産の取得には、不動産取得税が原則課税されます。
※取得した家屋が一定の要件を充足する場合には、軽減制度を受けることができる可能性があります。
離婚が成立した後に名義変更手続きを行うことで、その登記原因は「財産分与」となります。財産分与は、婚姻中に夫婦で形成した財産の清算という性質を持つため、税務上、非常に優遇されます。
財産分与は、夫婦間における財産の公平な分配を目的としており、新しい所有者(財産をもらう側)に対して、贈与税は原則として課税されません。同様に、不動産取得税についても原則課税されないとされています。これにより、離婚前の贈与と比較して、受け取る側の税負担が軽減される可能性があります。
不動産を渡す側(分与者)には、その不動産の取得時価と分与時の時価との差額(譲渡益、キャピタルゲイン)に対して譲渡所得税が課税される可能性があります。これは、最高裁判所が、財産分与による不動産譲渡を「分与義務の消滅」という経済的利益を享受したものとして、資産の譲渡と見なす判断を示しているためです。
この譲渡所得税のリスクを回避するために不可欠なのが、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除」です。この特例が適用されると、譲渡益が3000万円以内であれば、譲渡所得税は実質的にゼロとなります。
この3000万円特別控除を適用するための必須条件の一つに、「離婚後に財産分与として居住用財産を譲渡すること」が含まれています。もし離婚前に名義変更を行うと、その行為は財産分与義務の清算目的とは認定されず、この控除が使えない状態で多額の譲渡所得税を課税されるリスクが発生します。
3000万円特別控除の適用要件として、親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないことという条件があります。
したがって、離婚により親族関係でなくなったことが要件となります。離婚前の名義変更では、まだ配偶者という特別の関係が継続しているため、この特例の適用を受けることができません。
| 項目 | 離婚前(原因:贈与) | 離婚後(原因:財産分与) | 実務上の判断基準 |
|---|---|---|---|
| 法的根拠 | 贈与(無償の譲渡) | 財産分与(清算的給付) | 協議書の記載内容と登記申請の時期 |
| 登録免許税率 | 固定資産評価額の2.0% | 固定資産評価額の2.0% | 課税原因が異なっても税率は原則同率 |
| 贈与税 | 課税対象(基礎控除超) | 原則非課税 | 財産分与の相当性が認められる限り |
| 不動産取得税 | 原則課税 | 原則課税されない | 財産分与が有利な点の一つ |
| 3000万円特別控除 | 適用不可 | 適用可能 | 渡す側の税負担回避に必須 |
名義変更に伴い発生する費用は、主に登録免許税(実費として法務局に納める税金)と、場合によっては譲渡所得税(渡す側に発生する可能性がある税金)に分けられます。
登録免許税は、不動産の名義を変更する際に、法務局に納付する国税です。財産分与を原因とする所有権移転の登記の場合、税額は固定資産評価額の2.0%(1000分の20)です。
この税額を算出するために必要な書類は、市区町村役場で交付される固定資産評価証明書です。評価額が大きいほど、登録免許税も高額になります。
重要な注意点:
登録免許税は、原因が「贈与」であっても「財産分与」であっても、税率は原則2.0%で同率です。しかし、この登録免許税の類似性だけを見て、「費用は変わらない」と誤解してはいけません。贈与税の課税の有無や不動産取得税の取り扱いなど、総合的な税負担において財産分与が有利となる場合があります。
なお、登録免許税と、登記手続きを代行する司法書士の報酬のどちらがいくら負担するかについては、当事者間の話し合い(離婚協議)で自由に決めることができます。
財産分与によって不動産を渡す側(分与者)は、その不動産の売却時と同様に、譲渡所得税の課税対象となる可能性があります。課税の仕組みは、不動産の取得費用よりも分与時の時価が高い場合に、その差額(譲渡益)に対して課税されます。
譲渡益が大きく、所有期間が短い場合は、極めて高額な税金が発生するリスクがあります。
離婚後に財産分与として手続きを行うことで、「3000万円特別控除」が適用可能です。この控除により、多くのケースで譲渡所得税は実質的にゼロとなり、渡す側の税負担を回避できます。
司法書士報酬は、不動産の評価額や案件の複雑性によって変動しますが、一般的な報酬の目安は、実費(登録免許税、証明書費用など)を除き、概ね数十万円程度が相場となります。
関連ページ:財産分与(離婚)による不動産名義変更の費用プラン
自宅の名義変更(財産分与による所有権移転)をスムーズかつ安全に進めるためには、事前の取り決めと、その根拠となる法的な書類の準備が最も重要です。
法務局が名義変更を認めるためには、その変更が「財産分与」という正当な原因に基づいていることを証明する書類が必要です。これが登記原因証明情報です。
離婚協議書(公正証書)に記載すべき事項:
名義変更の登記申請には、旧名義人(渡す側、登記義務者)と新名義人(もらう側、登記権利者)の双方が用意すべき書類があります。
旧名義人が実印を押印した書類に添付する印鑑登録証明書は、本人の意思確認を行う上で不可欠な書類であり、発行後3ヶ月以内のものが必要と定められています。
手続きにおいて、旧名義人との感情的な対立が継続している場合、実印の押印や印鑑証明書の提供を旧名義人が渋ると、手続きが遅延する可能性があります。印鑑登録証明書には有効期限があるため、手続きの遅延により証明書を再取得する必要が生じることもあります。
| 書類名 | 取得者 | 主な目的 | 備考・注意点 |
|---|---|---|---|
| 登記識別情報通知(権利証) | 渡す側(旧名義人) | 不動産の所有権証明 | 紛失時は代替手段で対応(費用や手間がかかる) |
| 印鑑登録証明書 | 渡す側(旧名義人) | 本人の意思確認 | 発行後3ヶ月以内のものが必要 |
| 住民票の写し | もらう側(新名義人) | 新しい名義人の住所証明 | 離婚で氏名が変更する場合は注意 |
| 固定資産評価証明書 | 市区町村役場 | 登録免許税額の算定根拠 | 当年度のものが必要 |
| 登記原因証明情報 | 協議書/公正証書 | 財産分与の根拠証明 | 協議書には分与内容を具体的に記載 |

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